占い| 賽助「ところにより、ぼっち。」第9話
※本連載が書籍化しました。賽助『今日もぼっちです。』2020年10月26日発売
人生で初めて、占いをしてもらいました。
まず初めに皆様にお伝えしたいことは、僕は占いをあまり信じてはいませんが、だからといって占い師の方、占いをしてもらっている方のことを悪く言うつもりは毛頭ありません。
占いによって救われるのならば、それは素晴らしいことだと思いますし、人をより良い未来に向かわせることが出来るのならば、その占い師さんは紛(まぎ)れもなく本物であると思います。
そんな僕が今回占ってもらおうと思った理由は、正直に言うならば興味本位です。
実のところ、前々から占い師の方には興味がありました。
もし自分が占われたら、どんな言い方をしてくるのだろう、また、面白い占い結果が出れば、それをどこかで話したり、小説やエッセイのネタに出来るかも……なんていう下心もありました。
本来の占いの趣旨からは逸脱しているので、不快に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、占いに対するこのような興味の持ち方もあってもいいのではないかと思っていただければ幸いです。
早速とばかりに、インターネットを使い、最寄りの繁華街で一番人気がありそうな占い師さんを探し、アポイントを取りました。
やがて当日。繁華街を抜けた先にある、細長いビルの最上階へ向かいました。
中に入ると受付があり、その奥にはカーテンが引かれた小さな部屋がいくつもあるようでした。ビルの外観とは裏腹に、屋内はきっちりと清掃が行き届いていて、まるでマッサージのチェーン店のような雰囲気です。
受付の女性にカルテを手渡されたので、そこに必要事項を記入します。
名前と生年月日、そして出生時間を記す項目がありましたが、僕はしっかりと出生時間まで書き込みました。
前情報として、出生時間が分かるとより正確な結果が出ると知っていたので、前日に母にメールをして聞いておいたのです。
「占いに必要だから、出生時間を教えて下さい」
そう伝えたところ、母は何も言わずに母子手帳を探してくれました。
今思えば、小説のネタ探しで……と理由を伝えれば良かったかなと思っています。
その下には『仕事』『健康』『恋愛』『総合運』など様々な項目が並んでいました。
自分の占ってほしい事柄に丸を付けるようです。
僕はしばらく迷った末に『仕事』と『恋愛』に印を付けました。
これは別に、恋愛に悩んでいるとか、そろそろ四十になるのにこのまま独りで大丈夫だろうかと不安を覚えているとかそういうアレではなく、純粋に、僕という人間はどんな感じだと判断されるのだろうなと思ったからであって、決して本当はこれを聞きたかったというわけではないので誤解をしないで下さい。
やがて時間となり、僕は室内の奥へと案内されます。
カーテンを開くと、かなり狭い空間に机が一つと椅子が二脚置かれていて、奥には、おそらくは五十代中盤くらいであろう男性の占い師が座っていました。
その占い師は、四柱推命でもなく、タロット占いでもなく、人のオーラが見える、という触れ込みで活動されていました。
オーラ、とは何なのでしょう。僕は霊感もなければ念能力者でもないので、全く分かりません。
分からないが故に彼を選んだと言っても過言ではありません。
かなり人気の占い師らしく、テレビなどにも出演されていて、予約も殆(ほとん)ど埋まっているそうです。料金も二十分五千円と、他の方に比べて割高に設定されていました。
「どんな悩みですか?」
僕の書いたカルテを見ながら、占い師が尋ねます。
ここで偽(いつわ)ってもあまり望ましい結果には繋(つな)がらないと思っていましたので、僕は正直に文筆業をしていることと、彼女が何年も居ないということを伝えました。
「ふむ……」
占い師が低く唸(うな)ります。
やがて何かを悟ったように、彼は話し出しました。
「君の後ろ側に、大きな人物が見えるね。来年くらいにその人物から仕事を紹介して貰えると思う」
かなりはっきりと未来予知をされたので、僕は驚いてしまいました。
「紹介……ですか。はぁ、なるほど……」
そう答えはしましたが、僕の背後にいるらしき大きな人物というのが誰なのか、今のところ分かりません。不安げな僕を見て、占い師は続けます。
「私もね、テレビに出させてもらったり、本を書かせてもらったりと色々やっているけど、これも殆ど紹介によるものなんだよ。人の繋がりというのは大事なものなんだ。例えばパーティーなんかで、ちゃんと名刺を渡しているかい?」
僕はパーティーに出席することが殆どないのですが、そう言われれば、僕は普段名刺を持ち歩いてはいません。パーティーでも飲みの席でも大抵隅の方で大人しくしています。そう告げると占い師は、
「ちゃんと渡して、繋がりを作らないと」と言うのでした。
