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老眼鏡とロックの日々! ~何かを失って何かを得る~|地曳いく子 第1話

アラカン・スタイリスト、新しい「ババア道」をゆく――
ファッションから、話題のドラマ、映画、音楽、旅行、グルメ、恋愛、友情、孤独まで。“混乱”の日々のなかから、新しい自分に出会うためのヒント満載のエッセイ。
※本連載が書籍化します。地曳いく子『日々是混乱 これが私のニューノーマル』11月26日発売予定

新しい「ババア道(どう)」をゆく!

今年、私は還暦を迎えます。

泣いても笑っても60歳。こうして改めて文字にすると、インパクトが大きすぎて驚愕! でも事実だし、誰でも、若い頃は自分が還暦を迎えたときのことなんて、想像できなかったですよね?

2年前、ものすごく疲れて、やりたいことが何もなくなってしまった時期がありました。更年期&老化?
あれほど大好きだった外出がイヤになり、化粧もせずに家にこもったあげく、掃除までできなくなってしまった。肉体的にも精神的にもダメージを受けて、生まれて初めて、根性と気力だけでは越えられない山があることを知ったのです。

最初はジタバタしました。これでは抜け殻になってしまう! 一気に老人? と、無理やり出かけたりもしてみました。でも、頑張れば頑張るほど疲れてしまう。仕方ないと諦めて、引きこもってだらだら過ごすうちに、そうした「もうテキパキと、パワフルにはできない自分」を受け入れられるようになってきました。すると、少しずつ、元気が出てきたのです。

でも、その元気は、若いときの元気とは違います。

新しい「ババア道」をゆくための元気なのではないか、と思うようになりました。

アンチエイジングの時代は終わった、と私は思っています。抗うためではなく、今の自分と共に生きる。波にのるために、残り少ないエネルギーを使いたい。昔の自分に戻るのではなく、ババアであっても新しい自分に出会うことを、これからの喜びにしたい。

新しい元号となるこの年に、新しいババアの楽しみを探していきたい、みなさんと共有していきたい。そう考えて、この連載を始めました。お付き合いいただけたら嬉しいです。

ビールから、ビオやオーガニックな白ワインへ

以前は、夏でも冬でもビールが大好きだった私も、このところもっぱら白ワイン派に。しかもババアらしく、ビオやオーガニックなど、ナチュレな白ワインを、休日には昼からいただくのが人生の楽しみに。

あとは、ハイボール(カッコつけて言うとウイスキー&ソーダですね)もよくいただきます。カロリーも低いし翌日に残りにくい。個々の体質にもよると思いますが、私の周りのババア&ジジイたちは、みんな気がついたら白ワインorハイボール派に転向していました。若い頃「何これ? ガーゼの味しかしないじゃない?」と嫌っていたスコッチウイスキーの味に目覚めたのも、50代後半、スコットランドに旅をしたときでした。

うーん、大人にならないとわからない味もあるんですね。今ではバーで「マッカラン12、ロックで、あと、お水もお願い」ってオーダーしています。

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今ならわかる! 昼から白ワインを飲みまくるLAの有閑マダムたちの気持ち

老眼鏡で小道具がひとつ増えます

最近、私が凝(こ)っているモノ。そのひとつが老眼鏡です。最近はオシャレに、「リーディング・グラス」ともいわれるようですね。

正直いって、老眼鏡を使うようになったらおしまい! と思っていた時期がありました。今となっては、なんて浅はかだったんだろうと笑っちゃいます。だって、ひとつ小道具が増えるんです。顔がしまったり、服装に合わせて付け替えたりと、楽しみが増える。

ちなみに私は、コンタクト着用時用にレンズの下だけ老眼鏡のサングラスもつくりました。これなら眼鏡を上げ下げしなくてもLINEをチェックできますよね! しかも黒縁のメガネはほぼノーメイクでも顔がボケないし、ちょっとだけインテリ風にも見えちゃいます(笑)。

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スコットランドで買った老眼鏡のケースには、ローリングストーンズのアップリケをつけて。

