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藤谷千明×蟹めんま×トミヤマユキコ「バンギャルとオタクの(こわくない!)老後のはなし」 後編

『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』刊行記念トーク企画。マンガ研究者・ライターのトミヤマユキコさんを聞き手に、バンギャルやオタクならではの新しい「老後」のあり方をノンストップでしゃべり倒す! 後編は、介護のことばをバンギャル的ユーモアで言い換えてみると……という話題から。
※2023年3月30日、蟹ブックス(東京・高円寺)で行われたイベントを採録したものです。

構成・撮影=編集部


「祖父のローディーをしています」介護のことばを見直してみる

トミヤマ 家族や友達同士の絆を万能とは言わずに、かといって「もうダメだ」とも言わずに、国の制度を探してみたり、先駆者に話を聞いたり、何かしらの工夫を考えたりする。おふたりのそういう「諦めなさ」って、すごくいいですよね。自分の力でできる、何かちょっとした工夫。そのちょっとした工夫で人生が少し変わることって意外にあると思うので、ばかにできないというか。
 
藤谷 工夫っていいですよね。めんまさんがこの本でお祖父さんの介護のことを「ローディーって表現しているのなんて、まさに工夫だと思うんですよ。
 
めんま 簡単に説明すると、祖父が2019年に亡くなったんですけれども、終末期の入院中によく付き添っていたんですね。祖父はずっと酸素マスクをしているんですが、無意識に取っちゃったりすることがあるので、マスクが取れたら付けなおしてたりしてました。これがちょっとヴィジュアル系バンドのローディーみたいだったので、友人に介護のことを話すときは「いま祖父のローディーをやっています」とか書いたりして。
 
トミヤマ この「ローディー」の話、私は本書の白眉だと思います! みなさんローディーってわかります?(会場の過半数が大きくうなずく)
 
藤谷 バンドマンの演奏中に楽器の調整をしたり、ギターのシールドをファァッて移動させたり、倒れたマイクスタンドを戻したりするスタッフ……、あるいは人気バンドマンの弟子のようなポジションというか。
 
めんま そう。いま祖父の機材のシールドを戻してきました、とか、悲壮感が漂わないように実況していた時期がありまして。
 
トミヤマ これは、めんまさんが考えた表現なんですか?
 
めんま いや、バンギャルとかオタクの仲間内で、子育て中の人がお子さんのお世話をローディーって言っていたんですよね。
 
藤谷 そうそう、家族のケアのことをローディー業と呼ぶ謎の風習が、バンギャル全員ではないと思いますが、少なくとも我々のバンギャル仲間たちの間にはあったんですよ。仲間内のギャグですね。ベビーカーを「機材車」、保育園に行くことを「事務所に入る」と言ったり。
 
トミヤマ そうなんだ、風習としてあったのか。ファンクバンド界隈にはない文化だ……すごい。
 
藤谷 おそらく、バンギャル界隈全体ではないですよ。ちなみに結婚は「メジャーデビュー」、出産は「新メンバー加入」だっけ?
 
めんま 出産は「ファーストアルバム」とも言いましたね。
 
藤谷 どっちもリリースしているから。

藤谷千明(ふじたに・ちあき)
1981年生まれ。自衛官、書店員などの職を経てフリーライターに。バンギャル歴は約四半世紀。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』などがある。介護職員初任者研修を取得し、訪問介護にも従事する。

悲壮感と不謹慎とユーモアと

めんま あと、私は祖父が車椅子のときにMEJIBRAYって言っていました。(会場の一部、吹き出す)
 
藤谷 笑ってくれるんだ……! うれしいですね。
 
めんま 良かった良かった。
 
トミヤマ 待って待ってわかんない。わたしにも教えて〜!
 
藤谷 MEJIBRAYというヴィジュアル系バンドは、ドラマーのメトさんが車椅子でステージに登場するのが定番だったんです。人形という設定だから、歩けないので、黒装束の人に車椅子を押されてドラムセットまで運ばれる。で、演奏が始まると生命を吹き込まれて動き出すわけですね。そういう演出がありました。
 
めんま オモロな演出ですね。現実の車椅子をバンドの演出にたとえるのは不謹慎といえば不謹慎なんですが……。
 
藤谷 そうすることで、悲壮感が薄れる?
 
