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第19話 クラウドファンディング、スタート!|ほしおさなえ「10年かけて本づくりについて考えてみた」

【140字小説集クラウドファンディング 目標達成!】
2022年の10月27日、「文字・活字文化の日」にスタートした140字小説集のクラウドファンディングは、無事最初の目標の100万円、そしてストレッチゴールの180万円を達成し、1月26日に募集を終了いたしました。
あたたかいご支援をいただき、ありがとうございました。
140字小説集「言葉の窓」の完成を楽しみにお待ちください!
https://motion-gallery.net/projects/kotobanomado

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活版印刷や和紙など古い技術を題材にした小説を手掛ける作家・ほしおさなえが、独自の活動として10年間ツイッターに発表し続けてきた140字小説。これをなんとか和紙と活字で本にできないか? 自主制作本刊行に向けての模索をリアルタイムで綴る記録エッセイ。
illustration/design 酒井草平(九ポ堂)

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1 文章作成と目標額の設定

 9月30日の埼玉新聞の取材をきっかけに、10月27日の「文字・活字文化の日」にクラウドファンディングをスタートすると決めたあと、すぐに制作に関わっている方たちに連絡し、見積もりをお願いしました。
 プラットフォームのmotion galleryにプロジェクトの内容を送ったのは10月5日のこと。その日のうちにmotion galleryから返信があり、数回のやり取りののち、掲載が決定。メールでプロジェクトスタートに必要な手引きが送られてきました。
 手引き(PDF)は「クラウドファンディングとはなにか」から始まり、全体の流れや目標の定め方、クラウドファンディングを成功させる方法など、設定に必要なもろもろの情報が詰まっています。
 motion galleryが最終チェックをおこなってからのスタートになるため、27日にプロジェクトをスタートするには20日までにすべての項目を整えなければなりません。さっそく設定に必要な項目を準備することにしました。

  • プロジェクトのタイトル

  • 目標金額

  • 期間

  • キービジュアル

  • 説明の文章と付随する画像類

  • リターン

  クラウドファンディングには、目標金額に到達したときのみ資金調達が実現するコンセプトファンディングと、目標金額に達しなくても集まった分だけ資金調達が実現するプロダクションファンディングの2種類があります。
 今回の企画は自主企画で、基本は私費で制作、クラウドファンディングでその一部を賄う、という趣旨でしたので、プロダクションファンディングを選びました。目標額に到達しなくても支援金を受け取ることができますが、言い換えれば到達しなくてもプロジェクトの実行を確約しなければならないプランです。
 わたしが考えたプロジェクトのタイトルは「和紙に活版印刷した140字小説の作品集を作りたい」。目標金額は100万円で、期間は3ヶ月でした。制作費が100万円では足りないことは分かっていましたが、今回のプロジェクトは制作費の一部を賄うという目的だったので、キリのいい金額に設定しました。
 キービジュアルについては、そのときはまだ試し刷り以前で、印刷したものはありませんでしたし、活字の写真の方がインパクトがあるだろうと考え、結束した活字が並んだ状態の画像を使用することにしました。
 その後、説明用の文章として、これまでの経緯やプロジェクトに携わるメンバーの紹介、プロジェクトの目的などをまとめていきました。この連載に書いてきた内容を盛り込んで経緯を書いてみるとけっこうな字数になってしまい、まずいまずい、こんなに長かったらだれも最後まで読んでくれないぞ、と思い直し、あわてて4分の1くらいの長さに削りました。
 しかし、この作業はわたし自身の考えをまとめるためにもとても有益でした。わたしの活動を知らない人にこのプロジェクトの意味を伝えるにはどのようにすれば効果的なのか、きちんと考えるきっかけにもなりました。「このプロジェクトで実現したいこと」として、わたしは以下の3点をあげました。

