アンドロイドは電気書籍の夢を見るか(恋するダミー本) ナカムラクニオ
ゼロから1冊の本が生まれるまでのプロセスを、著者のナカムラさんが実験的に日記で公開していきます。#5
[毎月第2・4金曜日更新 はじめから読む]
信じられないかもしれないが、僕は本づくりに行き詰まったら新宿南口のキンコーズへ行く。
キンコーズは、コピーや製本ができるお店。ここで、ダミー本(試作本)を作るのだ。本文のページの背を強力なノリで綴じて、好きな紙を選び、表紙にする「くるみ製本」。小口(本の開く側)の断裁などをその場でやってくれるのがいい。紙も、試作の段階から、発売のイメージに近いものを触ることができる。表紙はたいてい、きめ細やかな滑らかさがある「マシュマロ紙」に刷る。それだけで、なんだか完成したような気分になる。
僕の場合、まず書きかけの「0稿」を、未完の状態で印刷し、製本してしまう。A4を半分のサイズに折って印刷すれば、A5版程度の冊子となり、イメージが沸きやすい。そして、そこに赤鉛筆でぐいぐい書き込みながら、「0稿」の次に「0稿-1」「0稿-2」という感じで改訂していく。改訂のたびに新たに製本して、さらに直していく、という作戦だ。
「書いてみたけど案外面白くないな……」とか「ここを追加すればもっと面白くできる」とか、いろいろな発見があるのだ。僕の場合、本の構成で重要なポイントは、①軽快なリズム感、そして、②グッとくるストーリーだと思う。
こうやって毎回、本を作るときは「ダミー本作戦」をおこなっている。製本された状態だと、他人に読んでもらいやすいので意見を反映させやすいし、付箋なども貼りやすい。紙を切ったり貼ったりもできる。好きな時に書き込める。バラバラに切り、順番を並べ替えたりするのも簡単だ。
世界では、色々なものが電子化している。でも、結局のところ書籍は、紙の手触りに刺激されて、心惹かれるもののような気がする。いくらアンドロイドが「AI(人工知能)」を駆使して素晴らしいイラストや文章を書いたとしても、最終的には人間らしいアナログ的な部分が大切だと思う。僕はたぶん、5年後も10年後もこうやって、ダミー本を作り続けるんだろう。
【「こじらせ恋愛美術館」の本づくり日記】
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