斧屋×水野仁輔「“美味しい”はゴールじゃない」-『パフェが一番エラい。』刊行記念対談【前編】
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斧屋×水野仁輔「“美味しい”はゴールじゃない」-『パフェが一番エラい。』刊行記念対談【前編】

パフェ評論家・斧屋おのやさんの最新刊『パフェが一番エラい。』刊行を記念して、カレー研究家・水野仁輔さんと初の対談をおこないました。パフェv.s.カレー、食の「異種格闘技」対談のゆくえは……!? 独創的なパフェが人気のお店CAFE CUPOLA mejiroより、全3回にわたってお届けします。
構成=編集部/撮影=山口真由子

僕はこうして「パフェ評論家」「カレー研究家」になった

――まずはHB読者へ自己紹介ということで、それぞれどんな活動をされているか教えてください。

斧屋 僕は基本的にSNSや雑誌なんかを拠点として、パフェの応援団的な活動をしています。ちょうど10年くらい前に、パフェを食べてブログを書くというのを始めたんですが、姉(※コラムニスト、漫画家の能町みね子さん)が出演しているラジオ「久保ミツロウと能町みね子のオールナイトニッポン0」にゲスト出演することになりまして。久保さんが出られない回の代役というかゲストとして呼ばれたんですが、そのとき半分冗談で初めて「自称パフェ評論家」と名乗ったんですね。そんなこんながあり、「パフェ評論家」という肩書きで2013年にファッション雑誌「装苑」のスイーツ特集に出させてもらったり、雑誌のお仕事もいただくようになり、2015年に『東京パフェ学』という初めての書籍を出しました。

水野 僕は「カレー研究家」が一般にわかりやすい肩書きなのでずっとこれでやっているんですが、「カレー専門の出張料理人」というのが、自分を正しく表していると思うんですよね。25年前に「東京カリ~番長」という団体を結成してカレーのイベントを始めてから、スパイスを携えて各地のイベントでカレーを作る、というのをメインの活動としてずっとやってきてます。その中で、本を出したり、料理教室をやったり、講演をしたりするようになった。でもカレー専門の出張料理人って言うと「それ何なんですか?」「お店はあるんですか?」ってわかりにくいから、カレー研究家ということにさせてもらってます。

斧屋 もともとカレーが好きだったんですか。

水野 うん、もともと好きで作ってたのを、人にも食べてもらってみんなで楽しみたいと思うようになって。人を集めてカレーを作ってふるまっていたらそれがわりと好評で、そのうち「うちのイベントでも作ってくださいよ」と他から声をかけてもらうようになって、だんだんこうなっていった。だから研究家や料理人を目指したわけじゃなかったんだけれども、結局もう20年以上やっている、という感じですね。

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アイドルオタクからパフェの世界へ

――斧屋さんは、なぜ「パフェ沼」に?

斧屋 直接のきっかけは本を衝動買いしたことです。スイーツ番長という方が11年ほど前に出された『男のパフェ』という本が、池袋ジュンク堂書店のエレベーターを降りたところに面陳めんちん(雑誌や書籍を棚に立て、表紙を見せて陳列する売り方)してあったのを見つけて、衝動買いしたんです。

水野 もともと甘いものが好きだったの?

斧屋 まぁ好きではあったと思います。お酒をほとんど飲まないこともあって、ケーキは好きだったし、パフェもごくたまに食べてはいたんですが、特別好んでバクバク食べるというわけではなかった。まず『男のパフェ』に載っていた、資生堂パーラーやタカノフルーツパーラーのパフェを食べていったんですが、するとパフェにエンタメ性を強く感じて、そこから意識して色々と食べていくようになる。そうしていくうちに、もしかすると今も皆さんの中にあるかもしれないパフェのレトロなイメージを、壊してくれるパフェがたくさんあると気づいたんですね。そしてどんどん深みに……という感じです。

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水野仁輔(みずの・じんすけ、写真左)
カレー研究家。株式会社エアスパイス代表取締役。「AIR SPICE」を立ち上げ、コンセプト、商品、レシピ開発のすべてを手がける。1999年に立ち上げたユニット「東京カリ~番長」では、料理人として全国各地での出張ライブクッキングを実施。『カレーになりたい!』『スパイスカレー事典』『いちばんやさしいスパイスの教科書』『スパイスカレーを作る』『ビリヤニ とびきり美味しいスパイスご飯を作る!』等カレーやスパイスに関する著書多数。
斧屋(おのや、写真右)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌、ラジオ、トークイベント、TVなどで活動中。著書に『東京パフェ学』『パフェ本』がある。

水野 最初に読んだその本には、「パフェはエンターテインメント」と書いてあった?

