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藤谷千明×蟹めんま×トミヤマユキコ「バンギャルとオタクの(こわくない!)老後のはなし」 前編

『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』刊行記念トーク企画。マンガ研究者・ライターのトミヤマユキコさんを聞き手に、バンギャルやオタクならではの新しい「老後」のあり方をノンストップでしゃべり倒す!
※2023年3月30日、蟹ブックス(東京・高円寺)で行われたイベントを採録したものです。

構成・撮影=編集部


まずGLAYは通ってきた

トミヤマ このたびは出版おめでとうございます。せっかくですから自己紹介をしましょうか。
 
藤谷 フリーライターの藤谷千明です。ヴィジュアル系をはじめ、漫画だったり、映画だったり、サブカルチャー全般のことを書いています。最近は5年くらい前からオタクのアラフォーの女4人で暮らしていることを『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』というエッセイ本にしたら、ちょっと話題になりましてコミカライズされたりもして、うれしいなって思っている42歳です。『バンギャルちゃんの老後』では主に文章を書いています、よろしくお願いします。
 
めんま 漫画家とイラストレーターをやっています、蟹めんまです。ヴィジュアル系のバンギャルさんの生活についてのエッセイマンガを描いてもう十数年になりまして、『バンギャルちゃんの老後』では主にイラストと漫画を担当させていただいています。ずっと東京でのバンギャル生活を描いていたんですけれども、少し前に父が亡くなって、母がちょっと体を壊したりしまして、今は地元の奈良県に戻っています。
 
トミヤマ 私はライターと、マンガ研究の仕事などをしておりますが……今日呼んでいただいたのは、私の夫がバンドマンだからということもあるかと思います。ただ、夫はファンクバンドなので、残念ながらヴィジュアル系ではないです。
 
藤谷 いや、残念とかではないですよ(笑)。
 
トミヤマ あと私、実は高校のときに軽音楽部に入っていて、コピーバンドでヴィジュアル系をやったことが……
 
藤谷 何のバンドのどの曲やりました?
 
めんま 食い気味で聞きますね。
 
トミヤマ まずGLAYでしたね。TERUになれ、と言われて。
 
藤谷 曲は?(さらに食い気味)
 
トミヤマ 「HOWEVER」ですね。
 
藤谷 みなさんご存じの、これ。これね!(両手を広げ天を仰ぐ「HOWEVERのTERUのポーズをする藤谷さん)
 
トミヤマ 友達に筋金入りのバンギャが1人いて、衣装とかも全部貸してもらってやりました。その子とはいまだに仲いいんですけど、X JAPANにはじまってLUNA SEAとかもずっと好きで。ツアーを追いかける彼女の全国行脚ぶりも見てきたし、20代30代はバンギャ話を聞かされまくっておりましたね。
 
藤谷 いわゆる受動喫煙ってやつですね。
 
トミヤマ はい、受動喫煙の人です。

トミヤマユキコ
1979年秋田県生まれ。東北芸術工科大学准教授。ライターとして日本文学、マンガ、フードカルチャーについて執筆しながら、大学ではマンガ研究者としてサブカルチャー関連の講義を担当する。著書に『夫婦ってなんだ?』、『大学1年生の歩き方』(共著・清田隆之)、『少女マンガのブサイク女子考』、『10代の悩みに効くマンガ、あります!』などがある。

トミヤマ ということで、本が発売になったわけですが、どうですか? 世の中の反応とか。
 
めんま 「思ったよりガチだった」みたいな……バンギャルと老後というミスマッチを楽しむ本かと思ったら、著者ふたりとも介護資格を持っていて結構マジメなところもある本だった、というような感想を多くいただいてます。

「つづ井さん」に見る、オタク女子の実験精神

藤谷 SNSやメールで感想をもらうことが多いんですけど、親の介護の問題が差し迫っている世代の人から「話し合うのは大事だと思ったという声や、地方出身の人からの「実家の畑とか、お墓とか、山とか、家とかどうする? という話題も取り上げてほしい」という意見も多かったです。
 
トミヤマ もう2冊目の内容リクエストが来ているんですか、すごいな。
 
藤谷 ほかには、「介護資格を取りたくなった」「私も取ろうかな」も多かったですね。私はライターをしながら介護資格を取って、いま週に1.5日ぐらい訪問介護の仕事もやっているんですけれども、「そういう働き方もアリだなーとか、「やってみたい」という意見は結構ありました。
 
めんま そうですね。バンギャルでもそういう資格取れるんだ! みたいな。
 
藤谷 「でも」ってなんですか? バンギャル、頭振り過ぎて中身全部出ているみたいに思われているのかな……。
 
めんま またそういうことを(笑)。私はこれまでバンギャルのライブ参戦とか遠征とか、娯楽についてしか書いてこなかったので、「それでも資格とったりできるんだ」みたいな感じなのかな。こういう娯楽にどっぷりみたいな人でも喪主できるんだ、という感想ももらいました。
 
トミヤマ 「喪主できる」という感想……!
 