めんま はい。介護の話とかって、言われたほうはちょっと反応しづらいじゃないですか。とはいえ私も聞いてもらいたい気持ちはあるので、せめてあまり悲壮感が漂わないようにしたい、ワロタと言ってもらいたいと思って、そういう言い方をしていましたね。

蟹めんま(かに・めんま)
漫画家・イラストレーター。奈良県出身・在住。バンギャル歴20年以上。著書に『バンギャルちゃんの日常』『バンギャルちゃんの挑戦』などがある。介護職員初任者研修修了。

トミヤマ 言い換えって大事ですよね。私も、そのうち親の介護をしなくちゃいけなくなると思うんですけど、「介護する」ってそのまんまの言葉で表現しちゃうと、親をむちゃくちゃジジイババア扱いしている感じになりそうでちょっと抵抗が……。ただ自分の親であって欲しいだけなのに、言葉によって関係が固定されていくことがしんどい。だから「両親のローディーをしていまして」って言えたら、聞いてくれた人も笑ってくれるし、言っている自分もちょっと楽になれるような気がしてうれしい。あと、介護をしていると「偉いね」みたいなことも言われがちじゃないですか。
 
めんま そうなんですよ。「いい孫だね」、とかめちゃくちゃ言ってもらえたんですけれども、自分としては優しさを発動してるつもりもなくて、やっぱり「ローディー」がしっくりきますね。

藤谷 このローディーの話題は、我々バンギャルにとってレジェンド漫画家であるシマあつこ先生に話をうかがったときに出てきたんですけれども……シマ先生は『8ビートギャグ』という、我々バンギャルが死ぬほど読んでいた、実在のバンドマンたちが登場する漫画の作者ですが、そのシマ先生が「やっぱりユーモアって大事よね」とおっしゃっていたんです。先生はご両親と義理のご両親の看取りを経験されていて、「大変だったんじゃないですか」って聞いちゃったんですけれども、「いや、そんなことはないですよ」って。「介護の過程でもちろん大変なことはあるけれども、そういうときもユーモアって大事よね」と。
 
トミヤマ ほんと大事ですよ。それぞれの界隈で「ローディー」みたいな面白い用語があるんだったら教えてほしいですね。
 
藤谷 ファンクバンド界隈にもあるんですか?
 
トミヤマ いやー、ないと思うなー。介護に応用できるような面白い用語はなさそう。
 
藤谷 でも、そのジャンルならではの「面白さ」って絶対あるはずなんですよ
 
トミヤマ 家に帰ったら聞いてみます(笑)。

「推し」と一緒に年を取るということ

トミヤマ この本は、ヴィジュアル系バンドのメンバー側も読むんじゃないですかね? 推されている側も、自分たちのことを好きでずっと推してくれていて、人生の結構な部分を捧げてくれる人の老後が、どうかうまくいきますようにと思っていても全然おかしくない。シンプルにファンの老後がどうなるか、知りたいんじゃないかなって思うんですよ。共に年を取って、共に過ごす時間が長く続いたほうがいいわけですしね。
 
藤谷 まさにその件に関しまして、ちょっといい話していいですか。この間、私、犬神サアカス團のワンマンライブに行ったんです。三軒茶屋ヘブンズドアというライブハウスで行われたのですが、そこのフロアに椅子が普段よりちょっと多めに出ていて、「おや」と思って。そうしたらMCで(ボーカルの)凶子さんが「私たち一緒に年を取っているんだから、(立ち続けるのが)つらい人は座っていいよ、そのために椅子をたくさん用意したよ」っておっしゃっていたんです。若い頃は、バンド側も「なに座ってんだ! 立ってノれ!」みたいな感じになるんですけれども。
 
めんま ああ、めっちゃいい話だ。
 
藤谷 凶子さんが、「私もいつか座ることがあると思うから、そのときはよろしくね」って。「でも、座ったら腹式呼吸の仕方が変わるから、レッスンをし直さなきゃいけない。それは面倒くさいから今は立って歌う」って。
 
めんま 最高。
 
藤谷 ね。最高! そういう、キャリアが長いバンドを見る良さってあるので、やっぱり自分も健康でいたいなって思いました。
 
トミヤマ めっちゃいい話〜!