斧屋 そうは書いていないけれども、具体的な魅力については色々と書いてあった。僕は当時アイドルオタクとして活動していまして、本を読んでパフェを食べていくと、アイドル的なものとパフェ的なものが自分の中では非常に似通っていて、エンターテインメントという視点で非常に共通性が高いと感じたんですね。なので、パフェに入っていくのは自分の中では自然というか、アイドルからの連続的なものとして違和感がないんです。

水野 なるほど、斧屋さんの中にまずアイドルがあったからなんですね。パフェという存在に対して、エンタメ的なものを感じる。ここが、斧屋さんが他のパフェ好きな人とはちょっと毛色の違う点だと思うんですよ。

斧屋 そうですね、「パフェはエンターテインメントである」というのは、今は自覚的に言っています。パフェをケーキとか他のスイーツと同じ括りでは見ない。水野さんも著書の中で、カレーのことを映画や音楽や舞台の比喩を使って語るじゃないですか。時間芸術、空間芸術といった他の事象からのインスピレーションでパフェを見る、というのは、僕も大事だと思っていますね。

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水野 そこのところ、僕はすごく共感してるんですよね。僕は「カレーはコミュニケーションツールである」という考えでずっと活動しているんだけど、やっぱりパフェって食べ物だし、カレーって食べ物でしょう、そもそも。だからそれがエンタメだとか、コミュニケーションのツールだとかいうのは「ちょっとおかしいよね」っていうのが普通の冷静な感覚だと思う。けれども、食べ物なんだけど美味しい・美味しくないを超えた存在として、美味しい・美味しくないとは別のところに魅力があると、しかも他の料理よりその傾向が強いと、思い込んでいるんですよね。

斧屋 そうそう、思い込んでるというか、そうだと言いたい。

水野 僕はラーメンやパスタでもコミュニケーションできると思っているけど、カレーのほうがよりコミュニケーションツールとして強いと思っている。だから部分部分でいえば、カレーよりもパスタが美味いと思うときはあるし、カレーよりラーメン食べたいと思うときもある。でも、パスタやラーメンのほうがコミュニケーションができると思うことはない。きっと斧屋さんは、パフェとケーキを比べた時に、エンターテインメント性はパフェのほうが確実にある、と思っているわけですよね?

斧屋 そうですね。信念というか。

水野 そこに惚れ込んでいるというところが、僕らは同じ穴のムジナなんだろうなぁ。

斧屋 美味しい・美味しくないの議論ってあまり面白くないというか、個人的にこうであれば美味しいとか思うことはもちろんあるけれども、極論をいえば美味しいってあくまで主観なので。アイドルの研究で言うと、例えば可愛い・可愛くないとか、好き嫌いってやっぱり主観なので、議論としてあまり広がりがないわけです。そうではなくて、ファンとアイドルがどういう関係を結んでいるのか、どんなファン文化がそこにあるのか、といったことに僕は関心があった。だからパフェでも、グルメライター的な方がやっていること、このお店が美味しいとかこのメニューが人気があるとか、そういうことにはあまり関心がなくて、構造についてだとか、好き嫌いを超えたところでどんな言語化ができるかを、僕はやりたくなってしまいますね。

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水野 アイドルを例にすると非常にわかりやすいなぁ。カレーの世界も同じで、グルメ界というのは「あのカレー屋が美味しいよ」「えーそうかなぁ」とかってそれぞれの主観で言い合うことで、盛り上がるという面が確かにある。ただやっぱり僕もそこじゃないところに惹かれているから、僕が校長をやっている「カレーの学校」で初期の頃から言っているのは「美味しいカレーが作りたい、美味しいカレーが食べたいというのはほとんどの人が思っている。僕もそう思っている。でも美味しいカレーはゴールじゃない。美味しいカレーを手段として、あなたはその先に何をしたいんですか? 目的は何ですか?」っていうことなんです。そこが見つかったらいいよね、と。僕の場合は、美味しいカレーが作れることを手段にして、会いたい人に会う、行きたい場所に行く、それがゴール。「美味しいカレーが作れた」でゴールテープを切っちゃったらもったいない。

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メディアには似顔絵のお面をつけて出演する斧屋さん。絵は姉の能町みね子さんに描いてもらった。「お面いいなぁ。僕もそのやり方にしたらよかった!」と水野さん。

「一番美味しいパフェはどれですか?」の質問が不毛なワケ

斧屋 よく「東京で一番美味しいパフェはどれですか?」といった質問をされるんですが、これって本来は食べ手である自分たちのコンディションやいろんな状況が関わっているはずなのに、あたかも自分の外の世界に「美味しい」があるかのように捉えているんですよね。だから不毛なんです。自分が美味しいと思う諸条件、自分自身の基準がどこにあるのかを知ることが重要なわけで、この探究を目的に、僕も2年前から「パフェ大学」というコミュニティを作って活動をしています。

水野 結局は「自分を知る」ということになるんですね。

斧屋 そうなりますね。自分はフルーツを押し出したパフェが好きなのか、パティスリー的な、いろんな素材の組み合わせを楽しむほうが好きなのか、とか。いろんなパフェについて学ぶことで、自分にとっての「美味しい」が見えてくる。そうすると、自分なりの工夫でパフェをより美味しく食べることができるようになる。どうやったら集中力を保てるか、どういう席がいいか、どういう順番で食べるといいか、とか。提供されたパフェを完成品と捉えないで、そのパフェに対して自分がどうアプローチし、どう食べると美味しい体験になるかということを考える。とても対話的な営みになってきます。

水野 エンターテインメントなんだから、受け手がどう楽しむかが問われるわけだ。

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【取材協力】
CAFE CUPOLA mejiro(カフェ クーポラ・メジロ)
〒161-0033 東京都新宿区下落合3-21-7 目白通りCHビル1F
電話:03-6884-0860
http://cafe-cupola.com/

【中編「どう食べる? カレーとパフェ」】につづく

前編 / 中編 / 後編

斧屋×水野仁輔『パフェが一番エラい。』刊行記念対談(全3回)

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