賽助×渡辺優【並行宇宙を生きるふたりのぼっち 全5回】 (2)ぼっちマウントの2パターン
チラシの裏にでも書いとけよって
──渡辺さんは、『並行宇宙〜』収録の住野よるさんとの対談で、初めて読んだエッセイがさくらももこさんの『もものかんづめ』だと語っていますね。
渡辺 そうですね。小学校の図書室で読んだ気がします。あれが最初だったので、エッセイって笑いを取らなきゃいけないものだと思っていました。
賽助 僕も学校の図書室で読んだ気がする。
──今回、初のエッセイ連載にあたり、おふたりは何か気負ったりしましたか?
渡辺 それ、人の話をすごい聞きたいです。
賽助 僕はさほど気負いはなかったんですけど、途中からかなりエピソードを探しましたね。実家に帰って、子供の頃の写真を見たりとか……兄の写真はたくさんあるのに僕のはすごく少ないのを改めて確認して、悲しかったな。渡辺さんはどうだったんですか。
渡辺 連載となったときは、私のエッセイなんて誰が読むんだという気持ちが大きかったんです。チラシの裏にでも書いとけよ、って思われるんじゃないかと。でも書評家の先生とお話しする機会があって、エッセイも広い意味ではフィクションだから面白おかしくうそを書いてもいいと言われて。なるほど、エッセイ的な創作をするつもりで書いてもいいのかなと勇気が出ました。
賽助 なるほど。
渡辺 でも後半はネタがなくて、生活しながら何かしら発生しないかなと思って生きていました。
ラーメン一蘭みたいなシステムになればいいのに
賽助 僕も、自分から体当たりでぶつかりに行かなきゃという感じでした。それで、占いとポケモンの〈リアル脱出ゲーム〉に行ったんですね、ひとりで。
渡辺 私、その話を読んで、負けたと思いました。「ぼっちマウント」じゃないですけど、勝ってると思ってた。3人で活動していらっしゃるし、演劇やっていたとあるし、絶対私のほうがぼっちだと。でもひとりで脱出ゲームに行くのには負けました。
賽助 それは僕が勝ったんですかね……? 判定が難しい(笑)。でも行ってみて改めて思いました。ひとりで行くところじゃない。ふつうは未経験だったら誰かと一緒に行って経験を積むみたいで。ちょっと、やり方間違えた。
渡辺 私はエッセイの「仮想現実」で書いたVR体験も、昔の職場の人たちと一緒に行ったんですね。でもひとりで来ている人もちらほらいて、負けたと思った。
賽助 VR面白いですか。行ったことないんですよね。
渡辺 面白いですけど、ひとりじゃあまり面白くないかもしれない。一緒に頑張って敵を倒すみたいな感じなので。
賽助 多いですね。世の中には、誰かと行くべきものが。
渡辺 楽しそうですよね。
賽助 そうなんですよ。誰かと行くやつって全部楽しそう。ラーメン屋の一蘭みたいなシステム(※注)で、ひとりでも楽しませてもらえたらいいんですけどね、なかなかそうはいかない。
渡辺 一蘭のシステムいいですよね。
賽助 あれはいいです。落ち着く。
※注:のれんで厨房と、ついたてで隣席と仕切られた「味集中カウンター」が有名。
ぼっちマウントの2パターン
渡辺 『今日もぼっちです。』に書かれていたぼっちマウントが不毛だという話は、なるほど確かにと納得しました。人に戦いを挑むのはやめようと思います。
賽助 けっこう言われることがあるんですよね。
渡辺 おまえなんか、ぼっちじゃないぞと?
賽助 そう。おまえは3人で活動してるじゃないか、絶対俺のほうがぼっちだと。気持ちは分かるんですよね。僕も20代後半でずっと引きこもっていたときに、芸能人の方が「ぼっちです」みたいなことを言っていると、「いやいや、華やか!」と思いましたもん。
──渡辺さんの言うぼっちマウントは、「どちらがぼっち強者か」というニュアンスで、賽助さんが仕掛けられてきたマウントともまた違う方向ですよね。
賽助 うん。より孤高のほうが勝ちみたいな。ぼっちでありたい方向ですね。
渡辺 ひとりでどこまで戦えるのか。
──ぼっちの勝ち負けの話にもつながるんですが、世間一般にぼっちというと、「寂しい」といった不幸なイメージで語られることが多いですよね。でも賽助さんは、ぼっちをすごく前向きにとらえている印象です。ぼっちであることを、ご自身ではどう捉えてらっしゃいますか?
賽助 僕はエッセイとか、誰かに向けてしゃべる「雑談」みたいな媒体があるから、容認できている部分もありますね。誰にも言わずに面白くもできずに、ぼっちであり続けたら、「楽しいです」みたいな感じになれていたかどうか……自信ないです。自分はこうだからしようがないみたいな、ちょっと諦め半分もあるのかな。
渡辺 向き、不向きみたいなものですね。
【並行宇宙を生きるふたりのぼっち 全5回】