  1.  紙と文字が主役の本を作る。

  2.  かつての本作りの姿を伝える。

  3.  自分の作品と140字小説という形式を世に問う。

 2の本作りについては、凸版で印刷するというだけでなく、活字組版であることを訴えることにしました。わたしにとっては凸版で刷ることによるへこみや滲みと同じくらい、活字組版によって生まれる微妙な揺らぎが大切であることを自覚しました。
 さらに、1、2だけでなく3を加えました。自分の作品をアピールするのは気恥ずかしく、どうしてもそれ以外の要素ばかり推してしまうのですが、これが自分の作品集であることも大事な要素だと思ったからです。
 最近は140字小説の新作を書くことはあまりありません。もっと大きな小説を書くことに注力しているというのもありますが、自分が140字小説でできることはやり切ったような気がしています。だからこそ集大成としての作品集を出したいと思いました。
 また、140字小説はTwitterを離れても成立する表現形式だと世に問いたい気持ちもあります。だれもが取り組みやすく、小説の入門として優れた形だと感じるところもあり、これからは自分で書くというより、新しい書き手を応援する方に力を入れたいと考えているからです。星々の140字小説コンテストもそうした意図で続けています。
 SNSは刻々と流れていくものであり、それが良さでもありますが、このコンテストでは長く人の手元に残したいものを選んでいます。読んですぐにわかる面白さだけでなく、読み終わったあとになにかが心に残る作品です。入選作を読んでもらえば、どういう作品を評価しているか伝わると思いますが、選者であるわたしが作品集を出すことで、星々の目指している方向を示すことにも繋がると思いました。



2 リターンの設定

 いちばん苦労したのはリターンの設定です。リターンとは、ご支援いただいた方への返礼品で、項目はほぼ決まっていました。

  • 書籍特装版

  • 書籍通常版

  • サンクスカード

  • 印刷博物館でのワークショップ

  • 完成記念トークイベントのチケット

  以上の項目を組み合わせて複数のセットを作れば良いのですが、問題はその価格です。本が完成して販売する際に価格を大きく変更するわけにはいかないので、ここでしっかり原価を計算して、書籍特装版と書籍通常版の価格を決めなければなりません。
 それで、まずは制作費の見積もりを取ることが必要でした。未確定の要素も多々あるため、制作に関わる方々へは「ざっくりとした見積もりでOK、わからない部分は多めに見積もってください」と伝えました。
 1週間ほどで皆さんから返答をいただき、計算してみたところ、プロジェクト全体でかかる費用は200万強。そこから特装版、通常版のそれぞれの1冊あたりの原価を計算していきます。
 自前のオンラインショップで販売するだけなら、手数料は10%ほどですみますが、お店に委託するときは、5掛けから7掛けという条件になります。販売価格1,000円の場合、こちらにはいるのは500円から700円ということです。
 店舗に送る際の送料なども考えなければなりません。原価=販売価格にすれば赤字になってしまいます。とはいえ、書籍としてはかなり高額ですから、できるかぎり価格を抑えたい。
 などなど、数日悩んだ結果、販売価格は特装版12,000円、通常版7,000円と決めました。

 印刷博物館でのワークショップの内容については次の項でくわしく説明しますが、特別なワークショップなので、リターンでは同じく特別感のある特装版とのセットのみにすることにしました。
 ワークショップやトークイベントにかかる費用はもちろん、すべてのリターンに付くサンクスカードも西島和紙工房の手漉き和紙を使用することを考慮し、それぞれのリターンの額を決定しました。

 制作に関わる方たちからのメッセージやプロフィール写真も受け取り、なんとか文面をまとめ、20日に申請。翌日にはmotion galleryからのフィードバックがありました。
 いただいたコメントの中には、書式の間違いへの指摘や、プロジェクトの終了日、リターンの上限数の設定などに関するアドバイスのほか、魅力が伝わるようにプロジェクトのタイトルをもう一工夫してみてはどうか、という提案もありました。
 例として挙げられていたのが「10年間書き続けてきた140字小説を和紙に活版印刷し、1冊の本にして届けたい」。少し言葉が添えられただけなのに、わたしがはじめに考えた「和紙に活版印刷した140字小説の作品集を作りたい」にくらべて「届けたい」という熱意がしっかり出ている気がして、こちらをそのままプロジェクトタイトルに使うことにしました(motion galleryさま、ありがとうございます!)。

プロジェクトのキービジュアル

 その後も細かい修正をおこない、予定通り27日早朝にクラファンスタート。その日の埼玉新聞には大きく特集記事も載りました(埼玉新聞さん、ありがとうございます!)。

埼玉新聞の「文字・活字文化の日」の特集紙面の一部

 クラファンがはじまるまでは支援してくださる方がいるのかと心配でなりませんでしたが、初日のうちに何人かの方からご支援をいただきました。むかしからの友人・知人、Twitterでお見かけしている方、まったく知らない方……。埼玉新聞の特集で取材してくださったライターの阿久戸あくと嘉彦よしひこさんのお名前もあり、たいへん勇気づけられました(皆さま、ありがとうございます!)。



