斎藤文彦×プチ鹿島×堀江ガンツ「ブロディを考えることは、プロレスを考えることである」前編
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斎藤文彦×プチ鹿島×堀江ガンツ「ブロディを考えることは、プロレスを考えることである」前編

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斎藤文彦×プチ鹿島『プロレス社会学のススメ』刊行記念トーク

「プロレスを語ることは今の時代を語ることである」というキャッチコピーで『プロレス社会学のススメ コロナ時代を読み解くヒント』が、昨年末に刊行されました。本書の発売を記念し、共著者であるプロレスライターの斎藤文彦さん、時事芸人のプチ鹿島さん、そして本書の司会・構成者である堀江ガンツさんによるトークイベントが、年明けに開催されました。

社会の様々な事象を絡めてプロレスを語ってきた3人が、本書の内容を切り口にして改めてプロレスをディープに、そして縦横無尽に語り合いました。

※2022年1月14日、東京・ロフトプラスワンで行われたトークイベントの模様の一部を記事化したものです。

「世界最高峰のMWA」という幻想と真実

ガンツ 今回出た『プロレス社会学のススメ コロナ時代を生きるヒント』は、プロレス誌『KAMINOGE(かみのげ)』の連載をまとめたものですけど、僕ら3人の座組みというのはニコ生のトーク番組から始まったんですよね。

鹿島 ニコニコプロレスチャンネルの『NICONOGE(にこのげ)』ですよね。僕がMCでお相手がガンツさんで、毎回ゲストを呼んでたんですけど、フミさんに来ていただいたときにすごく面白かったので、「じゃあ、毎回来てもらおう」となったという(笑)。

斎藤 当初、僕は番組のレギュラーですらなかったんです。

ガンツ それ以降毎回好評だったんで、番組が終了したあと、あらためて『KAMINOGE』で「プロレス社会学のススメ」というタイトルで連載をスタートさせて。

鹿島 ニコ生でやっていた時から「これは活字で残したい」と思ってましたからね。

斎藤 それがこうして本になったのはすごくうれしいことですね。

鹿島 僕はフミさんのことをプロレスの“図書館”だと思ってるんですよ。それぐらい歴史を含めたすごい知識を持っていて、毎回、知らないことを教えてもらうのが楽しくてしかたなかったんです。例えば、本にも載りましたけど、僕ら昭和40年代生まれの世代は子供の頃から、プロレス雑誌やテレビの『全日本プロレス中継』で「世界最高峰のNWA」というのが刷り込まれていて。NWAこそがプロレス界で最も権威がある組織で、NWA世界ヘビー級王者こそ世界一という認識だったのが、フミさんの話を聞くと全然違う姿が見えてきた。

ガンツ NWAの「A」は「アライアンス」ですから、文字通りプロモーターの「組合」だったという(笑)。

鹿島 あとはNWA本部があるミズーリ州セントルイスをNWAの「総本山」と呼んだりして。だから僕はアメリカの中心地はミズーリ州だって思ってましたから(笑)。

斎藤 実際はアメリカの中でもかなりのド田舎のほうなんですけどね(笑)。

鹿島 そのNWA総本部も国連のビルみたいなものを想像していたら、古いホテルの一室だって聞いてズッコケて。NWA総会も各国首脳が集まるサミットみたいなものを想像してたんですけど、あれはどうやら全米のプロモーターが年に一度集まる組合の慰安旅行だったらしいという(笑)。

斎藤 開催地がラスベガスだったりしますから、重要な議題がいくつかあって、じっくり会議をやるというよりは、みんなでお酒を飲んでギャンブルやってという懇親会ですね。

鹿島 だから多くの人が「こうだ」と思い込んでいることに、まったく違った側面があるということですよ。これこそ社会学かもしれないな、と思いました。

斎藤 べつに定説を否定したかったわけではないんですが、僕らはマニアだから、やっぱり真実を知りたいという願望がある。「世界最高峰NWA」というのも、これだけ長く信じられ、いわば信仰されてきたので、ある部分まではそれも本当なんだろうとは思います。でも、何から何までその伝説のとおりではないだろうと考えたほうが自然でしょう。

