吉田豪×武田砂鉄「ボクたちの聞き出す力」後編
吉田豪さんの『帰ってきた 聞き出す力』(発行ホーム社/発売集英社)刊行を記念した対談企画。ゲストには、まさに「聞き出す力」を持つ一方の雄であるライターの武田砂鉄さんをお迎えしました。
事前の打ち合わせ一切なし。緊張感あふれる二人のトークのゆくえは――。
※2023年2月8日、東京・LOFT 9で行われたイベントを採録したものです。
[前編から読む]
撮影:甲斐啓二郎/構成:砂田明子
大作家たちの雑誌連載を「奪いにいきたい」
武田 『帰ってきた 聞き出す力』には、明石家さんまさんはじめ、著名人にインタビューしたときのエピソードがいろいろと出てきますけど、福山雅治さん、僕も2015年に一度だけインタビューしました。
吉田 やってましたね。『SPA!』で。
武田 それっきり呼ばれなくなったんですけど。何が悪かったんですかね。
吉田 ちょうどその頃、福山さんサイドが、アグレッシブなキャスティングでインタビューを頼んでいた時期だったんですよ。その時期が終わったってだけだと思います。最初にボクが指名されて、砂鉄さん、杉作J太郎さん、九龍ジョーときたから、とんでもないセンスだと思ってたんですけど、そういう人たちに本気で会いたがるのが福山さんで。
武田 この本にも書かれてますけど、インタビュアーをいい気分にさせるのがお上手な方ですよね。2015年は僕が『紋切型社会』でデビューした年なんです。開口一番、「今年は、砂鉄さんの年だったね」みたいなことをおっしゃって。全然、砂鉄の年ではなかったんですけど、そういうことを言ってくれる人。
吉田 ものすごく雑誌好きの人だから、砂鉄さんがどういう人なのか確かめてみたいという気持ちが福山さん本人の中にもあったんだと思います。ボクは『SPA!』の『男が選ぶ[好きな男・嫌いな男]』アンケートの総括みたいな対談を福山さんと毎年やってるんですが、最近、ちょっと心配になるポイントがあったんです。あれだけ雑誌好きだった福山さんが、出版不況もあって、雑誌を読まなくなってきたという話をされていて。
武田 え。福山雅治が雑誌を読まなくなったら本当に終わりですね。
吉田 そうなんですよ。いまはすっかりYouTubeを見るようになったみたいで。
武田 出版不況はもうずっと言われてることですが、とくに雑誌の状態が悪くなってますよね。昨年亡くなられた小田嶋隆さんと、僕は晩年、親しくさせてもらっていたんですが、最後にインタビューしたときに、「君は雑誌の葬儀委員長みたいになるよ」と言われたんです。で、昨年で終了したWebサイト「cakes」の連載を、『週刊朝日』に移ってやらせてもらっていたら、『週刊朝日』が今年の5月で終わるという。
吉田 次々と死に際に立ち会うことになって。
武田 100年続いた雑誌の最後を見届けることになったという。連載は、またどこか、転職先を見つけたいと思ってますが。
吉田 ボクもピーク時には雑誌連載25本とかになってましたけど、もう雑誌自体が少なくなってるからそんなこともできないでしょうね。ただ、紙の本はアナログレコードみたいなものとして定着しないかなと思ってるんです。アナログなりCDなり、直接会ったときサインを入れたりするのに便利なファンアイテムとして残るようなもの。そういうものに、紙の本がなってほしいとボクは思ってるんですけどね。
武田 どんどん減っていくなかで、いま残ってる週刊誌なんかの長期連載って、だいたい大作家の方がやってらっしゃいますけど、どうなんだ、と思う内容が多いじゃないですか。そこをどうやったら奪いにいけるのかと考えています。
吉田 奪いにいきたいんですか?
武田 奪いにいきたいです。だって、あまり中身ないですから。誰とどこそこで何食べたとか、身辺雑記的なものばかりで。雑誌がなくなっていくのであれば、そういうところに踏み出せないかと思ってます。
吉田 雑誌でいうと『SPA!』は雑誌全体としては右寄りなのに、いまは武田さんが書いてる巻頭コラムだけはリベラル寄りなんですよね。あれがずっと不思議でした。
武田 確かにそうですね。今、石戸諭さんと山口真由さんと僕がやってますけど、伝統なのかな。そんなこともないか。鈴木邦男さんがやってた時期もありましたからね。
吉田 あれが謎なんですよね。
武田 『SPA!』は、好きな男ランキングに安倍晋三が入る雑誌ですからね。安倍さんといえば、いま回顧録が出て売れてますが(『安倍晋三 回顧録』)、あれは貴重なインタビューです。コロナの自粛中に、星野源さんに便乗したコラボ動画が出たじゃないですか。ものすごく批判されたやつ。あれについてどう思いますかと聞かれて、すぐに100万回再生されてすごく良かったとか、アベノマスクも全肯定していたりとか、あの人の自己肯定力のものすごさがわかって、とても興味深いんですけど。吉田さんは、あまり政治的な発言をされませんが、何かあるんですか?
