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第7回 犬と賞、メッシのほかにもたくさんいます名優犬 姫野カオルコ「顔を見る」

幼い頃から人の顔色を窺うと同時に、「顔」そのものをじーっと見続けてきた作家・姫野カオルコ。愛する昭和の映画を題材に、顔に関する恐るべき観察眼を発揮し、ユーモアあふれる独自理論を展開する。顔は世につれ、世は顔につれ……。『顔面放談』(集英社)につづく「顔×映画」エッセイを、マニアック&深掘り度を増して綴る!
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 パルム・ドール賞は、カンヌ映画祭における最高賞。
 パルム・ドッグ賞は、これをもじったもの。

 こちらの賞の2023年の受賞犬は、続いてアカデミー賞VIP(Very Important Pup)賞も受賞した。名はメッシ。授賞式に出席したふうのニュース画像が話題になっていた。
 *式の前に撮影して中継映像に組み込んだ*

 話題になったことで彼の、『落下の解剖学』※1でのスヌープ(役名)の力演は、多くの人に注目してもらえることと安心し、今回は『イニシェリン島の精霊』のモースあたりから、名優犬についての話を始めたい。
 *動物もの、犬を見せることが主体の映画は除く*

 二作を、作中での動物の使い方だけについて比較するなら、『イニシェリン島の精霊』のほうが巧い。
 モース、メッシ、ともにボーダー・コリーである。知能が高いことで有名な犬種。

 モースは作中ではサミー(役名)を演じた。
『イニシェリン島の精霊』は先述のとおり、動物が効果的に使われた映画である。

 黒ロバのジェニーちゃんの無知のすなおさと、犬のサミーの聡明な気配りの対照が、いつも分厚い雲のかかる離れ島の光景に縫い込まれ、見手みての胸にしみいる。

 バイオリン愛好家の爺さんから絶交された八の字眉の男。二人がラスト近くで口論を始めそうになると、犬のサミーがすみやかに大きなハサミをくわえるシーンに、息をのんだ人は少なくあるまい。

「やめて、もう指は切らないで」とサミーはハサミを爺さんから遠ざけるべく、それを銜えて部屋の外に出ようとする。

 このシーンを、「また指を切るのに使うんだ」とサミーは判断してハサミを持ち出したのだと見た人もいるかもしれない。つまり、ロバのジェニーちゃんの無知と同じように、聡明なサミーもまた、無垢なる浅い判断をしたのだと。

 見手みての感じ方によって、微妙に見え方が変わるところが寓話ならではで、この映画、ヘタな撮影をしたら、がんこじじぃとほがらか兄ちゃんの、ワケのわからん喧嘩話になるところを、すばらしいロケ撮影によって、各国の〈トニオ・クレエゲル〉たちが共鳴しやすい寓話に仕上がっている。

『イニシェリン島の精霊』の映画情報。ポスターにモースの写真あり(映画.com)。

 モースは、この映画の動物トレーナーを務めたリタ・モロニーさんの、じっさいの飼い犬だそう(ロバのジェニーちゃんも彼女が演技指導した)。

 映画スタッフのじっさいの飼い犬が名演技を見せてくれることは、よくあることだ。

 40年来、甚だ勝手に師と仰いできたアキ・カウリスマキ監督の作品では、彼の飼い犬がいつも、実にいい味を出す。

 ハリウッドの商業映画(的系統にある映画)とは一味ちがった、「素人さんの演技」なのだが、彼の映画に、犬はなくてはならない存在と言っても過言ではない。

 『浮き雲』の哀愁を体現したかのような犬。『パラダイスの夕暮れ』での、男のつぶやきを象徴するかに犬が画面右から左にしゅーっと駆ける一瞬のシーン。

 とりわけ『過去のない男』のハンニバルは、画面に映るだけで、この映画の妙味を出している。

 ハンニバルなどという豪傑な名前(役名)の犬だから、いったいどんな強面こわもてのピットブルやチベタンマスチフが出てくるのかと思いきや、どうということのない車に乗った、どうということない雑種がきょろきょろしている。
『過去のない男』という映画の、いや、カウリスマキ監督映画全般に通底する静かなおかしみを代表するかのようなシーンである。

