宮台真司 おおたとしまさ『子どもを森へ帰せ 「森のようちえん」だけが、AIに置き換えられない人間を育てる』冒頭試し読み
社会学者の宮台真司さんと、宮台ゼミに参加していた教育ジャーナリストのおおたとしまささんが実践者も交えながら「森のようちえん」の可能性について語り合う『子どもを森へ帰せ「森のようちえん」だけが、AIに置き換えられない人間を育てる』が10月25日(金)に発売します。
気候変動や民主主義の機能不全など、国内外でさまざまな課題が立ち現れる中、「森のようちえん」の実践には、世の中を変える可能性があります。それはなぜなのか?
今回はその冒頭をここに公開します。
はじめに
迷子になった現代人のための道しるべ
おおたとしまさ
なぜ「森のようちえん」が地球や人類を救うのか――。社会学はもちろん、哲学、人類学、心理学、生物学、経済学、政治学、宇宙物理学、そして宗教まで、古今東西の人類の叡智を総動員した「宮台社会学」が明らかにしていきます。
逆にいえば本書は、森のようちえんという入口から、壮大な宮台社会学の世界を旅するためのガイドブックです。メーテルリンクの『青い鳥』の主人公、チルチルとミチルのように、大冒険してもらいます。
宮台さんの足が速すぎて、「おいおい、ちょっと待ってくれよ」と思う部分もあるかもしれませんし、迷子の気分を味わうこともあるかもしれませんが、宮台さんが使うちょっと難しめの言葉には、いちいち注釈を付けました。注釈だけでゆうに2万字を超えました。
旅を終えるころには、「私たちは、どこから来て、どこへ行くのか」が見えてくるはずです。
いま「森のようちえん」という幼児教育スタイルが注目されています。いわゆる野外保育のことです。「青空保育」などといって、日本では昭和の時代からなじみがありました。
要するに、自然の中に子どもたちを放牧するわけです。お絵かきしましょうとかお遊戯しましょうとか、大人の指示に従うのではなく、自然環境に誘われるままに子どもたちが自由に動き回ります。保育者は、子どもの目が輝く瞬間を見逃さず、学びをドライブするための必要最小限のかかわりをします。
すごく大雑把にいわせてもらえれば、モンテッソーリ教育とシュタイナー教育とボーイスカウト教育のおいしいところを合わせたような教育です。さらには、日本の里山の環境が非常にいい仕事をしています。
本書は、教育ジャーナリストとして全国の「森のようちえん」を取材して『ルポ 森のようちえん』(集英社新書)をまとめた私(おおたとしまさ)と、社会学者の宮台真司さんの対談形式で始まります。第2章、第3章では、森のようちえんの実践者たちも対話に加わります。
『ルポ 森のようちえん』を読んだ宮台さんが「これ、すごい本だよ!」と著者自身も気づいていなかった意味を指摘してくれたことが本書のきっかけでした。
いま世界では、気候変動、戦争、民主主義の機能不全……と、さまざまな次元での課題が山積みです。その一つ一つをトラブルシューティングしていたらキリがありません。
また、コンピューターやインターネットに加え、ウェアラブル端末やAI(人工知能)が日常生活に実装され始めています。これらの技術は世の中の発展を良いほうにも悪いほうにも加速します。
そんな状況でこそ森のようちえんが注目される必然を、壮大なスケールで解説します。
私はネイティブ・アメリカンの世界観が大好きです。本書の導入として、エスキモーの伝説を紹介させてもらいます。
本書を書き終えたとき、宮台さんは「森羅万象を書き込みました」と満足げに語ってくれました。本書を読み終えたとき、この詩のクオリアが深く深く理解できるはずです。
(続きは本書でお楽しみください)
著者プロフィール
宮台真司(みやだい・しんじ)
1959 年生まれ。社会学者。東京大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。東京都立大学教授を長年つとめて 2024 年退官。『社会という荒野を生きる。』ほか著書多数。共著に『子育て指南書 ウンコのおじさん』『大人のための「性教育」』など。
おおたとしまさ
1973 年生まれ。教育ジャーナリスト。中高の教員免許をもち、私立小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。著書は『ルポ 森のようちえん』『不登校でも学べる』『ルポ 無料塾』(以上集英社新書)ほか 80 冊以上。