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第9回 もう一度 賽助「続々 ところにより、ぼっち。」

大人気連載、3期目に突入!
ゲーム実況グループ・三人称の「鉄塔」こと作家の賽助が、ぼっちな日々を綴ります。
※全24回予定。第2回以降、最新話のみ1週間無料配信。

[毎月第4火曜日更新]
illustration 山本さほ


 このエッセイを書いている段階ではまだ本番を迎えられてはいませんが、何も問題なく進んでいれば、僕が所属しているゲーム実況グループ『三人称』は2024年12月22日にところざわサクラタウンにて『SANNINSHOW HOUSE vol.1』というオフラインイベントを開催していることと思います。
 
 こちらのイベントは降っていたような企画で、以前関わりがあったイベント運営会社から「この日会場が空いてしまったんですが、何かやりませんか?」とざっくばらんな連絡があったのがそもそものきっかけです。
 
 我々三人称は「トークのみ」のイベントは定期的に開催してはいるものの、ゲームで遊んでいる様を見ていただくような、いわゆるゲーム実況者的なオフラインイベントを開催したことはありません。
 
 もともと「雑談をする」ということがグループの目的であったというのも大きな理由ですが、実際にゲームをプレイするイベントとなると、用意する機材や設備も多く、それに伴う人員も確保しなければならなくなり、一筋縄ではいかないことが容易に想像されます。

 2024年のトークイベントでは運営を外部に依頼することにしたのですが、昨年まではすべて三人称が自前で運営していました。

 会場の候補を自分たちでリサーチし、直接電話で予約。チケット会社に連絡を取り、その過程で手作業で座席を入力したこともあります。照明や音響はそれぞれの会場付きのスタッフにお願いしなければならないので、その方たち用に音や照明のきっかけを記した『キューシート』を作成、当日には音響スタッフや照明スタッフと対面で打ち合わせをしました。

 作成した『キューシート』が業界的にちゃんとしたものになっているかどうか、一度も作成したことがないのだから全く分かりません。

 ただ、何も知らないやつらだと思われてしまうと適当に扱われてしまうかもしれないと思ったので、演劇に触れていた頃の記憶を呼び起こしながら、さも「僕らはこういうイベントに慣れていますよ」「でも今回はちょっとラフでやらせてもらってます」といった顔をしながら、彼ら歴戦のスタッフたちとやり取りをしてきたものです。

 マイク3本を使ってお客さんの前で話すだけでもここまで大変なのですから、これにずいしてゲームをする環境と設備を整えなければいけないとなると、そこまで手が回るとは到底思えませんでした。

 しかし、今回話を持ってきてくれた運営会社はその手のイベントは慣れたものであり、その点の不安はかなり少ないと言えるでしょう。

 ねん材料としては、オンライン配信もあるとはいえ、昨今トークイベントを開催している会場に比べてキャパシティが小さいこと。しかし、かかる費用は大きくなるのでチケット代を高く設定せざるを得ないことあたりが思い浮かびます。

 どうしたものかとかなり悩みましたが、いずれ大きな会場でゲームをプレイするイベントをしてみたいと考えていたので、その足掛かりとしてはとても良い機会なのかもしれません。

 さらに、その日が12月22日、たまたま僕の誕生日であったので、せっかくだからそれを絡めてみるのも面白いのではないかと話は進み、ファンミーティング的な位置づけとして今回のイベント開催に踏み切りました。

 僕は常々、どういう形であれいつかできないかと思っていたことがあります。
 それは『ぎょうてん』のメンバーと再び和太鼓を演奏することでした。

 僕は和太鼓パフォーマンスグループ『暁天』に所属していたのですが、コロナ禍によりそれぞれメンバーの状況が大きく変化してしまい、2021年に活動を休止しています。

 今までしていた表現活動をやめて定職にいた者、住んでいた町を離れて別の土地へ移住した者と、現在は環境も大きく変わっています。

 和太鼓の練習も難しいですし、このままの状態では本番なんて迎えられようもありません。

「もうあのメンバーで和太鼓をたたくこともないのだろうなぁ」と半ば諦めていたのですが、例えばファンミーティング的なイベントであれば、あるいは練習不足は少し大目に見てもらいながらも、再びメンバーが集合して、皆さんの前で演奏をすることができるのではないか……?

 もちろん、有料イベントなのですから、お客さんに甘えるようなことは本来あってはならないと思います。
 ですが、ここでもやれないのであれば、多分もう二度と演奏をすることはできないだろうと考えたので、僕は三人称メンバーに「暁天の演奏をお願いしてもいいか?」と相談しました。

 返ってきた答えは「まったく問題なし」。例えばイベントのオープニングに和太鼓の演奏があるのなら、これ以上のものはないとのこと。

 メンバーからの了承は得られたので、次に暁天のメンバーに連絡を取りました。
 けいスケジュールやギャランティの問題など考えなければならないことは多々ありますが、まずはメンバーそれぞれの参加意思がなければ、そもそも演奏自体ができません。

 状況も変化していますし、練習があまりできないことも伝えた上での出演依頼になります。
 その状態で演奏を披露することに抵抗があるかもしれません。あるいは、そもそも人前に立つこと自体が嫌になっている場合だってあります。

 この依頼をするに当たって、メンバーの誰か一人でも『スケジュールの都合以外での不参加の意思』を表明することがあれば、今回の企画はやめておこうと考えていました。
 これは僕の我儘わがままであって、誰かが「やりたくない」と言うのであれば、その意見をこそ最大限に尊重したいと思ったからです。

 結果、暁天メンバー全員が参加の意思を表明してくれました。
 もちろん、スケジュールの兼ね合いで本番参加への懸念を抱いている人はいますが、参加すること自体をためらう人はいませんでした。

 これは素直にうれしかったです。
 僕と同様、皆がどこかで和太鼓をまた叩きたいと考えていたのだと思います。

 スケジュールの調整を試みてみましたが、予想通りなかなか練習時間がとれないことが分かりました。果たして少ない稽古期間でどれだけ『あの頃』に近づくことができるのか分かりません。

 かくいう僕も体力は相当落ちていると思いますので、自主練として和太鼓が練習できるスタジオに入り、わずかでも取り戻したいと思います。

 このエッセイが公開される時には、おそらく本番を終えている頃かと思いますが、どうか失敗はしていないようにと祈るばかりです。

 ともあれ、何歳になっても青春を感じる瞬間はあるのかもしれないと、あらためて思う今日この頃でした。

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【続々 ところにより、ぼっち。】
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賽助(さいすけ)
作家。埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。毎週木曜深夜1:30からラジオ「三人称・鉄塔 ひとりのよる」(文化放送)が放送中。著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』『今日もぼっちです。』『今日もぼっちです。2』『手持ちのカードで、(なんとか)生きてます。』がある。
X:@Tettou_
「三人称」YouTubeチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg

山本さほ(やまもと・さほ)
漫画家。1985年岩手県生まれ。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(note掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作は『ビッグコミックスペリオール』で連載後、2018年に全5巻で完結。現在『無慈悲な8bit』(週刊ファミ通)『きょうも厄日です』(文春オンライン)連載中。その他の著書に『山本さんちのねこの話』『てつおとよしえ』等。
X:@sahoobb

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