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村山由佳 猫がいなけりゃ息もできない 第4話「猫のいない人生なんて、窓の1つもない家みたいなもの」

二度の離婚を経験し、現在は軽井沢で猫5匹と暮らす作家の村山由佳さん。「思えば人生の節目にはいつも猫がいた」というムラヤマさんがつづる、小さな命と「ともに生きる」ということーー。
書籍の表紙を飾ったこともある、人気の姐さん猫〈もみじ〉の写真も満載。
※本連載は2018年10月に『猫がいなけりゃ息もできない』として書籍化されました。

 なんでも、子どもの頃に飼っていた鳩を野良猫に獲られたことがあるという。それがトラウマとなって、猫という生きもの全般を心の底から憎んでいた。
 気持ちはわからなくもないけれど、いくら何でも偏見が過ぎるのではないか。茫然とすると同時に、そういうことなら早く言ってよ、と思った。
 つき合っている間、我が家に来るたび、膝に乗っかる猫たちを撫でながら、うちの親たちに向かって
〈わあ、かわいいですねー〉
 とか言っていた、あれはいったい何だったのだ。だがそうやって後から思い返してみれば、そんなとき彼の顔は若干こわばり、撫でる手つきは機械のようで、言葉は棒読みだったようにも思えてくるのだった。

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「犬だったらいいよ」
 いかにも妥当な交換条件のように彼が言う。
「犬は忠実だしさ、裏表とかないし、まっすぐ甘えてくるし。な、飼うなら犬にしようよ」
 いやいやいや、それは問題がぜんぜん違うだろう。
 私だって、犬は好きだ。子どもの頃から、うちには猫とともに犬も必ずいた。
 でも、私を含むある種の人々──すなわち、猫という生きものがそばにいないと息もできないような人種にとっては、「犬がいるなら猫は要らないでしょ」といった理屈は、言語道断、笑止千万、とうてい受け容れられるものではないんである。
 私は言葉を尽くして、旦那さん1号に猫の魅力を伝えようとした。

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※本連載は2018年10月に『猫がいなけりゃ息もできない』として書籍化されました。

村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ、軽井沢在住。立教大学卒業。1993年『天使の卵―エンジェルス・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。エッセイに『晴れ ときどき猫背』など、近著に『嘘 Love Lies』『風は西から』『ミルク・アンド・ハニー』『燃える波』などがある。

※この記事は、2017年9月1日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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