藤谷 我々の世代にとって老後や介護って敷居の高いイメージがあると思うので、少しでも敷居が低くなったという感想は、すごくうれしいですよね。

藤谷千明(ふじたに・ちあき)
1981年生まれ。自衛官、書店員などの職を経てフリーライターに。バンギャル歴は約四半世紀。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』などがある。介護職員初任者研修を取得し、訪問介護にも従事する。

トミヤマ 思いのほかガチ、思いのほかマジメ、といった感想が多いと。いや、私も読ませてもらって、これは実用書だと思いましたもの。
 
めんま そう言っていただけるとありがたいです。
 
トミヤマ 最初は、バンギャのおしゃべりが楽しいエッセイという感じで、本音とかあるあるが載ってるだけで十分楽しい、と思って読んでいたんですけれども、途中から、これは実用の書だなと。しかも、最初の「オレたち一生バンギャやっていたいから、老後も一緒に暮らそうぜ」みたいな、オタクあるあるというか、よく言う妄想を真剣にやってみるというのがいいんですよね。バンギャに限らず、オタクの女子って基本的に、すごく実験精神があると思うんですよ。
 
藤谷 ああ、いい意味で「面白がり」ですよね。
 
トミヤマ そうそう。例えばみなさん、『腐女子のつづ井さん』というマンガをご存じですか? つづ井さんたちって、誰かが何かしら「やりたいことあるんだけど」と言うと、すぐやってみるんですよ。「ちょっとしたパーティーに来て行く服」って何だよ、ってなったら、じゃあその「ちょっとしたパーティー」を自分たちで開催しよう、みたいな。たとえ全く生産性がなくても、一旦はやってみる。そういうオタク女子たちのフットワークの軽さが、この本にも詰まっていると思うんですよね。
 
藤谷 『つづ井さん』の1巻にも、老後にみんなで暮らす家の想像図が収録されていて、みんなで相撲を取る場所とかあるんですよね。あれ最高。相撲取りてぇ〜。
 
トミヤマ そうそう。そういう「オレたちの妄想」を、実際に取材したり、資格を取ったり、働いてみたりして「やってみた」のがこの本ですよね。オタクの実験精神とフットワークの軽さが、マジメな内容にまでつながっていく。読者にとっての「入り口」が複数あるのがいいですよね。マジメに老後とか介護のことを考えたい人も、いきなり専門書を読むのって大変だから、まずこの本からっていう入り方ができるし。逆に、単純にバンギャの生態を楽しく読みたいなって人も、読んでいるうちにマジメな内容を知ることができる。

「フリー素材」ばかりの暗いウェブ記事

藤谷 入り口をポップにしたいっていうのは、連載のときから考えていましたね。
 
めんま そうですね。こわくないようにしたいって。
 
藤谷 どうしても、ウェブで目にする老後の社会問題のニュースとかって、読後感がどうしても暗くなるじゃないですか。老後に2000万円必要とか、孤独な独居老人とか、制度の不備とか限界とか……。実際そういう問題は山積みではあると思うんですけれども、入り口がこわかったら、そこで思考が止まっちゃうじゃないですか。「こわい、やめよう、もう無理、死ぬー!
みたいな感じになる。
 
トミヤマ 生きて。
 
藤谷 私は自分の思考が極端だからこそ、マイルドなものを世に出したいというのがありました。この本は4年前からやっている「tayorini」というLIFULL介護のウェブ媒体の連載がもとになっているんですけれど、当時は特に、暗い社会問題のウェブ記事って、画像がフリー素材ばっかりで。今もわりとそうですよね。めっちゃ日本の話なのに、どこの国の人かわからない女性が、こう膝を抱えて孤独な部屋にいたり、頭を抱えていたりするフリー素材ばっかり。だから、ただ暗いイメージだけが先行して、抽象的になってしまって具体的に考えられなくなってしまうのかなと。だから、めんまさんのポップな絵柄がで具体的に描いてもらえたらなと思ったんです。
 
トミヤマ おふたりはもともと、仲がよかったんですか?
 
