第1話 改めて、ぼっちです。|賽助「続 ところにより、ぼっち。」
大好評のHB連載「ところにより、ぼっち。」が帰ってきた!
ゲーム実況グループ「三人称」の一員としても活躍する作家・賽助が、ぼっちな日々を綴ります。
illustration 山本さほ
※本連載は2023年7月26日(水)に『今日もぼっちです。2』として書籍化されます。書籍化にあたって第1話と最終話のみ公開します。
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お久しぶりになります。作家の賽助です。
2019年3月から約1年間、『ところにより、ぼっち。』というタイトルで、自分がいかに『ぼっち』であったかというエッセイを書かせていただきました。
かなり自虐めいた内容ではありましたが、読んでいただいた方から「共感できた」「共感はできなかったけれど面白かった」など、様々なご感想をいただき、1年間書き続けられてよかったと思うと同時に、『ぼっち』であることも楽しんでもらえるのだなあと改めて感じた次第です。
さて、そのエッセイの連載は無事に終了したのですが、連載当初には予想もできなかった新型コロナウイルス感染症が蔓延し、今なお、世界中がコロナ禍に見舞われています。
一時期こそマスクの供給不足で戦々恐々としておりましたが、家にマスクが常備してあるのはもはや当たり前で、うっかりマスクをし忘れて外に出た日には、大慌てで顔を覆いながら帰宅することもありました。
他人と距離を取り、集団での行動は避けるべきとされました。『3密』、『ソーシャルディスタンス』という言葉が世間を賑わせていたのも大分前と感じてしまうほど、僕らは長い間、コロナという災禍に見舞われています。
僕は作家以外にもゲーム実況者という側面を持っておりますが、そのどちらもが殆ど人に会うことなく作業ができるものだったので、幸いにして、他の職種、趣味に比べると、そこまで大きな被害はありませんでした。
ただ、僕が所属していた和太鼓グループに関しては、このコロナ禍による影響で活動休止という状態になりました。
人を集めての本番ができなかった、そもそも練習をするための稽古場が長らく貸し出しを中止していた、というのも大きな理由ではありましたが、何よりグループメンバーそれぞれが、いわば趣味の活動である和太鼓よりも、まずはそれぞれの本業を優先させねばならなくなったからです。
様々なイベントが中止され、宿泊のキャンセルが相次ぎ、観光業・ホテル業は大打撃を受けていますが、メンバーの一人に宿泊業に従事していた男がおり、彼もまたコロナ禍の影響を受け、今もなお大変苦労しているようです。
また、メンバーの中には、生活をしていくために俳優業を廃業する決断をした人もいて、改めてコロナが人々に与えた影響を感じてしまいました。
とても残念ではありましたが、致し方ないことです。
それ以外では、例えばリモートワークが推進されたことによる弊害も殆どないかと思ったのですが、一つ、とても寂しいことがありました。
昨年夏、僕が作家としてデビューした出版社の担当Hさんが、その出版社を離れることになったという報告があったのです。
僕を作家として見初めてくれたのもHさんですし、デビューしてからずっと二人三脚でやってきたので、その報告を受けた時は「あ、なるほどそうなんですね」と平静を保っていたものの、やはりショックでした。
ご時世的に送別会などを開くこともできず、引継ぎも含めた最後の挨拶もオンライン通話会議で、とてもアッサリとしたものになりました。
ひょっとしたら、今までの苦労話など、もっとしっかりお話しをする機会を持つべきだったのかもしれません。
ただ、長らくぼっちで過ごしてきたせいか、また、誰かと離れる時は縁を切るようにして離れてしまうことが多かったせいか、ちゃんと『お別れ』をした経験に乏しく、どういう雰囲気にするのが正解か全く分からなかったのです。
結局僕はもごもごと口ごもったまま、淡々と引継ぎ作業が終わりました。
ただ、Hさんも会社を離れたとはいえ、また出版業界でお仕事をされるようなので、機会があればご一緒することもあるかもしれません。次のお仕事先は経済紙らしいので、ちょっと今の僕の知識や文体では、機会に恵まれなさそうではありますが……。
『ぼっちと経済』みたいなテーマでどっしりとした文章が書けるようになった時には、またHさんを頼ろうかと思います。
コロナ禍という未曽有の事態に翻弄されつつも、世間が少しずつ活動を再開させるにつれ、『ぼっち』で行動することの良さみたいなものが方々で取り上げられるようになりました。
驚くことに、こんな僕にも新聞社から取材の依頼があり、僕は恐縮しつつも、『ぼっち』であることの楽しさや、現代における『ぼっち』の在り方などを語ったのですが、ふとそこで、自分はそこまで『ぼっち』を堪能できているのだろうかと感じたのです。
例えば、一人で旅に行ってみたいと前々から思っていたし、一人でスポーツ観戦をしてみたいと感じていたのですが、ちょっと時間が取れないとか、実はそこまで楽しめないかもしれないなどと言い訳を考えては、色々な欲求を封じ込めていました。
折角だから、これを機にもう少し『ぼっち』の道を進んでみるのはどうだろうか?
今回、こうして再びエッセイ連載の依頼をされた時、そんな願望が僕の頭を過りました。
しかし同時に「やめておけ」という内なる声も聞こえます。
それ以上進んだら、戻れなくなるかもしれないぞ――と。
確かに、これは茨の道なのかもしれません。
以前の連載は『今日もぼっちです。』という題名で単行本として発売されましたが、このまま突きつめていくと、次にこの連載をまとめた本を出させてもらうことになったとしても、その題名が『今月もぼっちです。』や『今年もぼっちでした。』、ややもすると『今世紀は~』というものになりかねません。
しかし、まだ僕が見たことのない、『ぼっち』でしか見ることのできない景色を眺めてみたいという欲求が頭を離れません。
自分の中で意見が分かれた時、それで怪我をするわけではないのなら、僕はなるべくやってみる方向に舵を切るようにしています。
というわけで、この連載では積極的に『ぼっち』を味わっていきたいと思います。途中、例えば過去のぼっちエピソードだったり、『ぼっち』ではない活動に関することも書かせていただくかもしれませんが、どうぞお付き合いいただければ幸いです。
連載【続 ところにより、ぼっち。】
毎月第2・4火曜日更新