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もしローランサンが清少納言の『枕草子』を読んだら(文学から読み解く絵画) ナカムラクニオ

ゼロから1冊の本が生まれるまでのプロセスを、著者のナカムラさんが実験的に日記で公開していきます。#3
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ナカムラクニオ


 ずっと前からローランサンについては何か書いてみたいと思っていた。エコール・ド・パリを代表する画家として魅力的だし、人生も興味深い。何より『こじらせ恋愛美術館』のテーマにぴったりだ。「有名詩人(アポリネール)との恋、破局→ドイツ貴族と電撃結婚→スパイ容疑&離婚→女性との恋に目覚める→画家として大成功→家政婦を養子&恋人として幸せに暮らす」という生き様は、なんとも自由でかっこいい。

 ローランサンは日本で人気だが、彼女自身も日本が大好きだった。自宅には、自ら仕立てた日本風の屏風びようぶを飾っていたし、喜多川歌麿きたがわうたまろなどの美人画からも少なからず影響を受けていると思う。

 ちなみに、僕は何年か前から寝室にローランサンの銅版画を飾っているのだけど、どこか日本的な「余白の美」みたいなものが感じられて、とても気に入っている。

 しかし、いざ書こうとすると、これが思った以上に難しかった。

 ……そうだ、ローランサンが愛した文学から読み解いてみたらどうだろう? 実は、彼女は清少納言せいしようなごんの『枕草子まくらのそうし』を愛読していた。ローランサンの詩文集『夜の手帖』(『枕草子』ふうの詩文集)でも、『枕草子』について言及されているのだ。

 ローランサンは、日本の平安貴族である清少納言について「17世紀のフランスの貴婦人たちにかなり似ています」と書いている。彼女が読んだ『枕草子』は、キク・ヤマタによるフランス語訳版だとされる。キク・ヤマタ(山田菊)とは、日本人の父とフランス人の母を持つ文学者。ポール・ヴァレリーや藤田嗣治ふじたつぐはると親交があったので、ローランサンはその辺りの誰かから、この仏語訳版『枕草子』のことを知ったのかもしれない。

 いずれにしても、『枕草子』の存在は、ローランサンの画風に大きな影響を与えたのだと思う。彼女は、常に移ろいゆく季節、恋愛感情などのしみじみとした情緒を描こうとしていたように見える。淡い色彩の絵画を通じて、平安時代の儚い美意識「もののあはれ」を描こうとしていたのかもしれない。

『夜の手帖』には、ローランサンの創作のルーツを読み解くヒントもいろいろと書かれている。

 そういったヒントから読み解きながら、実際に自分の手で彼女の挿絵を描いてみた。すると、いろいろなことがよくわかった。詳しくは本の原稿に書いたのでそちらを読んでほしいのだけど、ローランサンは、少女時代から容姿にコンプレックスを感じ、自分を「みにくいアヒルの子」だと思っていた。コンプレックスを克服するために美しい世界を描き続けたようにも思える。夢のような絵を描くことで、人生を美化し、知性とエスプリで自分の過去を書き換えた……。

 そんなことを考えていると、ますますローランサンの描く「もののあはれ」な絵画たちが「いとをかし」と思えてくる。

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【「こじらせ恋愛美術館」の本づくり日記】
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