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岡田育×千早茜『しつこく わるい食べもの』刊行記念対談 第4回「結婚と料理と自由と」(全5回)

千早茜さんの食エッセイ第2弾しつこく わるい食べもの刊行を記念して、ニューヨークと日本で活躍する文筆家・岡田育さんとの初対談が実現しました。第4回は、コロナ禍での執筆についての話から。
構成=編集部/撮影=山口真由子

コロナ禍にエッセイをどう書くのか問題

──岡田さんの近著『女の節目は両A面』も、節目や変化がテーマです。千早さんの『しつこく わるい食べもの』も、中盤からはコロナ禍という変化に向き合っていくエッセイですね。

岡田 『しつこく わるい食べもの』の中でも、コロナ禍の、タイムスタンプつきの箇所はとくに面白く読みました。

千早 感染が拡大して緊急事態宣言が出たりするなか、連載を続けられないかもと騒いで、またT嬢に説得されまして……。日付を入れるということで、やっと書けるようになりました。

岡田 全部じゃなくて、一部にだけ日付が入っている形式も、その手があったか、と思いました。まだ日常を日常として過ごしていた頃と、思わず日付を残したくなる非日常とが、1冊の中で混じり合っている。ありそうでないですよね。

千早 でも、コロナ禍のものは全然笑いに持っていけなかった。「わるたべ」はちょっと笑いにもっていかなくては、とは常々思っていて。

岡田 それは大丈夫ですよ。最初から笑いを狙った作品ではないと思いますし、例えばオンライン飲み会の話で、「現実と同じではなく、欠けているという感覚が残ってしまう。食べものにそんな寂しい味はつけたくなくて、オンライン飲み会はすべて退けた」と書いてあるじゃないですか。退けたのか! と、そこがすでに十分面白いです。それに、食べ物に寂しい味をつけたくないというのはオンライン飲み会を断るのにすごくいいフレーズですね。千早さんに言われると、みんな納得するだろうし。

千早 はい。「あっごめんね……」という感じでした。まあ、こういう人間なのであまり誘われないんですけど。

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写真左:岡田育(おかだ・いく)
文筆家。1980年東京都生まれ。出版社で雑誌や書籍の編集に携わり、2012年よりエッセイの執筆を始める。著書に『ハジの多い人生』『嫁へ行くつもりじゃなかった』『天国飯と地獄耳』『40歳までにコレをやめる』『女の節目は両A面』。2015年より米国ニューヨーク在住。

写真右:千早茜(ちはや・あかね)
1979年北海道生まれ。小学生時代の大半をアフリカで過ごす。立命館大学文学部卒業。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で泉鏡花文学賞受賞。13年『あとかた』で島清恋愛文学賞受賞、直木賞候補。14年『男ともだち』が直木賞と吉川英治文学新人賞候補となる。著書に『わるい食べもの』『西洋菓子店プティ・フール』『犬も食わない』(共著・尾崎世界観)『透明な夜の香り』などがある。

読んでおなかがすく側か、気持ち悪くなる側か

岡田 あと、嗜好品を買いあさる話も印象的でした。トイレットペーパーではない買占めのチョイスが、ザ・アカネチハヤという感じで。自分だったらどれにするかなと思いながら読みましたよ。梅干しや高級海苔の話は、めちゃくちゃググりながら読みました。美味しそうで。

千早 「わるたべ」を読んで美味しそうと思ってくれる人がいるのか謎だったけど、意外といるんですね。

岡田 食欲はすごく刺激されますよ。

千早 本当ですか。1冊目のときは、気持ち悪くなったという人もいたので。確かに他人の食欲って気持ち悪いと思うんですよね。

岡田 私は「わるい」食エッセイを読んでも、おなかがすいちゃう派だな。「わるたべ」を読みながら「うーん、続きはご飯を食べてから心穏やかに読もう」となったりしてました。

結婚と料理と自由と

──例えば同じ「結婚と料理」にしても、岡田さんのエッセイでは「あえて料理はしない」という選択が書かれていて、逆に千早さんは「味噌汁は絶対に自分で作る」と書かれています。おふたりはほぼ同年代で、こだわるポイントも近いのに、方向が違うのが面白いですね。

千早 そうそう。私も不思議でした。岡田さんは個の自由を尊重する、重視する方だと思うんですけど、結婚するくだりで、これからの人生は私の選択だけではなくなるんだとか、すごく覚悟されているんですよね。でも、ご飯は作らないんだ。

岡田 そう、ちぐはぐなんです。夫のほうが自炊へのこだわりが強いから、台所仕事はほぼ任せきりです。私は洗い物担当、食材や献立の選択はほぼ委ねっぱなし。

千早 差異がすごく面白い。私は結婚が嫌で嫌で、名字を変えることがつらくて大泣きしたぐらいで、けっきょく私の姓にしてもらって……結婚にあたっても「誰かの選択」をもとにやっていこうとは1ミリも考えなかったんですね。私は今日より明日、より自由になるために生きているので、申し訳ないけどそれは結婚でも絶対に譲れない。でも、ご飯はめっちゃ作るんですよ。

岡田 そこがねえ! 私の感覚だと、ひとりで外食する日などに「食の自由」を感じるわけですが、こんなに「自由」を愛する千早さんが、なんと、当番制でご飯を作っている! 「旨み爆弾」でしたっけ、ご自分はファスティングしていて何も食べない日なのに、当番だからとおうちのご飯を作るエピソードには、驚きました。私は自分が食べない日なら絶対作りたくない。千早さんの中では「料理すること」は、義務ではなく「自由」の側にあるからなんですよね、きっと。

千早 そうですね。まぁ性格的な向き不向きもあるし、家事は1回きりじゃなく続くものなので、毎日無理なくできる人が担当したほうがいいことは確かです。

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第5回「共感とは真逆の、ポジティブななにか」

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千早茜『しつこく わるい食べもの』刊行記念
対談 岡田育×千早茜(全5回)

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