藤谷 もともと友達ではなくて、めんまさんがアメブロにバンギャルのマンガを公開していたんです。まだ書籍にはなっていなかったけれど、その頃からすごく面白いエッセイマンガを描いていたので、「あわよくば一緒に仕事をしたい!」SNSを通して声をかけたんです。
 
トミヤマ ナンパしたんだ。
 
めんま そうでしたっけ。でも仲良くなったのは、某テレビ局でやっていたドロドロの恋愛ドラマの話題でしたよね(笑)
 
藤谷 そうそう。湿度の高い恋愛ドラマが好きという共通点でちょっと仲よくなって、その後『バンギャルちゃんの日常』の1巻の巻末バンギャル座談会に参加する機会をいただいたんです。そこからいろいろ仕事をするようになった経緯があります。だからバンギャル仲間とはいえ、実は好きなバンドはかぶっていないんですよね。
 
めんま そう。バンドの趣味は、全然合わないんですよね(笑)。

蟹めんま(かに・めんま)
漫画家・イラストレーター。奈良県出身・在住。バンギャル歴20年以上。著書に『バンギャルちゃんの日常』『バンギャルちゃんの挑戦』などがある。介護職員初任者研修修了。

バンギャルの擬似家族文化、時代を先取りしていた!?

藤谷 めんまさんは、この連載企画を始めた時期は、バンギャルネタのマンガやイラストよりも、他ジャンルのお仕事を多くされていたんです。私はめんまさんのバンギャルものが好きだったので、とにかくバンギャルのことを描いてほしくて。「バンギャルを描け、描いてください」と……。
 
めんま ありがたいことです。おかげさまで、こうして神宮橋に集うバンギャル華族の絵も描けました。
 
藤谷 「華」のほうの華族ね。バンギャルの擬似家族。
 
トミヤマ なになに? 華のほうって? もう1回お願いします。
 
藤谷 めんまさん、説明してさしあげて。
 
めんま 90年代から2000年代初頭ぐらいのバンギャルコミュニティーのなかで、夫とか妻とか娘とか役割をつけて、擬似家族を作るという文化があったんです。
 
藤谷 家族ごっこですね。ペットまでいましたよね。本をお持ちの方は、39ページを見てください。

トミヤマ 本当だ、ペットがいる!
 
めんま 東京なら原宿の神宮橋、関西は大阪城公園あたりがバンギャルのたまり場だったんですけれども、そこに華族が乱立する、という現象が起きていました。
 
藤谷 ヴィジュアル系は耽美なので、「華」の字の華族なんですね。
 
めんま 今ではもうバンギャルの間でも消えてしまった謎の風習です。何だったんだろう、あれは。ただ、廃れた理由はなんとなく見当がついておりまして、だんだん一夫多妻制みたいになっていったり、若さゆえのもめ事が起きたりして、ブームが終わったのかなとにらんでいます。
 
藤谷 私は世代が少し下なので華族未経験なんですけど、もしかしたらリバイバルブームが来る可能性もあるし、経験してみたいですね。でも、家族を自分で選ぶ、価値観の合う人との共同体という意味では、あれは実は時代を先取っていたのでは? と思うんです。
 
トミヤマ 文学やマンガでも、擬似家族や新しい家族像をテーマにした作品が最近多いですよね。親子だからって無条件に大事にしあえるわけではないし、血縁によらない家族関係を新たに作る方がいいこともある。そういうことを考えたときに、バンギャル華族がひとつのお手本になるかもしれない。
 
藤谷 しかも、歴史に学べるというか。我々も少しは大人になったことだし、もっとうまくやれるかもしれない。
 
トミヤマ 藤谷さんは、現にいま4人でルームシェアをしていて、擬似家族的なものの実践をしているわけですよね。
 
藤谷 もう5年続いていますね。
 
トミヤマ ルームシェア、楽しいですか?
 
藤谷 楽しいのはもちろんですが、快適です。もちろん家族ではないし、大親友でもなくて、10年ぐらいツイッターをフォローしていた同士で「この人とは気が合うだろうな」という感じの人たちと暮らしているんですけど、マジで快適です。暮らしていく上でストレスが少ない。「家族なんだからこうしなきゃ」だとか「友達だからこうしなきゃ」みたいなところがあんまりないので。お互いに家賃を出して家事をある程度平等に分担して、生活を回していく。それ以外は何でもいいというのが、私にとっては快適で。ただ、この本にも書いたんですけれども、これが老後にまで続けられるかというと……。
 
トミヤマ 病気をするなどして、自分の面倒を自分でみれなくなっても続けられるかはわからない。そういう思いが正直に書いてあって、誠実な本だなと思いましたよ。
 
藤谷 家族の絆が万能ではないという話と一緒で、友達の絆も万能ではないので。万能ではないものに対してどうするか、ということなんですよね。結局のところ。

(後編に続く)

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