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ナカムラクニオ×望月昭秀(縄文ZINE)“こじらせ”から考えるアートと縄文の世界(前編)

美の巨匠たちの“こじらせた人生”に魅了され、彼らの人生や作品を追い続けているナカムラクニオさん。新刊『こじらせ恋愛美術館』の発売を記念したトークイベントが、東京・下北沢の本屋B&Bで開催されました。お相手は、ナカムラさんが全幅の信頼を置くデザイナーでありながら、縄文好きをこじらせて、専門家たちとの共著『土偶を読むを読む』まで出してしまった望月昭秀さん。おとなの“こじらせ”は人生にどう影響するのか……? ゆるくて熱い一夜の模様を前後編でお届けします。

(2023年7月20日 本屋B&Bにて収録/構成=編集部)


こじらせた美術本のデザインができるまで

ナカムラ よろしくお願いします。望月さんとこうやって人前で話すのって初めてですよね。望月さんはニルソンデザイン事務所の代表をしているデザイナーさんで、今回の『こじらせ恋愛美術館』のデザインもしてもらったわけなんですけど……実は僕、20冊くらい本を出しているんだけど、そのうちの8冊は実は望月さんにやってもらっているんですよ。

望月 そうだったんですね。ナカムラさんの本の半分近く。

ナカムラ 僕が最初に望月さんを知ったのは、『縄文ZINE』からで。

――ナカムラさんも縄文の土器片を集めていたり、自ら土器を焼いたりと、縄文好きなんですよね。『縄文ZINE』は、望月さんが編集長として企画や執筆も手掛けているZINEですが、ZINEや著書の『縄文人に相談だ』では、望月さんがイラストやマンガも描かれています。なんともゆるくてかわいい……。

ナカムラ そうそう。だから、望月さんは著者の気持ちが分かっているというか、どっちかというとつくり手の側に近いので、いろいろ相談がしやすいんですよ。それでつい、しょっちゅうお願いしちゃうんですよね。今回の『こじらせ恋愛美術館』も、画家たちの恋愛をヒントに作品や人生を見ていこうっていうコンセプトは最初からあったんだけど、それをどんなふうに見せられるのか、どういう本になるか、ちょっとイメージがつかなかった。でも、望月さんらしくポップな感じで色々とデザインしてもらって、おかげで着地できたなという感じがあります。この本のデザインは、どういうふうに作っていったんですか?

望月 シリーズ1作目の『こじらせ美術館』でいうと、まず最初に、本物の美術館みたいな本にしよう、というのがありました。それで、タイトルのロゴを美術館のエントランスみたいな感じにしたりとか、カバーや見返しの紙をキャンバス地みたいなテクスチャーがあるものにして、絵画っぽい感じを出したりとか。

ナカムラ この本の全体を、美術館に見立ててあるということですね。

望月 あとは、全体を通してナカムラさんの絵を邪魔しないように、というのはありました。このシリーズ、何がすごいって、各画家の絵を全部ナカムラさんが描いているんですね。ちゃんとそれぞれの画家に寄せていて、画家の気持ちになって描いているのかなと思って、それを見ているだけでも面白い。

――望月さんが打合せのときに、「ナカムラさんのイタコ芸」とおっしゃっていたのが印象的でした。なるほど、イタコだなと。

ナカムラ この本のおかげか、最近ほかの雑誌やムックからも、「イタコ芸」とは言わないけど「画家の●●のつもりで書いてください」という依頼がけっこう来るんですよ。この前は、マティス展のガイドブックの仕事で、マティスのつもりで言葉と絵を描いてくださいという依頼をもらって。実際やりました。

望月 イタコ芸、すごいと思います。最近アニメ映画の『スパイダーマン』を観たんですけど、多次元のマルチバースで、各バースごとにスパイダーマンの絵のタッチを全部変えて描いているんですよ。これ、ナカムラさんみたいだなと思いながら観ていました。

ナカムラクニオ
1971年東京都生まれ。東京・荻窪の「6次元」主宰、美術家。日比谷高校在学中から絵画の発表をはじめ、17歳で初個展。現代美術の作家として山形ビエンナーレ等に参加。金継ぎ作家としても活動している。著書に『村上春樹語辞典』『古美術手帖』『モチーフで読み解く美術史入門』『洋画家の美術史』『こじらせ美術館』など。

オキーフの「和」、ダ・ヴィンチの「巻き毛」

望月 この本って、見ても楽しいけど、実は中身が濃いというか、情報が詰まっていて知識がガンガン入ってきますよね。このバランスがとてもいいなと思います。

ナカムラ 『こじらせ美術館』の作り方というか見せ方は、けっこう『縄文ZINE』に影響を受けていますよ。『縄文ZINE』って、かなりちゃんと取材した濃い内容だけど、ちょっと漫画が入っていたり、ゆるいイラストが入っていたりして、気軽に読めちゃう。それがいいなと思っていて。

