遂に復刊!! 橋本治による青春ミステリーの傑作『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』12月15日(木)発売
この本について
1980年代、東京── 東大出のイラストレーター・田原高太郎が、鬼頭家で 起こった殺人事件の謎を解く、青春ミステリーの傑作!
僕、分ったんです。人を探るということは、実は、それと同じ分だけ、自分自身 を探るということが必要なんだということに。 これが僕の探偵法、だったのです──
僕は小説家ではない。猫でもなければ杓子でもない。僕はただのイラストレーターだ。その、 猫でも杓子でもないイラストレーターの僕がなんでまた〈僕は小説家ではない〉なんてことを言 い出さなければならないのかというと、それは、これから僕が小説を書こうとするからだ。
僕は小説家ではない。だから、僕の書く小説がうまく行くかどうかはよく分らない──要する に、僕はこのことを言いたかっただけなのだ。
僕は小説家ではない。それなのに僕がどうして小説を書こうとするのかというと、それには勿 論、訳がある。訳というのも色々あるが、その内で一番大きいのはやはり、僕がイラストレー ターだということだろう。
別に大したことではない。要するに、僕にはコネがあったというだけなのだ。
僕は別に有名な人間でもないし、大したイラストレーターでもない。そんな僕が小説を書ける としたら、それは勿論、僕に出版社の人間との付き合いがあったということだけなのだ。
僕は仕事をしていて、その仕事の打ち合わせをしていて、「こないだねェ、ちょっとヘンなこ とがあったんですよ」なんてことを言った、ただそれだけなのだ。(本書より)
仲俣暁生さん「解説」より
十年の時を隔てた二つの「政治小説」──『人工島戦記』と『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』
『人工島戦記』の刊行は晴天の霹靂だった。もちろんその小説の存在自体は知っていたし、地方都市を舞台とした若者たちの話であることも、どうやらとんでもなく長大な作品だということも知っていた。でも橋本治がこの作品に生涯にわたり手を入れ続けたこと、そして「あるいは、ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかのこども百科」という副題を添えていたことは、私にとって「感動的」というしかない衝撃的な出来事だった。私はこの文章を、その「感動」をなんとか言葉にできないかと思って書いている。早い時期からの橋本治の読者であれば、この副題から本作、つまり『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』(1983年)をただちに思い出したことだろう。不思議な語感をもつこのタイトルは、(エピグラフにも引かれている)カート・ヴォネガット・ジュニアの小説『タイタンの妖女』に登場する「いろいろなふしぎと、なにをすればよいかの子ども百科」という本に由来する。1980年代初頭の東京の街を舞台とする本作(以下『ふしぎと』と略す)と、1990年代半ばの(架空の)地方都市を舞台とする『人工島戦記』。この二つの小説にはいくつか共通するモチーフがみてとれる。そしてその共通項は、たんにこの二作だけでなく、橋本治の一連の小説作品を読み解く際に、大いに意味をもつモチーフだ。それは①「青春小説」であること、②「家族小説」であること、③「政治小説」であることの三点である。この共通点ゆえに、いまから約三十年前の時代を舞台とする『人工島戦記』は(そして約四十年前を舞台とする『ふしぎと』も)、きわめて「現在的な意味」をもつ作品なのだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ では、これから私たちは「なにをしたらよい」のか。その答えは、十年の時を隔てたこの二つの「政治小説」のなかにすでに書き込まれている。
紹介されました
書誌情報
橋本治『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』
2022年12月15日(木)発売
定価:2,970円(10%税込)
発行:ホーム社/発売:集英社
体裁:四六判上製本576P
ISBN:978-4-8342-5358-0
装丁:川名潤
著者プロフィール
橋本治(はしもと・おさむ)
1948年東京都生まれ。東京大学文学部国文学科卒業。大学在学中よりイラストレーターとして活躍。77年「桃尻娘」が小説現代新人賞佳作入選。以後、小説、評論、戯曲、古典の現代語訳等幅広く活動する。96年『宗教なんかこわくない!』で新潮学芸賞、2002年『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞、05年『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞、08年『双調 平家物語』で毎日出版文化賞、18年『草薙の剣』で野間文芸賞受賞。2019年1月29日逝去。享年70。