 この映画にハンニバル役で、また、ほかの映画にもチラ出●●●している雑種の名は、タハティ。カウリスマキ監督のじっさいの飼い犬である。

 犬の顔(犬のルックス)を見る、という行動をするにあたり、私が胸をわしづかみにされるのは、こういう、犬種不明の、いかにも雑種なやつだ。

『過去のない男』の映画情報。ハンニバル役のタハティの画像あり(映画.com)。

 では雑種に限って先を続けると、ウルトラ有名な雑種が映画界にはいる。俳優犬史上に燦然と輝く雑種犬、それはヒギンスとその娘ベンジーン。

 パルム・ドッグ賞は、歴史あるカンヌ映画祭開催年からあったわけではない。2001年に、イギリス人ジャーナリストのトビー・ローズの企画で始まった。

 このため、ヒギンス、ベンジーンの父娘は受賞を逃した。まことに残念。
 同じハリウッド映画出身でありながら、この賞の設立20周年記念である「パルム・ドッグ of パルム・ドッグズ」はアギーに持っていかれてしまった。

 アギーは、『アーティスト』に出演したジャックラッセルテリア。雑種ではない。

 『アーティスト』は見たあと感●●●●●のいい映画であったし、アギーも芸達者なところを見せていたが、主演作数、演技力、それに知名度からすれば「パルム・ドッグ of パルム・ドッグズ」賞は、

 「そりゃあヒギンスとベンジーンでしょう」
 と言いたい。個人的には。

 ヒギンス、ベンジーンと本名を言ってもわからない(日本人がたぶん多い)だろうが、役名を言えば昭和生まれなら、だれもが知っているはず。じゃーん、役名はベンジーだ。うす茶系の雑種。

 *ベンジーと聞けば、そのガールフレンドの役名まで、昭和生まれなら知っているはず。役名はティファニー。白いマルチーズ。日本での人気は彼女のほうが高かったかな。*

 ヒギンスの飼い主は、ドッグ・トレーナーであり動物愛護活動家のフランク・インさん。

 フランク・インさんは知らずとも、オードリー・ヘプバーンは知っておろう。これは明治大正昭和平成、どの生まれでも。
 
 オードリー・ヘプバーンの代表作の一つ『ティファニーで朝食を』で、寝ている彼女の背中にタッチして起こしたり、雨の中でのキスシーンで男女の胸の間にむぎゅうと挟まれている猫がいたであろう?

 あの猫はオランジーといい、フランク・インさんの演技指導での出演である。
 *ネコ科では『アダムス・ファミリー』に出てくるライオンも彼と奥さんが演技指導した*

 インさんはカリフォルニア州の保護犬センターで、殺処分寸前の雑種を引き取ってきた。それがヒギンス。このときのことを語っているインさんの記事を、むかし朝日新聞で読んだ記憶がある。

 「アメリカン・コッカー・スパニエルとプードルなどを主体にした雑種だろうと思いました」
 みたいなことを言ってらした。

 1980年代の、40年以上も前の記事なので、克明に再現できないのは申しわけないが、インさんが言うに、ヒギンスは、さまざまなアクションを、すぐにおぼえたという。

 彼(ヒギンス)をアメリカで有名にしたのはTVの『ペチコート・ジャンクション』(アメリカでは'64~'70放送)。
 日本では『ペチコート作戦』と、はじめは改題されて、'64の冬~秋だけに放映された(ただし私は見ていない。放映時刻に我が家ではNHKが選ばれていたため)。

 このころのTVは、日本でもそうであったように、家族みんなそろって、笑いながら、あるいは善良の涙を流しながら、見られていた。そんな時代のTV番組にずっと出演していたヒギンスはアメリカの国民的俳優犬であったことだろう。

 概して犬は高所恐怖症ぎみであるにもかかわらず、ヒギンスははしをのぼれた。高い所から低い所に鉤付かぎつきロープをたらして、荷物をひっかけ、それを引っ張りあげられた。箱を開けて閉めるなどは朝飯前で、退屈そうにあくびをする、銃で撃たれて倒れるなどの「演技」も、インさんが言うに、すらすらこなし、1975年、推定17歳没。