望月 入り口はライトにしておいて、実は深いことというか、余計な知識をたくさん入れるような狙いはありますね。

『縄文ZINE』特別版と最新号

ナカムラ ところで望月さん、『こじらせ恋愛美術館』に付箋たくさんつけてくれてますね。

望月 これは、気になった箇所ですね。

ナカムラ ちょっと教えてもらっていいですか。

望月 まずは、ジョージア・オキーフですね。オキーフが恋愛で傷ついた心を、荒野や砂漠で癒やしたという話。僕自身は全然そんな経験はないんですけど、共感しました。元々オキーフの絵は好きだったんですけど、動物の頭蓋骨の絵とか、この話を読んだ後に改めて見たら、すごく腑に落ちる感じがあって。

ナカムラ オキーフって、一般的には、砂漠で美しい生活をしながら画家として98歳まで長生きして……と、きれいな写真とともに、いい感じに紹介されていることが多いですよね。

望月 そうですね。でも実際は、砂漠や荒野じゃないと癒やされない何かがあったんだなと思って。より好きになりましたね、オキーフのことが。

望月昭秀(もちづき・あきひで)
1972年、静岡県静岡市生まれ。ニルソンデザイン事務所代表。書籍の装丁や雑誌のデザインを主たる業務としながら、出来心で都会の縄文人のためのマガジン『縄文ZINE』を2015年から発行し編集長をつとめる。著書に『土偶を読むを読む』(文学通信)、『縄文人に相談だ』(国書刊行会/文庫版は角川文庫)、『蓑虫放浪』(国書刊行会)など。現代の縄文ファン。

ナカムラ 今回調べていて面白かったのは、オキーフって若いときに日本の水墨画みたいなものに影響を受けていたり、晩年は岡倉天心の『茶の本』を愛読していたり、けっこう「和」のイメージがあるんですよ。そういうのを知ってからオキーフの部屋を見ると、確かにどこか茶室っぽい。絵を見ているだけでは気づかなかったけど、細部を調べていくうちに、オキーフの精神性みたいなものを少し理解できたような気がしましたね。

望月 そもそも「こじらせ」というアイデアは、最初からあったんですか。

ナカムラ 僕、「こじらせ」というのは一つの絵の具だと思っていて。画家のエッセンスとして最重要のものだと考えているんです。例えば、この本にも書いたレオナルド・ダ・ヴィンチ。レオナルドはとにかく天才だ、すごいって言われているけど、実は若い頃2回も逮捕されているし、サライという10歳の少年を弟子にしたときは、いきなり靴を24足も買い与えたりしているんです。24足ですよ? おいレオナルド大丈夫か、と思いませんか。

望月 そうですね。

ナカムラ こういうことを調べていくいうちに、レオナルドの本質に迫れるような気がして。サライは美しい巻き毛の持ち主で、レオナルドって巻き毛が大好きだったらしいんですね。レオナルドは水流や渦のデッサンをやたらとしているんですけど、それがどうも巻き毛みたいに見えるんですよ。もしかすると、彼は巻き毛から美の法則みたいなものを発見した、という解釈もできるんじゃないかと。こういう、美術展の解説には書かれないような視点から、画家や作品を読み解いてみたいというのがこの「こじらせ」シリーズの始まりですね。

フジタ、カミーユ、ジャコメッティ……画家はなぜ好きな人の絵を描く?

ナカムラ 本の表紙にもなっている、フジタ(藤田嗣治)も面白いんですよ。フジタといえばパリで優雅な白っぽい絵を描いていた芸術家、みたいなイメージが強いと思うんですけど、5回結婚していて、なんというか、ややこしい女の人ばっかり好きになるんですよね。浮気されたり逃げ出されたり、そういうことを繰り返している。こじらせてる女の人が好きだったんじゃないかなと思うぐらいの繰り返しっぷりで、そこに僕は魅力を感じるんですよね。

望月 背景を知ってから作品を見ると、違ったふうに見えてきますよね。土器も同じで、出土状況とか遺跡とかを見に行ってから見ると、だいぶ印象が変わったりします。あと僕は、カミーユ・クローデルの話も面白かったですね。

ナカムラ カミーユは、長らくロダンの「弟子」という言い方をされてきたけど、今では共同制作者とされることが増えてきました。カミーユはロダンの愛人でもあったんだけど、ロダンは彼女の作風にものすごく影響を受けていると思います。最近ではカミーユの映画も公開されたりして評価が見直されてきたけど、それでもまだ知られていない部分が多いと僕は感じるので、そういうことも知ってもらえたらいいかなと思って、今回書きました。

