眠る人 千早茜「なみまの わるい食べもの」#12
[第2・4水曜日更新 はじめから読む]
illustration:北澤平祐
七、八年ほど前のことだ。眠る人を見た。
家の寝室でも、通勤電車でも、公園の日当たりの良いベンチでもない。その人と私の間には、焼かれた分厚い肉があった。もう焼きたてではなかったが、カットされた断面はまだうっすらと赤く、皿では肉汁と脂が光っていた。
当時、流行っていた熟成肉の専門店だった。それも、わりと高級めの。壁の一面は冷蔵庫になっていて、まんべんなく脂肪のさした、一抱えほどもある肉塊がごんご