 『ベンジー(シリーズ1)』をワールドワイドに大ヒットさせて亡くなったことになる。

 私はよく「子は異性親に似ることが大半」と言うが、犬もそうなのか、ヒギンスの娘ベンジーンがこれまた、父の才能をそっくり受け継いだ。

 人間界には「しょせんは親の七光の二世タレント」と陰口を叩かれる芸能人が大勢いるのに、ベンジーンは、才能を受け継いだうえに、やや受け口(に見えるような口元)がご愛嬌だったお父さんより美形の美犬。顔と耳の部分の被毛の、うす茶とこげ茶のちらばりが、訴えかけるような愛くるしい瞳をもっともきわだたせる按配になっている。

 『ベンジーの愛(シリーズ2)』からは、娘さんがベンジーをっている。悪役ドーベルマンの攻撃をかわすアクションが軽快。

 『がんばれ!がんばれ!ベンジー(シリーズ4)』では赤ちゃんクーガーを口に銜えて運んで助けるすがたがけなげ。

 だが一般観客●●●●をして、ベンジーンの名演技に注目してもらうなら、シリーズ3の『名探偵ベンジー』だと、今回は強く推薦する。

 一般観客というのは、〈「ママ(パパ)ー、映画見たーい」と言う子供にせがまれ、子供といっしょに見られるような映画を選ぶ〉のではない●●●●●観客。〈犬がキライなわけではないが、大好きというほど犬好きでもない〉観客。

『名探偵ベンジー』の愛くるしいベンジーン(videoより)。

 『名探偵ベンジー』は、ジャンル分けすれば、ファミリー映画ではない。コメディ・ミステリーに入る。

 ある婦人の護衛を依頼された私立探偵が途中で殺されてしまうが、天国の役所で犬に生まれ変わらせてもらい、調査を続ける……という設定。

 私立探偵役はチェビー・チェイス(『サボテン・ブラザース』がイイ)と、ジェーン・シーモア(ボンドガール中では異例の清純派と公開時に評判になったお姉様)と、そして助演にオマー・シャリフという豪華さ。

 オマー・シャリフといえば、昭和生まれには本名よりも「ドクトル・ジバゴ」という役名で記憶に刻まれている。映画関連の有名な賞を複数受賞した、荘厳なムードの国際俳優である。

 賞がらみで言及すれば、彼がドクトル・ジバゴを演じた映画の原作(ロマノフ王朝崩壊の二月革命のころが背景)は、ノーベル文学賞に輝いたのに、国家(ソ連)の圧により辞退を余儀なくされたボリス・パステルナークの大巨編である。

 ときに、『名探偵ベンジー』はこう進む。ネタばれになるが、ベンジーンの名演技を伝えるにはばらすしかない。ごめん。

 ある日、問題の一室に探偵は忍び込む。犬になって生まれ変わっているので、スクリーンには、犬が、部屋にそうっと忍び込む状態が映る。

 机に散らばった写真を調べたり、卓上日めくり(メモ欄付き)を繰る演技は、父親ヒギンス譲りのお手のものだ。

 日めくり14日の次は16日。メモ欄は白紙。
「おかしいな、なぜ15日が抜けているんだろう」と不審に思っているように見える迫真の演技。

 「そうだ」と思いついたとしか見えない顔をして、ペンたてから鉛筆を(口で)取り出し、16日メモ欄の白い部分を薄くこする(筆圧のかかった部分を浮かび上がらせようとして)。

 何も浮かんではこない。そこで14日に日めくりをもどし、メモ欄に記された電話番号に電話をかけることにする。'80なのでダイヤル式の黒電話だ。受話器を上げ(銜え)、ダイヤルを回そうとするが、犬の手(=前肢)ではできない。ペンを銜えて回す。