鹿島 「最高峰」はある一面でしかない、ということですよね。

斎藤 ところが、僕なんかが「NWAが最高峰ってちょっとおかしくない?」っていうことを言ったり書いたりすると、50代から上の、少年時代からプロレス雑誌を読み込んでいた世代のマニア層はすごく怒るんです。

ガンツ ある意味「聖書」を否定するようなものかもしれないですからね(笑)。

鹿島 だからフミさんにお話をうかがうようになってから、昨今のフェイクニュースがホントに怖くなったんですよ。だって、僕らはプロレス雑誌を通じて、ずっと“真偽不明”にまみれてきたわけじゃないですか(笑)。

ガンツ プロレスというジャンル自体が虚実の境目が曖昧ですしね。

鹿島 でも、プロレスのおかげで一誌に書かれてることだけを盲信するのではなく、何誌か読み比べするようになり、それがいま僕がやっている新聞読み比べにもつながっているし、「これはホントかな?」と自分で考えるようになったきっかけにもなりましたね。

斎藤 図らずもメディアリテラシーが鍛えられた。

鹿島 そうなんです。だから、今はYouTubeを始めとしたネット媒体を通じて陰謀論にハマってしまう人が多いですけど、僕らが陰謀論にハマらず、大火傷せずに済んだのは、子供の頃からプロレスに関する情報で鍛えられた部分があるからだって、ホントに思いますね。

ガンツ その一方で、プロレスの幻想みたいな夢がある部分が大好きなんですけどね。

鹿島 そうなんです。劇画『プロレススーパースター列伝』とか、史実に脚色されまくっていても、僕らはときめいちゃうわけですよね。

プチ鹿島(ぷち・かしま)
1970年長野県生まれ。大阪芸術大学放送学科卒。「時事芸人」として各メディアで活動中。新聞14紙を購読しての読み比べが趣味。2019年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。2021年より「朝日新聞デジタル」コメントプラスのコメンテーターを務める。コラム連載は月間17本で「読売中高生新聞」など10代向けも多数。「KAMINOGE」は第2号から連載。著書は『教養としてのプロレス』『プロレスを見れば世の中がわかる』『芸人式新聞の読み方』『芸人「幸福論」格差社会でゴキゲンに生きる!』他。ワタナベエンターテインメント所属。
Twitter:@pkashima

ブロディがWWFに行かなかった理由

斎藤 プロレスは情報の真偽を見極めるのと同じくらいファンタジーやイマジネーションもまた大切なジャンルです。40代後半以上のファンは、子供の頃からプロレスについていろいろ自分なりに推理したり想像したりする習慣がありますが、今はその「推理する」という行為がなくなっているように思います。「早く答えを教えてくれ」「ネットのどこに出てるの?」という感じになってしまっている。

鹿島 それはよくないですね。

斎藤 イマジネーションを膨らませる楽しさをどこかに置いてきちゃってる感じがあるんですね。

ガンツ 「たら・れば」って意味がないことのように言われることもありますけど、プロレスの「たら・れば」を考えることは楽しいし、そこに真理があったりしますからね。

鹿島 例えば、ブルーザー・ブロディが1988年7月にプエルトリコでホセ・ゴンザレスに刺されることなく、90年代以降も生きていたらどうなっていただろう? とかですよね。

斎藤 あのときブロディの事件が起きていなかったら、スタン・ハンセンとの夢のシングルマッチは実現していただろうし、ジャイアント馬場さんはその先にジャンボ鶴田&ブロディvsハンセン&天龍源一郎という『最強タッグ』も考えていた。ただ90年代に入ってからブロディが、ハンセンとそうしたように三沢光晴、川田利明、小橋建太、田上明の全日本四天王と闘っている姿はちょっとイメージしにくい。

