岡田育×千早茜『しつこく わるい食べもの』刊行記念対談 第3回「大人げない方向で生きていこうぜ」(全5回)
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岡田育×千早茜『しつこく わるい食べもの』刊行記念対談 第3回「大人げない方向で生きていこうぜ」(全5回)

千早茜さんの食エッセイ第2弾しつこく わるい食べもの刊行を記念して、ニューヨークと日本で活躍する文筆家・岡田育さんとの初対談が実現しました。変化について考えた前回につづく、第3回です。
構成=編集部/撮影=山口真由子

※対談はマスク着用の上で実施し、終了後にお菓子をいただきながらソーシャルディスタンスを確保して撮影しました。

大人げない方向で生きていこうぜ

千早 岡田さんは『ハジの多い人生』に、「自分を制御できているなんて考えていた自分は本当に愚かで幼かった」みたいに書いていますよね。読むたびに、自分の幼さや愚かさを突き付けられているみたいで「ひーっ!」となっています。岡田さんはちゃんと大人でちゃんと分析的だけど、私の「わるたべ」はなんていうか……大人げない。大人げない方向で生きていこうぜ、って言ってしまっている。

岡田 いいんですよ。千早さん、大人げない内容でも、大人っぽい語彙と文体でズバッと書かれているから、同世代としては、こうでいいんだ、こうであってくれ、と思います。角が取れてはつまらない。

千早 いや、反省しなければ。私、読んでいた数少ないエッセイが檀一雄(だんかずお)、内田百閒(うちだひゃっけん)、伊丹十三(いたみじゅうぞう)などで……わりと大人げない人たちが多かったんですよね……。

岡田 それは、影響受けていますね。内田百閒と聞いて、今すごく納得しました。その路線の正統継承者としてやっていくべきですよ。私も内田百閒的な文体は大好きなんですけど、私がそれをやったらきっと大炎上するのでできないんです。ネット感覚的に。

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岡田育(おかだ・いく)
文筆家。1980年東京都生まれ。出版社で雑誌や書籍の編集に携わり、2012年よりエッセイの執筆を始める。著書に『ハジの多い人生』『嫁へ行くつもりじゃなかった』『天国飯と地獄耳』『40歳までにコレをやめる』『女の節目は両A面』。2015年より米国ニューヨーク在住。

ネット的、八方美人の理論武装

千早 そうか、ネット感覚か。ネット感覚があるから、岡田さんはちゃんといろんな人へのサービスがや気遣いができているんですね。

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千早茜(ちはや・あかね)
1979年北海道生まれ。小学生時代の大半をアフリカで過ごす。立命館大学文学部卒業。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で泉鏡花文学賞受賞。13年『あとかた』で島清恋愛文学賞受賞、直木賞候補。14年『男ともだち』が直木賞と吉川英治文学新人賞候補となる。著書に『わるい食べもの』『西洋菓子店プティ・フール』『犬も食わない』(共著・尾崎世界観)『透明な夜の香り』などがある。

岡田 うーん、八方美人の理論武装版じゃないですか(笑)。私は私で、千早さんとは全然違う方向から、「もうちょっと武装解除したら」と言われておりますよ。「こういう考えの人も、こういう考えの人も、こういう考えの人もいる。人それぞれだよね」とうろうろ長く書いてしまって、「で、岡田さんの主張はどれなんですか?」とツッコミを受けたり。ツイッターでも、長文連投がちょっとバズると「もっともらしいこと言ってるけど話なげーんだよ」と難癖つけてくる人がいたり……。おそらくみなさん、「人は見た目が9割!」みたいに、一言でずばっと言うのが文章力の高さ、言葉の解像度の高さだと、思ってるんでしょうね。

千早 それはキャッチコピーじゃない。

岡田 そう。そういう認識の人には、まどろっこしいと感じられるんでしょうね。私のやっているような、迷路のすべてのルートと行き止まりを手でさわってから、出口にいくようなやりかたは。

他人の「表記揺れ」を糾弾する人の心理とは

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千早 みんな、正解というか、分かりやすいものが欲しいんですよね。

岡田 あと、世の中には、千早さんがふだん小説の中でつくっていらっしゃるような、統一された「読みやすい世界」がそのまま現実世界だと思っている人が、案外多いのでは。だから、自分の「語句統一リスト」はこれで絶対揺らがないとか、あの人の語句統一リストは私と違っているから間違いだ、とか言いだす。人の「表記揺れ」を直そうとしてくるも人いますよね。

──1年前あなたはこう主張していたのに、言っていることが違うじゃないか、と糾弾するようなことでしょうか。

岡田 そうそう。

千早 1年で細胞はめっちゃ入れ替わっているんだけどね。

岡田 この世界はもう「反省して心を入れ替えてやり直します」といった謝罪も受け付けられないほど不寛容なのだろうか、「昨日とは違う新しい自分」は認めてもらえないのか、そりゃあ、あんまり変わり身が早いのも考えものだけど……と、モニョモニョ言葉を重ねる私の横で、「そんな分かりやすさばかりの世の中、わしゃ好かん!」とバッサリ斬れるのは、内田百閒と千早茜くらいですよ。格好いい!

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編集部からの差し入れ「おっぱい饅頭」に爆笑のおふたり。

第4回「結婚と料理と自由と」

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千早茜『しつこく わるい食べもの』刊行記念
対談 岡田育×千早茜(全5回)

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