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斧屋×水野仁輔「どう食べる? カレーとパフェ」-『パフェが一番エラい。』刊行記念対談【中編】

単行本『パフェが一番エラい。』刊行を記念してお届けする、パフェ評論家・斧屋(おのや)さんとカレー研究家・水野仁輔さんとの「異種格闘技」対談。前編から引き続き、東京・目白のCAFE CUPOLA mejiroからお送りします。今回はいよいよ、斧屋さんが監修した期間限定パフェが降臨!
構成=編集部/撮影=山口真由子

カレーの料理人として、僕がどうしてもきけないこと

――前編で、パフェは完成品ではなく食べ手が「どう食べるか」が重要という話が出ましたが、水野さんはご自分でカレーを料理されますね。水野さんにとって、カレーはどの時点で「完成」ですか?

水野 やっぱり食べる人が完成させるイメージです。盛りつけて出すまでは全力でとことんやるんだけど、その先は僕にはもうあずかり知らないところ、という感じ。本を作る時も同じで、校了ギリギリまで本当に考えて書き直して全力を尽くすんだけれども、書店に本が並ぶ段階になると急激に興味を失うんですね……。それは読者にとっても一緒に仕事をする出版社にとっても、あまりいいことじゃないとわかっているんだけれども。書店に並んだ時点でもう読者のもの、という意識があるので、もうそのことは考えないで、次に出す本のことに頭が切り替わっちゃうんです。

斧屋 うーん、それはすごいなぁ。

水野 顕著なのが、カレーのイベントをやっていて、他のシェフや料理人はできて僕はできないことに「お客さんに感想をきく」というのがあるんです。みんな「どうですか今日のカレーは?」「美味しかったですか?」ってきくんだけど、僕はこれが本っ当〜にできない。そういう言葉が自分の中から出てこない、知りたいという気持ちがあまりないみたいで。

斧屋 うーん、面白い。カレーはコミュニケーションツールだと言っておきながら、その点については言葉の力を信じていない……?

水野 いや、たぶん、美味しいかどうかってことに僕はあまり理想や期待がないんです。感想をきくと、何かしら「美味しい」という声が返ってくるでしょう。

斧屋 まぁ、たいてい本人を前にしたら「美味しかった」って言いますよね(笑)。

水野 僕は、きっと誰かは美味しいと言うし、誰かは美味しくないと言うだろうと思っていて。それは僕のコントロール不能なこと、考えても仕方ないことだと思っているんですね。でも、その場にいるみんながすごく楽しそうにしているとか、終わってから「また来てくださいね」と言われるとか、そこにはすごく反応する。心に残る。そう言ってもらえると「次はこんなことしましょうね」とすごく盛り上がるんです。

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水野仁輔(みずの・じんすけ、写真奥)
カレー研究家。株式会社エアスパイス代表取締役。「AIR SPICE」を立ち上げ、コンセプト、商品、レシピ開発のすべてを手がける。1999年に立ち上げたユニット「東京カリ~番長」では、料理人として全国各地での出張ライブクッキングを実施。『カレーになりたい!』『スパイスカレー事典』『いちばんやさしいスパイスの教科書』『スパイスカレーを作る』『ビリヤニ とびきり美味しいスパイスご飯を作る!』等カレーやスパイスに関する著書多数。

斧屋(おのや、写真手前)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌、ラジオ、トークイベント、TVなどで活動中。著書に『東京パフェ学』『パフェ本』がある。メディア出演時につけるお面(本記事トップ画像左側)の似顔絵は、能町みね子さんによるもの。

カレーはジャズ。パフェは?

斧屋 パフェは、例えばグラスの形状とか、途中でかける用のソースを添えるとかによって、食べ方を規定することがあります。カレーの場合、こういう風に食べてねとお伝えすることはあるんですか?