占いというよりは、生き方講座みたいになってはいやしないか、と思いもしましたが、ここはグッと堪(こら)えます。
その後、映画の監修の話があった、とか、ラジオに出演することになった、というような、ちょっと自慢話に聞こえるような話があった後、
「結婚はしてないんだよね?」
ようやく本題の恋愛話に移りました。
「あ、いえ、まだ……」
「そうなんだ。ちなみに歳(とし)はどのくらい?」
自分の年齢を聞かれたのだと思ったので正直に伝えたのですが、
「いや、相手の。何歳下までは大丈夫?」
どうやら僕の恋愛対象となる年齢を聞いていたようです。
そちらも正直に伝えたところ、占い師は少し首を傾げました。
「女子プロレスラーは好き?」
「え?」
一瞬、占い師が何を言い出しているのか分かりませんでしたが、詳しく話を聞くと、どうやら彼と懇意にしている女子プロレスラーが居て、彼氏が出来ないと占い師に伝えていたようなのです。
その他にも、自分が仕事をしている出版社に出会いのない女性がいる、とか、様々な方を列挙していきました。
あれ? 僕は結婚相談所に来たのかな? と首を捻りそうになりましたが、そんな僕を置いたまま、彼は自分のスマートフォンを取り出し、何やら操作し始めます。
「これがね、この間テレビに出た時の写真で、こっちがお笑い芸人さんと仕事した時の写真」
急に占い師の写真を眺めるコーナーが始まりました。写真が切り替わる度、僕は「はぁ、凄(すご)いですね」と相槌(あいづち)を打ちます。やがて、再び占い師の仕事の話になり、
「今度ラジオをやるって言ってたけど、そこに出る?」といきなり出演依頼をされました。
「ああ、いや、どうですかねぇ。ありがたい話ですけど」
どう反応して良いものか分からなかったのですが、占い師は続けます。
「まあ、また今度ね、そういう話をしましょう」
なるほど、と僕は納得しました。
件(くだん)の女子プロレスラーも、このラジオ出演の話も、次回へと繋げる布石だったのでしょう。
また次も来てくれれば、もう少し進展しますよ、ということだと思います。
やがて時計のアラームが鳴りました。
「来年の1月くらいには、何かしらの大きな紹介があると思うので」
冒頭でも言われたことをもう一度繰り返し、時間一杯、終了となりました。
僕は「ありがとうございました」と頭を下げ、「これは何の時間だったのだろう……」と首を傾げながらビルを後にします。
その帰り道。
僕は重要なことに気が付きました。
占い師が言っていた、来年の頭ぐらいに僕に仕事を紹介してくれる人物……それは、あの占い師自身のことではなかったのか、と。
このまま足繁(あししげ)く占い師の元に通い続ければ、何かしらの仕事、例えばラジオ出演のようなものと、そして女子プロレスラーを紹介してあげる、ということだったのではないでしょうか。
あの占い師が見ていたものは、彼自身の姿だったのです。
(オーラではなく、オラを見ていたのか……)
僕は「よく出来たお話だったなぁ」と感心してしまいました。
こうして僕の占い体験は終わりましたが、今後、もし僕が女子プロレスラーと何かあった、という話がありましたら、どうぞそっとしておいて下されば幸いです。
【教訓】人気の占い師は、アフターケアが手厚い(かもしれない)──賽助
賽助(さいすけ)
東京都出身、埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。また、和太鼓パフォーマンスグループ「暁天」に所属し、国内外で演奏活動を行っている。著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』がある。
●「三人称」チャンネル
ニコニコ動画 https://ch.nicovideo.jp/sanninshow
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg
●和太鼓グループ「暁天」
公式HP https://peraichi.com/landing_pages/view/gyo-ten
山本さほ(やまもと・さほ)
1985年岩手県生まれ。漫画家。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(ウェブサイト「note」掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作(リニューアル版)は『ビッグコミックスペリオール』での連載後、単行本が2018年に全5巻で完結した。その他の著書に『無慈悲な8bit』『いつもぼくをみてる』等。Twitter上でも1頁エッセイ漫画『ひまつぶしまんが』を不定期に掲載。
※この記事は、2019年7月9日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。