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花とぬいぐるみ ~「必需品」でないからこそ~|地曳いく子 第2話

アラカン・スタイリスト、新しい「ババア道」をゆく――
ファッションから、話題のドラマ、映画、音楽、旅行、グルメ、恋愛、友情、孤独まで。“混乱”の日々のなかから、新しい自分に出会うためのヒント満載のエッセイ。
※本連載が書籍化します。地曳いく子『日々是混乱 これが私のニューノーマル』11月26日発売予定

私に足りないのはメルヘンな気持ち??

ロック好きの私が初めて武道館に行ったのは13歳のとき。イギリスのグラムロックバンド、T・レックスのライブを観に行きました。以来、47年間、武道館への坂を登っています。「あなたは、還暦を迎えてもライブに行き続けているのよ」と、中1の私に教えてあげたい。

いまツイッターなどで、「ライブハウスにババアは来るな!」と言う人がいます。そういう言葉を聞くと、びっくりすると同時に、かわいそうになるんです。誰もが歳をとる。「来るな」と言う若者だって、いつか、ジジイやババアになるわけです。彼らは、歳をとったら自分たちはライブに行かないという前提で言っているのでしょうけれど、それは自分たちの未来の選択肢を、自分たちで閉ざしていることになるのではないでしょうか。

というわけで、私のロック愛は永遠! なのですが、一方で、ババアになると、趣向の違った新しいものを取り入れたい気持ちも膨らんできました。自分がこれまで遠ざけてきたもの、封印してきたものを解放する喜びを知ったのです。

反対に、ずっと凝(こ)っていたもの、こだわってきたものに飽きてくるというか、一段落してしまい、卒業することもあるでしょう。そうした、その時々の波に軽やかにのってみるのも、新しいババア道だと思うのです。

それで、あるとき、私に足りないのはメルヘンでは? と思いたちました。「いく子さんといえばロックテイスト」と言われてきた私。これまで果てしなく遠いところにあったメルヘンへの興味が、むくむく湧いて、よし、ぬいぐるみを買いに行こう、と。かなり唐突ですよね。

向かったのはフライングタイガーコペンハーゲン、人気の北欧雑貨店です。入り口すぐにかわいく積まれていたのは、ユニコーンのぬいぐるみでした。

白、ピンク、ブルー……さまざまな色がいるなかで、選んだのは黒。何度かラブリーな色のユニコーンを手に取ったのですが、どうしてもムリ! 辛口ロックの私がメルヘンテイストを充填(じゅうてん)するとなると、黒のユニコーンが妥協点になるのでした。そんな自分を発見したのも面白かった。

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かわいがっている黒ユニ子

インスタにユニ子の写真をあげると、40代、50代の友達から続々とDMがきて、「うちの子です、何でも聞いてくれます」など、“大人ぬいぐるみ愛”をカミングアウト。大人になってから、部屋にぬいぐるみを置くようになったという人は少なくありません。もちろん猫や犬を飼えたらそれはそれで幸せですが、いろいろな事情で飼えない人もいると思います。

若いときは、どこか「子どもっぽい」か、「子どもっぽく見られたくない」と、ぬいぐるみを遠ざけていた人もいるのかもしれません。だけど、ババアになったからこそ、そうした呪縛を解いて、かわいいものはかわいい、と思えたら素敵だし、ラクですよね。

他にも、ぬいぐるみ古参として、以前から世界中を一緒に旅してくれる「ちゅうくん」もいます。Mr.ビーンが持っていたテディベアのぬいぐるみのミニ版で、何度か洗っているうちに2センチくらい小さくなっていてびっくり。自ら気を遣ってトラベルサイズに変身したのでしょうか?(笑)

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「ちゅうくん」とは世界中を旅しています

スーパーのお買い得の花 そのまま飾らないのがババアの知恵

お花の楽しみ方も変わってきました。

若い頃はお花を習いにいって、家でも剣山(けんざん)を使って、張り切って枝ものまで活けていたものです。そうやって本気で花を活けるのは素晴らしいし、身が引き締まります。でも、日々の暮らしではどうでしょう? 毎回競っていては、ババアは、ちょっと疲れる……。

で、最近は、もっぱらガラスの花瓶を使っています。これが和風の花にも洋風の花にも合って、オールマイティでよいのです。

ガラスの花瓶には、よくあるピッチャーとか、無印良品のワインカラフェもオススメです。そんな手軽なもので十分です。

もしくは、思いっきり投資してコンラン(ザ・コンランショップ)のガラス。

ババアになって思うのは、選ぶのは、「すごくいいもの・高級なもの」か、「身近なもの・手ごろなもの」のどちらか。つまり中間がなくなっていく。極端でいいし、極端が面白い。そういう楽しみ方ができるようになるのも、いろいろなものを試した時代をへて、ババアになったからこそだと思います。

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ガラスの花瓶はオールマイティ。オススメです!

花についていえば、スーパーでワンコイン程度で売っているお買い得の花束はオススメです。

ただ、必ずしもそのまま飾らないのがババアの知恵。

今日の気分じゃないな、というお花が入っていたら、ごめんなさいと抜いちゃいます(私の場合はラブリー過ぎるかすみ草ですが)。そのために、同じ花束をふたつ買っちゃうときも。で、好きな花だけたっぷり飾る。このひと手間をくわえるだけで、お買い得花束の印象はずいぶん変わります。買ったものをそのまま飾らなければいけないという法はありません。同じものをふたつ買う、ひと手間くわえる、ババアはそんな余裕を持ちたいものです。

チューリップやバラなら10本束、で同じ色を活ければ簡単。逆に、いろいろな色にしても、同じ種類の花なら素敵に決まります。玄関のお花は白のカサブランカを数本だけ飾ることも多いです。なんだか邪気が祓(はら)われて、清らかな気持ちになるのは気のせいでしょうか?

お花もぬいぐるみも、人生に絶対必要なものではない。ないと生きていけないものではないかもしれません。でも「人生の必需品」でなくても、心を癒やしてくれるものに、お金を使っちゃうのもいいですよね(笑)。

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お花の選び方として、季節のお花が狙い目。1束500円から1000円くらいで素敵な花束が買えます。また私の場合、六弁のお花を飾ると、邪気が祓われるような気がするんです。

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地曳いく子(じびき・いくこ)
1959年生まれ。『non・no』をはじめ、『MORE』『SPUR』『Marisol』『eclat』『Oggi』『FRaU』『クロワッサン』などのファッション誌で30年以上のキャリアを誇るスタイリスト。著書に『50歳、おしゃれ元年』『服を買うなら、捨てなさい』『着かた、生きかた』『ババア上等! 余計なルールの捨て方 大人のおしゃれDo&Don't』『ババアはつらいよ アラカン・サバイバルBOOK』『おしゃれも人生も映画から』『おしゃれ自由宣言!』など著書多数。槇村さとるさんとの動画連載「BBA(ババア)チャンネル byさとる×いく子」も好評配信中。http://gakugei.shueisha.co.jp/yomimono/bbach/01.html
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※この記事は、2019年3月20日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。


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