「紙は燃えない」自由に書けるが、なかったことにされるジレンマ
吉田 言わないわけじゃないです。基本的に政治的な人間ではあるんですけど、Twitterでは言わないという線引きをしています。
武田 そこにはどんな心が。
吉田 Twitterを意思表明の場とは考えていなくて。基本は宣伝、プラス、ニュースを整理する場として使ってます。
武田 でも、その整理のための吉田豪のリツイートによって拡散が始まった、ということが定期的に出てきますよね。
吉田 だからなるべく、両方の意見や見解を拾うようにはしています。そのバランスはいちおう考えています。
武田 そこに「自分はこう思う」ということは、SNSでは書かない。
吉田 ボクが「ここに悪人がいるぞ! みんな叩け!」的な感じで旗を振ることはやりたくない。それぞれで考えてほしいという感じで拾っているだけです。
武田 でも、吉田さんのフォロアー数とか影響力を考えると、リツイートするだけでも、旗を振ってると判断する人もいるんじゃないですか。
吉田 だからこそできるだけバランスよく拾って、意図がわからないようにしたいと思っていて。
武田 そこをコントロールするのはなかなか難しいですよね。
吉田 難しいですね。それも年々難しくなっている気はしていて。だから以前ほど、Twitterをやらなくなってきているんです。Twitterの使い方は人それぞれでいいはずなのに、最近、なぜかやり方を強いる人たちが増えてきて、それがすごいイヤなんですよね。「これに触れないということは、あなたは悪に加担していることになりますよ」的なことを言われたりするじゃないですか。Twitterは自由だから、あなたはそのルールで生きればいいけどそれを他人に強いる権利はないし、こっちもどこかで触れてはいるんですよ。Twitterで触れてないだけのことで。Twitterで何でも言うわけないじゃん、というのがボクの意見です。
武田 それは僕も思います。雑誌の連載でたくさん書いてるし、イベントなどで喋ってもいる。だけど、その人の主張のいちばん強いところがSNSに載っていると思われがちで、なかなかしんどいですいよね。
吉田 「Twitterで触れない=スルー」ととられるのは、モヤモヤしますね。たとえば政治的なことだって、尺をとれる場でちゃんとやってるんです。久田(将義)さんとやってる『噂のワイドショー』とかで。Twitterが全てではない、という当たり前のことをわかってほしい。
武田 Twitterが全ての人は、加藤登紀子さんに向かって、「政治的な発言するとは思いませんでした、がっかり」というツイートをしたりしますからね。
吉田 いや、昔からゴリゴリの人ですよ!
武田 だからTwitterに飛び交う言葉を、すべて真に受けちゃいけないんですけど、付き合い方が難しいなとは僕も思ってます。一方で、紙なら安全、という状況になっちゃってる。
吉田 そうなんですよ。「紙だと燃えない」といろんな人が言ってます。なぜなら紙は、本当に知りたい人がお金を出して買ってるから。さらにその人数も少ないから燃えるわけがない。配信もそうですよね。限定された人数の、本当に知りたい人だけがお金を出しているから、まず燃えない。
武田 だから、紙には書きたいことは書けるけれども。
吉田 その代わり反響は少ない。ネットはギャラが安いけど反響はある。
武田 そのジレンマというか、悲しさはありますね。
吉田 10年くらいまでは、雑誌のインタビューでもTwitterでかなりの反響があったんですよ。週刊誌を買って読んでつぶやく人たちが相当いた。だけど今は、ボクの雑誌のインタビューの感想もかなり少なくなりました。一方、ネットのインタビューの感想はとんでもなく多い。ネット記事として配信されない限り、「なかったこと」になりつつあります。
武田 ただ、そういう状況ではあるけれども、吉田さんも僕も、雑誌で育って書いてきて、雑誌のリテラシーというものはある。その上で、今、ネットで、テレビのことや芸能人のことを書いていますよね。そういうリテラシーがないままネットに書くと、たとえば晩年の「cakes」で起きたような炎上が起きると思うんです。
吉田 今後、どんどん増えていくでしょうね。