望月 あと印象的だったのはジャコメッティ。「妻の恋人は僕の恋人」っていう三角関係の話は、完全には共感できないんですけど、なるほどなぁと思いました。

ナカムラ ジャコメッティと妻、そして日本人の哲学者の矢内原。この三角関係ですね。ある日、取材という形で矢内原がジャコメッティのところに会いに来て、ジャコメッティはたぶん一目ぼれしたんじゃないかと思うんですよ。で、取材を終えて帰国するという矢内原に、ジャコメッティは「絵を描かせてくれ」と言って引き留めて、最終的に72日間も毎日毎日、矢内原を描くんですね。それでようやく1作完成したわけだけど……72日間、1日も休まず描いたというんですよ。ちょっと、どうかしているじゃないですか。

望月 画家の人って、よく好きな人の絵を描きますよね。

ナカムラ そう。だから絵を描くのは、口実だったような気もするんですよね。だって、その気になれば1日で終わったかもしれないじゃないですか。でも、どうしても一緒にいたかったから72日もかけた、そういう絵なのかなと思ってみるとまた味わい深い。

望月 愛情表現なんですかね。それとも、自分の欲望として描きたいのか。

ナカムラ どうなんですかね。少なくとも、描かれている側もその欲望に応えるからこそ作品ができる。だからやっぱり、画家とモデルの関係がある程度相思相愛じゃないと、傑作は生まれないのかなと思います。そういう意味でも、パートナーの存在って画家にとって大きいので、今回そこを掘り下げて書くことで、見えてきたことが色々ありますね。

ゴッホは自殺じゃなかった? 足跡を辿る旅で得た違和感

ナカムラ 僕は最近、「こじらせ」シリーズで書いてきたことを検証する旅をしているんですよ。この前はゴッホゆかりの地を巡って、最後に住んだ部屋とか、お墓とか、耳を切り落とした場所とかを見てきました。それで、僕はやっぱりゴッホは自殺じゃないっていう気がしたんですよね。だって、ゴッホって亡くなる直前に評価され始めていて、亡くなる2ヶ月前くらいから本当にものすごく精力的にたくさんの絵を描いているんです。狭い部屋で、寝るスペースもなくなりそうなくらい。「俺、絶対売れるぜ」という気持ちがないと、こんなに大量に描かないんじゃないかと思うんですよね。それにゴッホは外でピストルを撃ってから部屋まで戻っているんですけど、実際にその場所から部屋まで歩いてみると、そこそこ距離があって。死ぬつもりなら、こんなややこしいことしないで最初から部屋で撃てばいいと思うし、色々と不思議です。

望月 面白いですね。ゴッホは自殺じゃなかった説。

ナカムラ それに、僕はゴッホが優れた画商だったということにもすごい興味を持っています。ゴッホが最初に展覧会をやったカフェ・タンブランの跡地にも行ってきたんですけど、その展覧会っていうのは、自分の作品ではなくて、浮世絵のコレクション展なんです。まともな美術ファン、熱意ある画商としての知性を感じるんですよ。だから、一般にゴッホというと「狂気の画家」というようなイメージが強いんですけど、実際に見て回って調べると、どうもそうじゃない気がしてくる。

南仏のアルルにて、ゴッホが暮らした黄色い家(撮影=ナカムラクニオ)

望月 もしかしたら、ちょっと演出も入っていたのかな。画家って、「天才」のイメージを自分で演出していることがわりとありますよね。

ナカムラ ピカソは有名ですよね。ピカソは売れてなかったときに、パリ中の画廊に行って「ピカソの絵ありますか」と自分で聞いて回った。そうすると、画廊の人が「ピカソって誰だ?」となって、「話題ですよ、パリ中の画廊で」と言って自分を売り込んでいた、というね。それに、ピカソっていかにも画家!って感じの写真がいっぱい残っているんですけど、これは、いいカメラマンにしょっちゅう自分の描いているところを撮らせていたんですよ。上半身裸で、絵の具まみれになって描いているようなやつを。

望月 確かにかっこいい写真が多いですね。

ナカムラ 自分をそういうふうに見せたかったんじゃないかと。ダリのトレードマークになっているヒゲも、妻のガラから「偉い人はみんなヒゲが伸びていてかっこいいから、ヒゲを伸ばせば偉い人に見える」とアドバイスされてやっていたわけだし。

望月 偉くなったからヒゲを伸ばす、ではないんだ。面白いですね。

南仏のアンティーブにて、ピカソがアトリエにした城(撮影=ナカムラクニオ)
南仏のアンティーブ、ピカソ美術館にて(提供=ナカムラクニオ)

後編に続く

【ナカムラクニオ×望月昭秀(縄文ZINE)
“こじらせ”から考えるアートと縄文の世界(前編)】

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