3 特別なワークショップ

 リターンに含まれている印刷博物館での本作り体験ワークショップについては、夏前から密かに印刷博物館と相談を進めていました。
 担当は木谷きたに正人まさとさん。館内の「活版工房」の業務に携わり、「活版印刷三日月堂」とのコラボ展の企画を持ちかけてくれた大恩人です。アイディアが豊富で、三日月堂展の際もさまざまなご提案をいただきました。
 木谷さんは美大出身で、毎年年末にご自分でデザインし、活字で印刷したスタイリッシュなカレンダーを送ってきてくださいます(実は「紙屋ふじさき記念館」シリーズに登場するモリノインクの関谷は木谷さんがモデルです。本人には内緒ですが)。

木谷さんがデザインされたカレンダー

 本は3月末完成の予定ですが、作業状況によっては先に延びる可能性もあります。しかし、印刷博物館全体の予定もありますし、クラウドファンディングのリターンにするためにはワークショップの日程を決める必要がありました。
 そこで、ワークショップの開催は3月18日(土)、19日(日)と決め、本が完成していてもしていなくても実施することに決めました。この日までに本が出来上がっていれば会場でお渡し、完成していない場合は、本はあとでお送りする、という形です。
 作業を午前午後に分けた1日コースとすればゆったりできますが、印刷博物館周辺には昼食をとれる場所がありません。参加者の負担を考え、時間は午後のみ(13時から16時の3時間)で設定することにしました。

打ち合わせの様子。左が著者、右が木谷さん

 木谷さんとの相談では、今回のワークショップは「ふつうのワークショップではできないちょっと大掛かりなことをしましょう」ということになっていました。
 活字を拾って組むというのは、はじめての人にとっては予想以上に時間のかかるものです。活字の周りにも込めものを入れなければなりませんし、今回設定した時間では、ふだんのワークショップだとポストカードや栞に1行くらいの文字を並べる程度の内容になってしまいます。
 どうしようかと悩んでいると、木谷さんから、今回は「午後いっぱい(3時間程度)を使い、数人のグループで分担して140字小説1編を本の形にするのはどうか」というご提案がありました。

  ほしお 作品ひとつを本の形に?
 木谷さん そうです。たとえばですね、ひとつの作品を1行ずつに分けて、1ページに1行ずつ印刷するんです。分け方はまたご相談しなければならないですが。
 ほしお なるほど、絵本みたいで面白そうですね。

  わたしは140字小説の途中に改行を入れません。Twitterでは改行も1文字にカウントされるので、できるかぎり文字を有効に使うためにそういう形にしていて、140字小説活版カードでも、今回の本でも、改行を入れない形で印刷してきました。
 でも途中に改行を入れれば詩に近い形になり、また違った印象になりそうです。1ページに1行ずつ入れていけば、絵本のような印象もあります。表紙や途中のページに小さな絵を入れれば、より絵本らしくなるように思いました。

 木谷さん 印刷工房のスペースや印刷機の台数、指導するスタッフの人数を考えると、一度のワークショップの参加者の上限は8名です。140字小説1編を8つのパートに分解すると、長い短いはあっても、だいたい1行におさまると思うんですよね。
 ほしお じゃあ、ひとり1ページを担当して、8人で1編を印刷するような形でしょうか?
 木谷さん いえ、たぶんひとり2行分くらいはいけると思うんです。だから、8人1組ではなくて、8人を4人ずつの2チームに分けて、1チームで1編。合計2冊分を印刷できるんじゃないかと。それで、その日作った2冊を全員でシェアできるように、人数分を印刷して、自分の分として2冊を製本すれば、ひとり2冊ずつ持って帰れるじゃないですか。
 ほしお 2チームに分けて、4人で1編の印刷というのは良いように思いますが、3時間の中で2冊製本するわけですよね。時間的に可能でしょうか? そもそも、どういう綴じ方にしますか?
 木谷さん そこなんですよね。三日月堂の番外編小冊子のときのような中綴じにすることも考えたんですが……。

三日月堂番外編小冊子「星と暗闇」。こちらは販売用に美篶堂が製本したもの。
印刷博物館でも同じ綴じ方でワークショップを行いました
三日月堂番外編小冊子「星と暗闇」の綴じの様子

 印刷博物館とのコラボ展示の際、活版印刷三日月堂の番外編「星と暗闇」を活版で印刷した小冊子を作成しました。博物館のミュージアムショップで販売したのは、つるぎ堂で印刷し、美篶堂みすずどうで製本したものでしたが、実はコラボ展の期間中に、小冊子を製本するワークショップも開催したのです。
 番外編小冊子は通常の本と同じように、大きな紙の両面にページを面付けし、紙を折って製本する方法を取りました。小冊子は文庫サイズ。つるぎ堂の大型印刷機では、片面8ページ、両面で16ページの面付けが可能で、この形で印刷されたものを使って、紙を折って糸で綴じ、断裁する、というワークショップをおこなったのです。
 しかし今回は、参加者に印刷までおこなってもらうため、小型の手動式印刷機を用いることにしました。印刷博物館の工房のワークショップで使っているアダナプレスという卓上型の印刷機です。きれいに刷れるのは、ポストカードサイズくらいまでです。

