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さもなくばフルーツサンドを|もとしたいづみ『レモンパイはメレンゲの彼方へ』(4)

2月も半ばを過ぎ、明るくなってきた日差しが近づく春を感じさせます。
絵本・童話作家のもとしたいづみさんの、おやつと子どもの本がテーマのエッセイ集『レモンパイはメレンゲの彼方へ』から4回にわたり、お届けしてきた最終回。今回は、春が旬の果物・いちごが具材に使われることも多い、フルーツサンドのお話です。
もとしたさんの心を捉えて離さない、フルーツサンドの魅力とは?
ちょっぴりノスタルジーも感じさせる1編を、お楽しみください。

『レモンパイはメレンゲの彼方へ』

もとしたいづみ

さもなくばフルーツサンドを

「おかあさんは、いちごを とんとんとうすくきって、それに、はちみつを とろとろとろっとかけたのを、パンにはさんで、サンドイッチを つくってくれました。」
『もりのへなそうる』という童話の一節だ。幼い兄弟が、現実と空想の間を行き来して冒険をする話で、一九七一年の発行以来、子どもたちの絶大なる人気を誇るロングセラーだから、ご存知の方も多いと思う。
 私は、自分が親になってから読んだせいか、兄弟の冒険や、「へなそうる」という名の動物より、彼らの母親の大らかさや、冒険に送り出すときのお弁当に、心をわしづかみにされた。
   フルーツサンドとは、なんと洒落(しゃれ)たお弁当だろう!  今、ちまたのフルーツサンドは生クリームが主流だけれど、はちみつを使うところが、家庭でできる簡単おやつっぽくていい。しかも「とんとんとうすくきって」という表現!  「スライスする」を、子どもにわかりやすく表現したのだろうけど、こちらの方がいちごの断面が目に浮かび、同時に香りもしてくる。なによりはちみつを「とろとろとろっ」という、ケチケチしないで、たっぷりかけた感じがうれしい。この本が書かれた頃は、 いちごは今よりも酸っぱかったはずなので、甘くするためにも、そしていちごの水分がパンにしみ込むのを防ぐためにも、はちみつは多めの方がいいのだろう。
 子どもは、こういうおやつみたいなごはんみたいなものが大好きだ。でも大人になると、主食であるパンに、デザートの果物とクリームをはさむ、どっちつかずな食べものは、通常、なかなか食べるチャンスがない。
   私はフルーツサンド好きなので、「パフェを食べよう!」と思って、意気揚々とフルーツパーラーに入っても、メニューに「フルーツサンド」の文字を見れば心が揺らぐ。が、「いや、初志貫徹でパフェだ!」と、マンゴーパフェなどを注文したあとで、つい「あ、それと、フルーツサンドもお願いします」と口走ってしまい、後悔することになる。フルーツパフェとフルーツサンドは、果物とクリームがかぶるので、あんみつとあんパンを食べるようなもの。かといって、ミックスサンドに、デザートっぽくフルーツサンドを組み合わせるのも、パンの食べ過ぎだ。
  では、潔くフルーツサンドだけにして、こう考えたらどうだろう。フルーツサンドはある程度お腹を満たし、甘いものを食べた満足感もあり、果物でビタミンも摂れて、なおかつ腹八分目という、理想のおやつである、と。
 だからこそ、絶対にはずしたくない。見かけだけは素敵なカフェの、あきらかに缶詰の果物を使ったフルーツサンドなど、味わう以前に悲しい。
 断面はバナナ、いちご、キウイ、りんご、メロンなど果物のスライスがあくまでも美しく……。とすれば、やはり餅は餅屋に、フルーツサンドは果物屋が経営するフルーツパーラーに、だろう。
  そんな果物屋の二階にあるフルーツパーラーに行ったときのこと。帰りに何気なく「いちごパフェ、おいしかったです」と言ったら、奥から店主が出てきて、「いちごの品種は軽く百五十種を超え、いちごの甘さよりも、今の時季なら、どの品種が生クリームに合うかを選ぶので大変だ」という話を、財布を持ったまま十五分も聞くはめになった。
 そんな血のにじむような(とは言ってなかったけど)果物のセレクト。そして各店それぞれ腕の見せ所でもあるクリームは、ヨーグルトを使ってあっさりと仕上げたものだったり、軽いカスタードクリーム、サワークリームなどさまざまなのだが、実はパンが軽視されがち。ということに気づいたのは、浅草の「フルーツパーラーゴトー」で、美しいフルーツサンドを食べたときだった。
 ここのパンは近所の老舗ベーカリー「ペリカン」の、ふわふわなのにしっかりした、ちょっと塩気のあるパンを使用している。そのパンと、果物の味を引き立てるべく計算された自家製クリーム。そして新鮮な果物。すべてのバランスとデザインが完璧で、しかも果物は旬の、その日そのとき、ジャスト食べ頃のもので構成されている。つまり行くたびに違うのだ。しかも、バナナとクリームの淡い色のサンドイッチの裏が、目の覚めるようなキウイのグリーンだったりして、ひとつひとつに新鮮な驚きがある。 
 スイカがメインのときはたまげた。きれいだけど、スイカにパンとクリームって合うのだろうかと、でもひと口食べてみて、疑ったことを恥じた。ふわっとしたパンと、シャキシャキした舌触りの瑞々(みずみず)しいスイカに、優しい味のクリームのハーモニーは完璧だった。「今日はどうくるか?」とワクワクしながら待つフルーツサンドは、ちょっと癖になる。

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イラスト/ねもときょうこ

この続きは、書籍でぜひお楽しみください。
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もとしたいづみ
作家。商品企画、雑誌や児童書の編集・ライターなどを経て、子ども向けの作品を書き始める。2005年『どうぶつゆうびん』(あべ弘士・絵)で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、2007年『ふってきました』(石井聖岳・絵)で日本絵本賞、2008年同作品で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。講談社出版文化賞絵本賞選考委員。絵本「すっぽんぽんのすけ」シリーズ、「おばけのバケロン」シリーズのほか、『おむかえまだかな』『キャンディーがとけるまで』など著書多数。
Twitter:@motoshita123

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