ガンツ しかも80年代と違って90年代は、両者リングアウトや反則決着がない毎試合完全決着の時代ですからね。

斎藤 そう考えると全日本を去って、親交があったビクター・キニョネスとの関係から、IWAジャパンのリングあたりで、飛び抜けた大物として現役生活をまっとうしたんじゃないか、という気もする。

鹿島 それは最高だなー。もう観に行っちゃうね(笑)。

斎藤 もともとブロディは日本で団体をつくるという夢を持っていたんですね。

鹿島 あっ、そうなんですか。

斎藤 だからきっとインディーシーンの単独メインイベンターとして日本でやっていただろうと僕は思います。

鹿島 ブロディが亡くなった時期は時代の分岐点だったんですよね。先ほどガンツさんも言われてましたけど、89年ぐらいから完全決着の時代になり、昭和プロレスの特徴でもあった不透明決着をなくしてしまったわけで。そうなるとどうしても、勝つ時もあれば負ける時もあるという形になりますけど、それはブロディのプロレス観とは違うわけですよね。

斎藤 ブロディは“負けないレスラー”であり、勝ち負けをすごく重要視する人だった。

ガンツ だからWWEにも行かなかったという。

斎藤 実際、1985年に全日本から新日本に移籍した時、新日本のリングに上がりつつWWE(当時WWF)のリングにも上がり、王者ハルク・ホーガンvsブロディで全米ツアーを回るというオプションもあったのに、結局WWEには行かなかった。WWEというパッケージ化されたシステムの中では、ブロディといえども“ホーガンの相手のひとり”でしかなくなることが自分でもわかっていたから、いくらファイトマネーがよくても行く気にはならなかったのでしょう。

ガンツ 当時のホーガンのライバルというのは、全米各地で毎日ホーガンとメインで闘って、レッグドロップ(ギロチンドロップ)一発で負けていたわけですもんね。

斎藤 それはやっぱりできないし、そのニュースがすぐに日本に伝わってくるなんていう状況は、絶対にあってはならないことだったんだと思います。

鹿島 それは自分のプライドが許さないわけですかね?

斎藤 プライドというよりも、「そうなったらレスラーとして(のビジネス)はおしまいだ」と思ったんじゃないでしょうか。あのカンパニーに入ったら「ノー」はないですよね。ブロディであろうが誰であろうが、20人ほどいるトップグループのひとり、ワン・オブ・ゼムにしかならないっていう現実があるので。

斎藤文彦(さいとう・ふみひこ)
1962年東京都杉並区生まれ。プロレスライター、コラムニスト、大学講師。オーガスバーグ大学教養学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科修了、筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻博士後期課程満期。在米中の1981年より『プロレス』誌の海外特派員をつとめ、『週刊プロレス』創刊時より同誌記者として活動。海外リポート、インタビュー、巻頭特集などを担当した。著書は『プロレス入門』『昭和プロレス正史 上下巻』『忘れじの外国人レスラー伝』ほか多数。
Twitter:@Fumihikodayo

「プロレスにおける勝敗」というテーマ

鹿島 僕がこの本に出てくるフミさんの話で「なるほどな」と思ったのは、ブロディが新人時代から信頼していたダラス地区のボスであるフリッツ・フォン・エリックが、他のテリトリーにブロディを出す時に「プロレスはこういうスポーツだからこそ負けるなよ」って、プロレスにおける勝敗の重要性を教えて、実際、ブロディはどこに行ってもなかなか負けなかったっていうことですね。

斎藤 「プロレスにおける勝敗」っていうのは、僕たちにつねに突きつけられているテーマでもあるんです。とくにインターネットが最初から存在している時代からプロレスを見始めた世代のファンは、僕たち“ネット以前”の世代が少年時代にモヤモヤしていた「プロレスの成り立ち」というものに対して、あまりモヤモヤせずにスッと入ってきている。試合の決着、勝ち負けの部分が演出されているものだとするならば、いかようにもプロデュースできるんでしょ、シナリオがあるんでしょ、レスラーはそれを演じているだけでしょ、っていうシンプルな考えに陥りがちなんです。