トミヤマユキコ
1979年秋田県生まれ。東北芸術工科大学准教授。ライターとして日本文学、マンガ、フードカルチャーについて執筆しながら、大学ではマンガ研究者としてサブカルチャー関連の講義を担当する。著書に『夫婦ってなんだ?』、『大学1年生の歩き方』(共著・清田隆之)、『少女マンガのブサイク女子考』、『10代の悩みに効くマンガ、あります!』などがある。

老後や介護のこと、なんで義務教育で教えてくれなかったのか問題

藤谷 しまった、私ばっかりしゃべってる。めんまさん、しゃべってください。
 
めんま いや、もうね、私はいま母とずっと奈良にいるものですから、人と話すこと自体が久しぶりで。目の前にこんなに人間がいて……。
 
トミヤマ どうですか、人間は。
 
めんま こんなに人間がいる空間は本当に久しぶりです。父の葬式すら人を呼べなかったので。
 
藤谷 (めんまさんのお父様の葬儀は)コロナ禍のまっただなかでしたからね。
 
トミヤマ めんまさんは、この本の出版後も、介護的なものは続いているわけですか。
 
めんま この本が校了した瞬間ぐらいに、母が足腰を悪くしまして、つい最近「要支援2」の判定をもらいました。実はこの本の描きおろしで、地域包括支援センターに取材に行ったんですが、そこで、今現在、特に困っていることがなくても「うちにはこういう高齢者がいるので、今後もし何かあった時はよろしく」と伝えておくのが大事だと、センターとしてはそういったお知らせだけでもウェルカムですよと教わりまして。それで、取材後すぐに地元のセンターに行ったんですよね。だから母が足腰悪くなったとき、センターを通じてすぐに要支援の認定をもらえたので、身内にご高齢の方がいらっしゃる人は、とりあえず1回行っておくといいと思います。
 
トミヤマ このことは本を読むまで全く知りませんでした。うちにこういう老人がいます、今のところとくに問題はないんだけれども、地域のお年寄りなのでよろしくねみたいなことを、センターに伝えておく。すると、いざ何かがあったときにも、前情報があるから、サッと動けるということがある。……ということを、なぜ私たちは義務教育の中で学んでいないんだろう
 
めんま 本当にそれは思います。家庭科とかに組み込まれててほしいです。
 
藤谷 そもそも介護保険制度が施行され、地域包括支援センターのような施設ができたのが2000年代以降のはず。だから私たちの世代は習わなかったけど、今は義務教育に入ってきているのかもしれないですね。これは調べておきたいですね。
 
トミヤマ そうでしたか。少なくとも昭和の人間は、そんなことは学校では一切習わず、社会に放り出されて、ずっと手探りで、自分の人生はもちろん親の人生もなんとかしていかなくちゃいけない。なかなかに不親切だなぁと思いますね。ほんとに、この本を読んでいなかったら知らなかったことが、いっぱいありましたよ。
 
藤谷 もちろん専門書とか、専門のサイトにはあるはずなんですよ。でも、人は生活に追われて生きていると専門のサイトをわざわざ調べる余裕がないので、間口をちょっとポップにしたら、読む人もちょっと増えるかなと思ってます。

(『バンギャルちゃんの老後』P78より)

「孤独なアラフォー、エッセイ漫画家死亡」のニュースを阻止せよ

トミヤマ こうして本にするうえで、何か苦労したこととかはありますか。
 
めんま こわくならないように、脅すようなことはしないように、は気をつけました。
 
藤谷 センセーショナルな感じで人を不安にさせるような言葉は使わないようにしよう、とは何度も話し合いましたね。例えばバンギャル・ギャ男の介護職座談会のときに、延命治療や胃ろうの判断について、「やらないと後悔」とか「やっておかないとダメ」みたいな自己責任論的に脅すことはしない、とか。
 