普通のメガネと違って、老眼鏡は、ずっとかけていなければならないものではありません。かける・はずすによって、仕草のバリエーションも広がるし、これが案外、コミュニケーションの間(ま)をとるのにも役立ったりするんです。私はよくあるのですが……、目の前の相手にカチンときたとき、小言を言いたいとき、老眼鏡を頭の上にずらすことによって、一息入れる。そんな使い方も、粋ではないでしょうか。

だから老眼鏡が必要になったことをネガティブに捉えずに、自分なりの使い方を見つけていきたい。最近はそう思っています。

「五十肩」のリハビリにライブは最強!?

さて、老眼鏡を使うようになった私ですが、若い頃から変わらないものもあります。それはロック愛! ということで、行ってきました、1月のジュリー(沢田研二)70歳の武道館公演。

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ジュリー70歳のコンサート。「五十肩」のリハビリにライブは最強!?

もうね、ジュリー70歳ってことは、応援しつづけたファンも相当なお姉様方。観客もババア(笑)が多いから、入場に時間がかかるんです。もちろん私もその一人ですが。

みんなゆっくり入場して、手すりを使って用心深く階段を上ったり下りたりしながら、席までたどり着きます。ババアは寒がりだから、着込んでいます。8割が黒やグレーずくめでダウンコート着用率も90パーセント。ライブでも、オシャレより寒さ対策を優先するのがババアです。そうした“武道館いっぱいのババア愛”に包まれて、始まりました。ジュリーのセブンティイヤーズ・ライブ・オールド・ガイズ・ロック――。

ギター1本のみを伴奏に、2時間以上、アンコールまで歌い続けたジュリーの声は朗々としていて、これぞロック、でした。若いときに比べてずいぶん肉付きがよくなったのも、この声を出すためだったのではないかと思いましたね。何かを捨てる、あるいは失うことで、何かを得る。これは、ババアになって私が痛感することのひとつです。

武道館いっぱいのババアたちもノリノリです。ただ、歳のせいか手拍子は「裏拍」でなく、どうしても「表拍」になりがちなのはご愛嬌。何もかも、若い人と同じようにはいきません。肩が痛くて、最初は真っ直ぐに手が上がらなかった私ですが、コンサートが終わる頃には、いい感じにほぐれていました。五十肩、六十肩のリハビリには、ライブがいちばん! もちろん無理は禁物で、ほどほどが大事ですが。

ジュリーは「あと10年やるよ!」と言っていました。私のロック愛も、まだまだ続きます。

バンドも20年、30年、50年やっていたら、客もババア(笑)! 最近、ババアはライブハウスに来るなっていう人がいますが、そういう人は、40過ぎたら家でお茶でも飲んで、じっとしていてください!

私は今年、ハイド・パーク(ロンドン)に、ニール・ヤングとボブ・ディランのライブに行く予定です。ババア旅、何がおきることやら。その様子も、この連載でお伝えしますね。どうぞ、ご期待ください!

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ギターウルフ セイジさんのサイン会に並ぶ私

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ロックバンド「忘れてモーテルズ」のメンバーと、あり得ない確率で、スカジャンがまるかぶり! 共に、“一点もの”と聞いて購入したのですが(笑)

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地曳いく子(じびき・いくこ)
1959年生まれ。『non・no』をはじめ、『MORE』『SPUR』『Marisol』『eclat』『Oggi』『FRaU』『クロワッサン』などのファッション誌で30年以上のキャリアを誇るスタイリスト。著書に『50歳、おしゃれ元年』『服を買うなら、捨てなさい』『着かた、生きかた』『ババア上等! 余計なルールの捨て方 大人のおしゃれDo&Don't』『ババアはつらいよ アラカン・サバイバルBOOK』『おしゃれも人生も映画から』『おしゃれ自由宣言!』など著書多数。槇村さとるさんとの動画連載「BBA(ババア)チャンネル byさとる×いく子」も好評配信中。http://gakugei.shueisha.co.jp/yomimono/bbach/01.html
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※この記事は、2019年3月6日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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