鹿島 「ブック」とか平気で言いますよね。

斎藤 「ブック」なんてプロレスの隠語ですらない、単なるネットスラングなんですけど。でも、そういう理解の仕方だとすると、レスラーが何を思ってリングに立っているのかということが、すべてスルーされちゃう。レスラーにとって勝ち負けはあまり大切なものじゃないっていう誤った理解に回収されて。でも実際は、プロデュースされているものであるとするならば、むしろ勝ち負けは大切なんです。

鹿島 「だからこそ勝たなきゃいけないんだよ」っていうことをフミさんがこの本のなかでも言ってますけど、ホントにそうだなって。何周もまわってこれはすごい事実ですよね。

斎藤 レスラーは誰しも勝ちたい人ばっかりなんです。「じゃあ、今日は僕が寝ておきますから」っていうレスラーはいないと思いますよ。

ガンツ 現実問題、勝たなければチャンピオンにはなれないわけですからね。

斎藤 映画のキャスティングではそれだけの価値がある人でなければ主役になれないのと同じように、プロレスラーのポジションにも競争の原理があって、実力もスキルも人気もすべてきちんと入っていると僕は考えます。ブロディは、エリックに教育されて、そこの部分を大切にしていた。

鹿島 すごいですよね。「僕は負けません」って言って、ダラスから他のテリトリーに旅立って行くわけですからね。

斎藤 そして、そのやり方を行く土地、行く土地でしっかりと貫いてきたことがまたすごいわけです。

鹿島 だから「僕は負けません」っていうのは、たとえば格闘家だったり、もっと言うと剣豪の旅の出発だったらいいんですよ。自分の腕さえ上がればいいんだから。だけどそれが興行のなかのプロレスという世界において「僕は負けません」っていうのは、もっと“違う何か”と闘わなきゃいけないわけですからね。何周もして重たい言葉になるわけですよ。

斎藤 だからこそ、ブロディは没後30年以上経った現在でも僕たちプロレスファンに宿題を突きつけているわけです。「プロレスは試合結果が演出されたエンターテインメント」というロジックだけでは、いまだにブロディというレスラーの本質みたいなものを解読・解明できないし、プロレスという不思議なジャンルを完全には理解できないわけだから。

ガンツ ブロディを考えることが、プロレスを考えることにもなるわけですよね。

鹿島 それにしても、ブロディが日本で新団体旗揚げを考えていたっていう話はワクワクしちゃいますよ。絶対に観に行きたいもん(笑)。

ガンツ とりあえず、『プロレス・スターウォーズ』のみのもけんじ先生に漫画で描いてもらいましょうか(笑)。

鹿島 タラレバの世界をね(笑)。

ガンツ というわけで前半戦が終了です。後半戦をお楽しみに!

堀江ガンツ(ほりえ・がんつ)
1973年栃木県生まれ。プロレス格闘技ライター。『紙のプロレスRADICAL』編集部を経て、2010年よりフリーで活動。書籍『玉袋筋太郎のプロレス取調室』シリーズ、『鈴木みのる ギラギラ幸福論』、ムック『昭和40年男総集編 燃える闘魂アントニオ猪木』、電子書籍『GO FOR BROKE “ザ・レスラー”マサ斎藤かく語りき』などを手がけるた。現在、『KAMINOGE』を中心に数多くの媒体に執筆し、『Number Web』ではコラムを連載中。WOWOW『究極格闘技-UFC-』、ABEMA『プロレスリング・ノア中継』で解説も務めている。
Twitter:@horie_gantz

構成=堀江ガンツ/撮影=野本ゆか子

後編へ続く

【斎藤文彦×プチ鹿島×堀江ガンツ 前編】

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