 カメラは、ややロングで、これらの動作をすべてベンジーンが本当におこなっていることがわかるので観客はびっくりだ。

 しかし、もっとびっくりするのはドクトル・ジバゴ。だれもいないと犬が思っていた部屋には、一足先に彼が侵入しており、彼の手の中には15日のページが。

 ドクトル・ジバゴは物陰に潜み、犬の様子をずっと見ておどろいていたが、ダイヤルを回して電話をするシーンで、顔がアップになる。その顔が、

 「小型犬に驚愕するドクトル・ジバゴ!」

 と(昭和生まれには)映るので笑える。

 ベンジーンの名演技あってのたのしい一編なので、平成令和生まれの方々にも、どうか鑑賞機会が訪れますようにと祈る。物語が終わり、タイトルロールが流れた最後の最後に「woof」と出るのもほほえましい。
 *クレジットではベンジーンではなく、ベンジーと出る※2*

ベンジーのかわいすぎる名演技、ちょっとだけ見られます。『名探偵ベンジー』英語版トレイラー(IMDb)。

 一般観客向きの映画(ファミリー映画、動物もの、を謳っていない映画)として、『名探偵ベンジー』は、くやしいことに(日本では)よく知られているとは言えないが、同じころ公開の『遊星からの物体X』のほうは、原作がSF黎明期の巨匠ジョン・W・キャンベルなこともあって、かなり知られている。配信も有り。

 最初の映画化(『遊星よりの物体X』1952年公開)のほうは、「かなづちみたいな大きな電源レバーが出てくる昔のSF」であったが、二度目の映画化のほうは、さすがは1982年公開。洗練されたSF映画に仕上がっている。

 撮影もスタイリッシュで、これだけかっこよく仕上がったのは、ジェドの名演技に負っていると、これは犬好きでなくても、見た人は全員が認めてくれよう。

 ジェドは、アラスカン・マラミュートとオオカミの雑種。

 ジェドは1990年代には『ホワイトファング』『ホワイトファング2』に出演しているのだが、このころから映画は、製作国がつけた原題そのままのものが多くなった。

 '80年代前半くらいまではまだ、配給会社が、日本公開独自の邦題を苦心してつけたものだ。『遊星からの物体X』のアメリカ公開での原題は、『The Thing』。よかった、「ウルフドッグの南極大冒険」みたいなタイトルにされなくて。

 だって、『名探偵ベンジー』って、邦題のせいで内容が誤解されているきらいがあって、せっかくのベンジーンの名演技が、メッシほど注目されていないのは、かえすがえすも残念(原題の『Oh! Heavenly dog』も、そう良くもないが……)。

ジェドの雄姿が見られる俳優の英語インタビュー動画(IMDb)。

 邦題原題つながりのおまけで、『The Monster Squad』の犬についてふれて終わろう。この映画の邦題は『ドラキュリアン』だった。

 ドラキュラのみならず半魚人、ミイラ等々、有名怪物勢ぞろいなのだが、この邦題のほうが(公開当時の日本人には)わかりやすかっただろう。

 中学生くらいを観客に想定しているようだが、フランケンシュタインのシーンは心ある人ならこみあげてくる涙を人に見られぬよう拭かずにいられないと思う。

 この作品でピートを演じるのは雑種ではない。ビーグル犬。本名はジェイクだ。

 今回話題にした、モースやヒギンスやベンジーンやジェドと比べると(人間の芸能人にたとえれば)アイドル演技レベルではあるが、ちびっこたちが、怪物退治を誓うシーンで、みんなにまじって誓いの手を重ねるシーンがかわいいやつでした……と、最後のここにきて、おいちょっと待て。

 加えるべき一人(一犬)がいるではないか。日本人なら忘れちゃならない純血種犬。ジャーマン・シェパードのシェーンだ。

 第一次、第二次世界大戦のころ、ドイツ軍はあまたのシェパードを軍用犬として訓練していた。一次、二次とも、大戦後には、それら優秀な軍用犬は各国に散った。

 かの国と第二次世界大戦下では三国同盟を結んでいたほど、日本人(の一部)にはドイツ信仰があり、かつて「賢い犬」の代名詞はボーダー・コリーでもラブラドール・レトリーバーでもなく、ジャーマン・シェパードだった。