水野 僕の場合はないですね。そもそもインドやネパール、スリランカの料理って、食べ手が自由に味を作る、作り手と食べ手の共創のなかでできていくものなんです。たいていは、複数の料理や素材が1枚の皿に盛られてくる。それを食べ手がそれぞれ好きな順で好きなように手で混ぜて食べる。だから4人が同じ料理を頼んで同時に食べても、4人とも同じ味を食べていないんです。食べ手に全て委ねられている。僕はその経験がベースとして大きいかもしれないですね。これがフレンチのコース料理だと、完成した料理を順番に食べてください、となる。A-B-Cを僕はC-B-Aにしてくださいというのは、基本的にまかり通らないじゃないですか。

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斧屋 パフェは食べ方をおおよそは決めることができて、音楽でいうなら、楽譜が比較的かっちりと決まっている感じです。カレーは、即興演奏的というか……

水野 うん、カレーはジャズっぽいと思う。一応のルールや楽譜はあるけれども、即興性が高い。音楽でいえば水野仁輔は作曲家で、楽譜つまりレシピだけ提供することもあるし、「こんな感じで演奏するといいですよ」と実演して見せることもあるけど、後はもうアドリブでやってもらえばいいよ、という感じ。

パフェの降臨!

※ここで斧屋さんが監修した「めくるめくすいかパフェ」が登場。

水野 おおっ!

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斧屋 ……。あまり似合わないなぁ。

水野 パフェの似合わない男!(笑)

斧屋 僕も似合っているのかはわからないですけどね。

水野 いや、食べているうちに自然と似合ってくるものですよ。

斧屋 振る舞いにぎこちなさがなくなっていく、ということはありますね。さて。では僕も……いや、まず写真を撮りたい(※スマホで素早く撮影を始める斧屋さん)。

水野 あぁそうか、いきなり食べちゃった。まず写真撮らないといけなかった(※と言いつつ、どんどん食べ進める水野さん)。

パフェはどう食べたらいいのか

斧屋 パフェは初手・お茶、初手・水ということもありますよ(※おふたり共通の趣味が将棋であるため、たまに将棋用語が混ざります)。紅茶とか、パフェの邪魔にならないものは飲みますね。

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話しながらも、角度を変えては素早く撮影していく斧屋さん

水野 僕はフルーツも好きだし、パフェとかなり近いところにいるはずなんだけどなぁ。あまり食べないんですよね。

斧屋 海外にはパフェってほとんどないですしね。インドにはファルーダでしたか、かなり近いものはありますが。

水野 そうですね。あ、ここのすいかには塩がかかっているのか。……ん? ここは何だ?

斧屋 こちらがメニューの構成図です。映画のパンフレットを見るように、これを見ながら食べ進めるのも楽しいですよ。僕のルーティンとしては、まず香りを楽しむことから入ります。

水野 なるほど。僕はどんどん進んじゃってるなぁ。……うんうん、ソルベね。えっ、これ、種なんだ!

斧屋 そうですね、食べられる種。

水野 ……ホワイトサワームースが美味しいなぁ。おぉ、途中ですだちが出てくるのか。

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パフェの説明書や構成図は、お店によってさまざまな形式がある

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――パフェを食べる時、ふだんより口数が多くなるタイプと、無口になるタイプがいるみたいです。

水野 僕は完全に無口タイプだなぁ。うん、パンナコッタでまた食感が変わるわけですね。……青じそ!

斧屋 けっこう掘り返していくタイプですね?

水野 掘りますねワタクシは。構成図を見ているからかもしれないけど、次が気になっちゃう。

――『パフェが一番エラい。』の中で、斧屋さんがゲームのRPGに例えていますよね。どんどん先へ進むプレイの仕方もあれば、全ての扉を開け全ての村人に話を聞いてから次のステージに行くプレイの仕方もある、という。

斧屋 どちらがいい、悪いということはない。

水野 もっとひとつのステージを楽しめばいいのに、僕はどんどん次に行きたくなっちゃうんだな。……いやぁ、しかし香りがすごくいいですね。

斧屋 香りの要素が多いパフェです。

――パフェとの対話を邪魔して恐縮ですが、水野さん、本書のゲラを読んでいただいた感想を……次回お願いします!

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【取材協力】
CAFE CUPOLA mejiro(カフェ クーポラ・メジロ)
〒161-0033 東京都新宿区下落合3-21-7 目白通りCHビル1F
電話:03-6884-0860
http://cafe-cupola.com/
※限定メニュー「めくるめくすいかパフェ」のご提供は、2021年7月30日にて終了しています。

【後編「いちご信仰、スパイス主役問題…終らない僕らの探究」】につづく

前編 / 中編 / 後編

斧屋×水野仁輔『パフェが一番エラい。』刊行記念対談(全3回)

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