武田 だから、これからどういうWebメディアが出てくるかわかりませんけれども、雑誌的な脳、出版社的な脳が全くないままWebをやると、どんどんクオリティは下がっていくだろう。さきほど話した「まとめ」問題(前編参照)も含めて、インタビューのクオリティも下がっていくだろう。そう考えたとき、雑誌自体は少なくなっていっても、雑誌的なリテラシーを持っている人間が細々と生き延びる道はあるんじゃないかと思ったりしているんです。
吉田 そうなんですよね。だから砂鉄さんとかボクたちの食い扶持はまだ大丈夫という感じですね(笑)。
武田 そもそも、雑誌がなくなるとニュースになりますけど、Webサイトだって、めちゃくちゃなくなってますからね。短命で話題にもならず。それを考えると、雑誌的の作られ方、そこにオピニオンが宿るまでの時間の長さを、侮ってはいけないと思います。
吉田 Webサイトがなくなると、そこでやったインタビューが世の中に存在しなかったことになるのが切なすぎます。雑誌は残るじゃないですか。Webも、アーカイブを残してくれればいいんですけど、ボクのインタビュー、媒体をまたいで前・後編でやったものが、後編しか残ってないのとか、いろいろあります。
豪さん「唯一の小説」と、砂鉄さんの「靴1足問題」について
武田 吉田さんの小説の話をするのを忘れてました。
吉田 しないでいいですよ、別に(笑)。
武田 2003年に出た『YAWARA、その愛』。タイトルそのまま、ヤワラちゃん(谷亮子さん)への愛。これは初小説ですね?
吉田 唯一の小説で、ラスト小説です。
武田 これ、本当に素晴らしかったです。
吉田 現代の基準だとアウトなことも書いているんじゃないかと思って、もう読み直してもいないです。事情を話すと、元は『en-taxi』に書いたもので、最初のオファーは、スポーツのコラムを書いてください、だったんです。「スポーツに興味ないから無理です」「そういわず何とか」というがやりとりあって、じゃあ、ヤワラちゃんには興味あるんで、ヤワラちゃんのコラムを書きますって1本書いて。次に「小説書いてください」「ムリです」「そこを何とか」といわれたので、ヤワラちゃんには興味あるんで、ヤワラちゃんの小説でいいなら書きますと。で、ものすごく周辺取材をして、関係者とか新聞記者とかにも聞き込みをして、ノンフィクションを書けるレベルまで調べて、あえて小説として書きました。
武田 めちゃくちゃ手が込んでるんですね。
吉田 評判は良くて、その後も小説のオファーが来たんですけど、手が込み過ぎてて、手間とギャラが見合わないので、もう書かないと宣言しました。あの時期、ボクがちょっとどうかしていたんです(笑)。
武田 電子書籍で読めますので、ぜひみなさん、読んでください。
吉田 いまも定期的に印税が数百円振り込まれますよ(笑)。最後に、たくさん来ている質問のなかから一つ。「砂鉄さんが靴1足しか持っていない問題を改めて確認してほしいです」。
武田 靴は、今日はいているスニーカーと、あとサンダルが1足あるだけです。靴ってそんなに必要なくないですか?
吉田 最初にこれ聞いたとき、ボクはけっこう衝撃でした。
武田 そうですか? 吉田さん、何足あります?
吉田 靴の数なんか数えたことないですよ! 50足は超えてるのかな。
武田 50! なんでそんなに必要なんですか。今日はこの靴にしようという基準が何かあるんですか。
吉田 そんな深い考えはないですよ! とりあえず服の色に合わせてとか。
武田 すごい。ただのおしゃれさん発言ですよね。
吉田 これが普通なんですよ! 天気の関係とかもあるし。濡らしたくない靴とかあるじゃないですか。
武田 そうか、天気も気にするんですね。ものすごい普通の話をしている。
吉田 普通じゃない人が横にいるからですよ!
武田 そうですか。靴ってすぐに劣化するものじゃないから、1足でいいかなと思ってるだけなんですけどね。でも、この話、大竹まことさんもすごく喜んでくれたりして、2足目を買ってもいいんだけど、買えなくなってきました(笑)。
吉田 別にミニマリストなわけではないですよね。
武田 全然。家は本とCDだらけです。
吉田 そこは同じです。靴1足問題、確認できました。今日はありがとうございました。
【吉田豪×武田砂鉄「ボクたちの聞き出す力」後編】