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#01 ひとりパフェでじぶんを知る。 斧屋「ひとりパフェ活のすすめ」

「お父さん、最近なんだかイキイキしてない?」「主任、朝から楽しそう……」それ、パフェのおかげです! 趣味がない大人、第二の趣味がほしい大人に、日本で唯一のパフェ評論家・斧屋が全力でプレゼンする「おとなのパフェ活」指南。さあ、あなたも人生を豊かにする「ひとりパフェ活」はじめませんか。
[毎月第1・3金曜日更新]

※本連載は小社より単行本として刊行される予定です。
※書籍化にあたって一部のみ公開しています。

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 ここ最近の5年間で、2000本以上のパフェを食べています。だいたい、ひとりで。
 実は今、パフェの歴史上空前のブームが起きています。ちまたにパフェを出すお店やイベントがあふれています。文化として根を下ろしつつある証拠と言ってもよいかもしれません。
 読者のあなたは、趣味をお持ちでしょうか。趣味がないという方は、この連載をパフェを趣味とするための手引きとしていただけるとよいかもしれません。趣味がある方は、その趣味にパフェを寄り添わせてみてはいかがでしょうか。趣味の用事に合わせてパフェを食べる。あるいは、自分の趣味とパフェの共通点を見つけて楽しむ。人生を豊かにする力がパフェにはあるのですから。

 そして、パフェはひとりで楽しむのに適した趣味です。
 映画を観るほどの時間がなくても、異世界に浸る体験ができ、気持ちをリフレッシュすることができる。それが、パフェです。一言でいえば、パフェは手軽にできる芸術鑑賞です。しかも、パフェは五感で楽しめる芸術なのです。よく「映え」として取り上げられるパフェですが、見た目(視覚)はあくまでその魅力の一部。パフェをたしなめばたしなむほど、香り(嗅覚)や食感(触覚・聴覚)の豊かさに魅了されていきます。さまざまな味(味覚)の変化に富むことは言うまでもありません。五感すべてで体験するもの、それがパフェです。

 パフェはライブであり、生演奏になぞらえることができます。その場でしか食べられないという制約の下で、時間が経つと失われてしまう芸術を体験できるのです。アイスの心地よい冷たさや、ハーブの鮮烈な香り(*1)、フィヤンティーヌ(*2)の軽快な食感は、その瞬間だけのものです。

 また、パフェは上下に層を成していて、食べる順番がおよそ決まっている、いわば「物語」でもあります。グラスの中を上から下へと進んでいく物語なのです。それぞれの食材の入る順番が変われば、パフェは違った物語になってしまいます。作り手がどんな物語を表現しようとしているのかを想像しながらパフェを食べ進める。ここに無上の喜びがあるのです。
 たとえば、ロイヤルホストの「渋皮栗とほうじ茶のブリュレパフェ」。渋皮栗のアイスや栗の甘露煮など、終始栗の存在感の強いパフェですが、パフェの中ほどに赤すぐりが入っているのがポイントです。ストーリーの大きな流れに逆らうような、冒険譚においては主人公の行く手を遮るような存在によって、むしろ物語は面白くなります。道半ばに赤すぐりの強い酸味を入れることで、一拍間を置いたような効果があり、それが再び登場する栗へのドライブ感となって、パフェが単調になるのを防いでいるのです。

 こうした魅力をあわせ持つパフェだからこそ、ひとりで食べるのがふさわしいのです。もちろん、親しい人と語らいながら食べるパフェにも固有の楽しさがありますが、ひとり展覧会に赴いて、時間を忘れて芸術作品と向き合うといったような体験こそ、コミュニケーション過多で気忙しい現代人の生活には必要なのではないでしょうか。生活の些事を束の間脇に置いて、美的体験に身を浸すことが、生きる力になるのです。

 ひとりでパフェを食べることのメリットは、集中できること、余計なことに気を遣わないですむことです。誰かと複数で食べる場合、お互いの都合を合わせる必要があり、会話によって味わいの集中度が下がったり、食べるペースを気にしてしまったりすることもあるでしょう。ひとりのほうが、自分の都合で、自分のペースでパフェと向き合うことができ、パフェの魅力を余すところなく受け取ることができます。幸い、現在は各地のいろんなお店でパフェを食べられるようになりました。ちょっとした空き時間にパフェを楽しむということもしやすくなってきたのです。

 パフェと1対1で向き合うことは、パフェの美味しさを感じるというだけでなく、自分自身を知る方法としても最適です。パフェを食べ歩くことで、自分の好きなタイプのパフェは何か、どんな果物が好きか、どういう食感が好きか、どういう構造が好きかということが次第に分かってきます。自分がどういうものに惹かれるかを知ること。そこには意外な発見があるかもしれません。「パーソナルカラー診断」のように、自分に合った「パーソナルパフェ」を探すこと、それは自分をよく知ることにもなるはずです。

ロイヤルホスト「渋皮栗とほうじ茶のブリュレパフェ」(2022年10月撮影)
クレームブリュレに渋皮栗、ほうじ茶ゼリーに至るまで、終始香りが快い。

*1 パフェのハーブと言えば、てっぺんにちょこんとのったミントを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、現代のパフェにはありとあらゆるハーブが使われるようになりました。比較的よく見るものを例に挙げると、バジル、レモングラス、ディル、タイム、ローズマリー、セージ、レモンバーベナ。最近のパフェはとにかくよく香ります。

*2 薄いクレープ生地を焼いて砕いたもの。パフェと言えばコーンフレークのイメージが強いですが、食感を楽しませる素材としてもっと薄く軽いものを入れたパフェが増えています。

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連載【ひとりパフェ活のすすめ】
毎月第1・3金曜日更新

斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌、配信チャンネル、ラジオ、トークイベント、テレビなどで活動中。パフェの魅力を探究するコミュニティ「パフェ大学」主宰。著書に『パフェ本』『パフェが一番エラい。』がある。
Twitter: @onoyax

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