ワークショップで使用する作業ブース。左側の赤い機械がアダナプレス

 木谷さん アダナプレスを使うので、大きな紙には印刷できません。A5の紙を使って1ページずつ印刷して、ふたつ折りにすると文庫サイズになりますから、その形にしようと考えてます。
 ほしお 今回の作品集とだいたい同じ大きさですね。
 木谷さん そうですね、さらに、当日文選(棚から活字を拾うこと)、組版、印刷、製本までおこなって作業を完結させるとなると、両面印刷はできないので……。
 ほしお インキが乾かないですよね。
 木谷さん 少なくても1日はおかないと、擦れて汚れが出てしまいますから。そうなると、印刷は片面になり、製本も今回の作品集と同じように袋綴じにするしかないんです。袋綴じではなく、印刷面を内側にしてふたつに折り、裏を糊付けする方法もあるんですが、製本したという実感を持ってもらうには、和綴じにするのが良いかと。
 ほしお 和綴じというと、四つ目綴じでしょうか?
 木谷さん そうですね、オーソドックスですが、四つ目綴じがいちばんいいかと。

木谷さんが四つ目綴じで作成したワークショップ冊子の試作品
※表紙の紙やタイトルは実際に作るものとは異なります

 ほしお 作品集とはまた違った雰囲気になりそうですし、綴じ方はそちらで良いと思うのですが、未経験者が時間内に2冊製本できるでしょうか。
 木谷さん そこなんですよねえ。個人差もかなりあると思うんですが、はじめての方だと2冊製本できない人もいるかも……。
 ほしお そしたら、1編1冊にするのではなくて、2編で1冊にまとめるのはどうでしょう? テーマ的に共通する2編を選んで、ひとつのタイトルをつけて、お話番号の扉をつけて2編収録するとか。
 木谷さん そうですね、それならページ数も増えて本らしくなりますし、製本は1冊ですみます。その形にしましょう。

 その後さらに相談して、ひとり1冊では物足りないので、2編はいった小冊子を2冊作成。時間が足りない人は、1冊のみ完成させたら材料を持ち帰って家で完成させることになりました。木谷さんの方で工房での作業を考え、以下のような形に決まりました。

  • 140字小説を1話4名×2チーム、2話がはいった小冊子を作成。

  • 片面印刷で、製本は和綴じ。

  • 使用活字は16pt(タイトル名)、12pt(本文)、8pt(奥付)。

  • 1名2行文選し、組む。

  • ひらがなは各机に活字を1箱ずつ準備して、机で文選。

  • 漢字は一般体験用の活字棚と工房の奥にある馬棚から文選。

  • 印刷はアダナプレス(小型の手動式印刷機)でおこなう。

 木谷さん これで、文選、組版、印刷、製本と、本を作る作業を一通り体験することができて、帰りには成果物をお持ち帰りいただくことができます。
 ほしお なるほど、それは素晴らしいですね! 小さいながらも、本作りの一連の流れをすべて体験できるわけですね。
 木谷さん あとはデザインをどうするかですね。飾り罫などでシンプルに作ってもいいけれど、心当たりがあれば、挿絵を入れるのも素敵ですよねえ。工房にも製版機があるので、イラストをいただければ凸版を作ることもできますから。

  挿絵と言われて、すぐに思いついたのがゴム版画作家の花松あゆみさんでした。大きな作品も制作されていますが、ゴム版画の原画をリソグラフ(シルクスクリーン印刷機)で印刷したZINEも多数作られていて、独特の雰囲気が人気の方です。
花松あゆみさんHP:http://ayumihanamatsu.main.jp

花松さんのZINE

 童話の挿絵のような雰囲気もあって、今回の小さな絵本にも合っていると思いましたし、木谷さんからも、この画風なら凸版にしても問題なさそう、という返答をいただきました。さっそく花松さんに連絡し、スケジュールや謝礼などをお伝えしたところ、花松さんからも承諾のお返事をいただくことができました。