トミヤマ 実際の現場では、いろいろとシビアな言葉が出てくることもあるにはあるけれども、それを最初から知らせる必要はないということですかね。
 
藤谷 あと、つらいことも人による、ケース・バイ・ケースだから。例えば孤独死について、独居老人はバッドエンドだ、悲惨だというふうに、メディアからあおられたりしますよね。でも、亡くなった方の主観は、不幸かどうかわからないじゃないですか。ごみ屋敷で埋もれて死んでいても、「ひとりで気楽でよかったな」っていう人もいるかもしれない。逆に、孫に囲まれて大往生しても、不幸に感じていた人もいるかもしれない。他人が幸・不幸を決めつけるのはやめようねという話です。

めんま この本からちょっと話ずれちゃうんですけど、一昨年の夏に、私、高熱を出してコロナ疑惑で寝込んだ時期がありまして。当時は都内のボロ家でひとり暮らしをしていて、バツイチ、預金残高は少ない、恋人いないみたいな状況で。これでいまコロナで死んだら、絶対ヤフーニュースに取り上げられてしまうと思ったんですね。
 
藤谷 「孤独なアラフォー、エッセイ漫画家コロナで死亡」みたいな。
 
めんま そうそう、普段は取り上げてくれないのに、絶対こういうときは載るぞと(笑)それで、ヤフコメで「やっぱりバンギャルの末路はこうだ」みたいに心無いコメントをされるんだぞと。だから、いま死んでも絶対に悲壮感が漂わないようにするにはどうしたらいいのかと考えまして……。
 
トミヤマ 高熱のさなかに。
 
めんま で、ひらめいたのが、当時ネットでちょっとバズっていた、「わっしょい!うんち焼き」。
 
トミヤマ え、何ですかそれ?
 
めんま ちょっとみなさん、「わっしょい!うんち焼き」でググってみてください。
 
藤谷 (立ち上がってトミヤマさんに「わっしょい!うんち焼き」の通販ページを見せようとする)わっ、いま興奮のあまりダブルクリックしちゃって、カートに入っちゃった!
 
めんま ふふふ。たこ焼き器に似たつくりで、うんちの形をした人形焼き的なものが焼けるホットプレートですね。
 
藤谷 「出来立てほっかほかのうんち型カステラでパーティーを盛り上げよう!」ですって。
 
トミヤマ 最高にしょうもないな!
 
めんま いくらメディアが「孤独死」的に扱おうとしても、枕元にうんち焼きを作った痕跡が残ってさえいれば……死ぬ前「わっしょい!うんち焼き」をしてたんだから、ある程度はゴキゲンに生きていたと思わざるを得ないですよね? 両親も「一人で死なせてしまった……」と罪悪感みたいなものを抱くかもしれないけど、うんち焼きさえあれば死ぬ直前までは愉快に暮らしていたことが伝わるはずなので、きっと大丈夫だぞと。
 
藤谷 「親孝行」のベクトルがちょっと違うのよ。
 
めんま だから39度ぐらい熱がある中で、ホットケーキのもとで少し作って、皿に盛ってから寝たんですよ。これでもう死んでも大丈夫だ!と。
 
藤谷 少なくとも、孤独死のルポには載らないタイプの死に方。
 
めんま すみません、最後に思いきり脱線しちゃった。
 
藤谷 いや、これ、そういう本じゃないですか。基本的に、そういうめんまさんのおもしろマインドがあってこその本なんですよ。オモロを、ワロタを大事にする姿勢。
 
トミヤマ オモロってたぶん、老後からいきなりはできないと思うので、やっぱり今のうちから練習しておくのがいいんでしょうね。さてさて、そろそろお時間のようですが……みなさん、家に帰ってまず何をしたらいいかということはわかったと思います。
 
藤谷 もう完全に注文するものは一つです。
 
トミヤマ すぐカートに入れください。
 
藤谷 めんまさんにとっての「うんち焼き」的な何かが、おのおのにあると思います。
 
トミヤマ そうですね。それぞれのうんち焼きを大事に、やっていきましょう。
 
藤谷 まとめてくれてありがとうございます。
 
めんま まとまってますか? 大丈夫?
 
藤谷 本日はありがとうございました。

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