 宗川信夫さんという撮影監督がいて、若尾文子の『しとやかな獣』『瘋癲老人日記』、怪獣映画の『大怪獣ガメラ』、田宮二郎の『白い巨塔』等々、数々のヒット作を撮影した。

 宗川さんのじっさいの飼い犬がシェーンである。シェーンは宗川さんが撮影監督を務めた『名犬物語 吠えろシェーン』に出演し、その後、連続TVドラマ『少年ジェット』に出演した(明石家さんまのブラックデビルは、このドラマの登場人物からとっている)。

 シェーンはジャーマン・シェパードゆえ、顔つきがあれ●●(被毛の具合から、リキッドのアイラインを濃く入れ、ダークブラウンのアイシャドーをブラシで濃くいたメイクふう)なので、悪者を相手に戦う少年ジェットや警察の人を、とても賢くアシストしているように映った(ただ、筋金入りの幼少時からのネガティブシンキングの私には、スクーターに乗る少年ジェットに、自力で並走するシェーンが、辛いのではないか、とかわいそうに映り、謎解きよりもハラハラしていたが)。

 『少年ジェット』をYouTubeにアップしている人がいたので一話だけ、現在の目で見たら、シェーンの演技はメッシやモースやジェドには及ばず、ましてやヒギンス、ベンジーンにはとうてい及ばず、ジェイクくらいのアイドル演技ではあった。

 しかし、リードなしでも勝手行動せず、飼い主少年の命に従うシェーンのすがたは(宗川さんの撮影の優秀さもあって)、まさに《明るく元気で正しい心、シェーンこそ、まことの犬のすがた》※3として、多くの国民の胸に刻まれたと思う。

シェーン&少年ジェット。『少年ジェット』のテレビ情報より(allcinema)。

 敗戦からめざましい経済発展をとげつつある日本で一番有名な犬であった。

 道で(田舎の田んぼ道ではまずお目にかかれなかったが、大きめの町に出かけたさいの道などで)金満家ふうの紳士に連れられたジャーマン・シェパードを見かけると、子供らは、「あっ、ジャーマン・シェパードや」とは言わず、
「あっ、シェーンや」
 とぜったい言ったものだった。

 シェーンの子は、明仁皇太子(当時)に贈られ、アナスタシアと名づけられたそうである。

 皇居で飼われる犬に、二月革命で殺害されたロマノフ王朝皇女の名前をなぜ? と、しめにはまたオマー・シャリフに「怪訝のドクトル・ジバゴ」の顔を。

 ※1 『落下の解剖学』で見つけた意外なそっくりさん。主人公の息子(11歳設定)と、上白石萌歌(妹のほう)。

 ※2 タイトルロールで俳優犬の名前をたしかめるのは、配信やDVDの普及した現在なら容易だが、映画館で見るしかなかった時代には、目をこらしてたしかめないとならなかった。
ハナシが終るやタイトルロールの最中に立ってぞろぞろ出て行く人が多いので、そういう状況で目をこらして犬の名をたしかめて、頭にアルファベットをメモするのはたいへんだったんだ。
アメリカ映画はだいたい
Sean Connery as James Bond(ショーン・コネリー アズ ジェームズ・ボンド)
みたいに、
Jake as Pete(ジェイク アズ ピート)
などと、ちゃんと俳優犬にリスペクトを払ってくれるのだが、他国の映画だと、犬についてのクレジットはほとんど出ないから、「目のこらし損」になって映画館を出たものだ。

 ※3 『少年ジェット』のオープニング主題歌の最後のナレーションは、正しくは「明るく元気で正しい心、少年ジェットこそまこと少年のすがたである」。

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毎月第4金曜日更新

姫野カオルコ(ひめの・かおるこ)
作家。姫野嘉兵衛の表記もあり(「嘉兵衛」の読みはカオルコ)。1958年滋賀県甲賀市生れ。『昭和の犬』で第150回直木賞を受賞。『彼女は頭が悪いから』で第32回柴田錬三郎賞を受賞。他の著書に『ツ、イ、ラ、ク』『結婚は人生の墓場か?』『リアル・シンデレラ』『謎の毒親』『青春とは、』『悪口と幸せ』『顔面放談』などがある。
公式サイトhttps://himenoshiki.com/index.html

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