4 お話選びと挿絵、表紙について

 挿絵を頼むとして、まずはお話を決めなければなりません。2編1セットにするわけですから、共通のテーマを持ったものにしたいと思いました。また、このプロジェクト全体のことを考えると、本にまつわるものが良いのではないか、と思いました。
 そこで、今回の作品集に入れる予定のものから、本にまつわるものを洗い出し、ワークショップにふさわしい2編として、604と759を選びました。
 全体のタイトルは「本の物語」。作品を1ページごとに分解した形にすると、以下のようになりました。

604
本のなかには猫が一匹住んでいる。
ページからページへ音もなく移動し、
人がその姿を見ることはない。
日なたで本を読んでいると
にゃあという声が聞こえることがあるが、
その声を聞くとみな眠って、声のことは忘れてしまう。
猫は文字を読まない。
文字があることを気にも留めず、本のなかで暮らしている。

ほしおさなえ 140字小説 その604

759
本とは遠い星の光のようだ。
手が届かなくてもきらきらとかがやいて、
僕らの心の井戸を照らす。
遠い遠い場所から長い時間かけて飛んできて、
井戸の底の水に落ちる。星がなくなってからも。
本とは孤独な星の光のようだ。
星に行けなくても、星にさわれなくても、
僕らは星の光を浴びて、心に星の光を宿す。

ほしおさなえ 140字小説 その759

  花松さんにお話を送り、どのようにイラストを入れるか相談したところ、ひとつひとつのお話の扉に挿絵を置き、ワンポイントを何点かいただくことになりました。

 表紙については、以前から考えていることがありました。紙の商社・中庄株式会社が主催する製本のワークショップに参加したことがあるのですが、そのワークショップで世界のいろいろな国の紙から自由に表紙用紙を選ぶことができ、とても楽しかったのです。
 中庄株式会社の刑部ぎょうぶわたるさんは「紙屋ふじさき記念館」の取材でもお世話になった方で、相談してみたところ、希望の紙を言っていただければ提供できます、とのお返事が!
 それで、どんな紙があるのか見に中庄株式会社におもむき、サンプルをいただいてきました。
中庄株式会社HP:https://nakasho.com/

中庄さんが扱っている紙のサンプル

 アジア、ヨーロッパ各国で作られた素敵な紙がたくさんあり、見ているだけでも心が躍りました。このなかから何種類かを選んでワークショップ当日に提示し、参加者に好きな紙を選んでもらう。紙選びにもかなり時間がかかってしまいそうですが、ほんとうに特別なワークショップになりそうで、わくわくしました。



5 ストレッチゴールへ!

 ということで、ワークショップの内容も少しずつ固まってきました。
 クラウドファンディングの方も好調で、ワークショップ付きのプランはすぐにSOLD OUTになり、開始2週間ほどで当初の目標額の100万円を達成することもできました。
 クラウドファンディングではほとんどの方が特装版を選んでいて、このままだとクラウドファンディングだけで特装版が完売してしまう、と考え、当初100部の予定だった特装版の部数を200部に増やすことに。製作費が増えることもあり、次の目標(ストレッチゴール)として180万円を設定しました。
 ストレッチゴールの設定にあたり、サンクスカードにももう一工夫加えることにしました。手漉き和紙に本のタイトルと簡単なメッセージを印刷する予定だったのですが、サンクスカードにも140字小説を印刷しようと考えました。サンクスカードに作品集には含まれていない140字小説を印刷するのです。
 通常版では表紙も本文も機械抄きの和紙ですから、作品集には含まれていない別のお話を選び、手漉き和紙に印刷することで、支援してくださった方全員に手漉き和紙に活版印刷した140字小説を届けることができ、サンクスカードとしてもより価値が出るのでは、と考えました。
 このカードをどのような形にするか、紙やインキの色をどうするか。決めなければならないことがまたひとつ増えましたが、せっかくの機会ですから、できることはすべてやろう、と思いました。

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連載【10年かけて本づくりについて考えてみた】
毎月第4木曜日更新

ほしおさなえ
作家。1964年東京都生まれ。1995年「影をめくるとき」が群像新人文学賞小説部門優秀作に。
小説「活版印刷三日月堂」シリーズ(ポプラ文庫)、「菓子屋横丁月光荘」シリーズ(ハルキ文庫)、「紙屋ふじさき記念館」シリーズ(角川文庫)、『言葉の園のお菓子番』シリーズ(だいわ文庫)、『金継ぎの家 あたたかなしずくたち』(幻冬舎文庫)、『三ノ池植物園標本室(上・下)』(ちくま文庫)、『東京のぼる坂くだる坂』(筑摩書房)、児童書「ものだま探偵団」シリーズ(徳間書店)など。
Twitter:@hoshio_s

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