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水野仁輔さん「カレーの小学校」を開校!? 自由研究にもぴったりな、スパイスとカレーの体験型学び。『最強!カレー道』刊行記念イベントレポート

2023年6月3日、都内某所で「カレーの小学校」が開校した。校長は「東京カリ〜番長」を立ち上げ、カレーの研究家として長年活躍する水野仁輔さん。実はこれ、『最強!カレー道 10歳から学べる食の本質』(文・水野仁輔/マンガと絵・伊藤ハムスター)の刊行を記念した1日限りの特別な「学校」なのだ。
集まったのは、3年生から6年生までの小学生たち。スパイスやカレーの味の秘密について学びながら、水野さんが考案した「小学生でも作れる最強チキンカレー」作りに挑戦する。みんな、自分でカレーを作るのは初めて。包丁を使ったことがない子も多く、中には「カレーは苦手」という子も。果たして最強カレーは本当にできるのか? 当日の様子をレポートする。

(構成=編集部/撮影=山口真由子)


自分で料理したことある?

まだ緊張感が漂う子どもたちを前に、水野さんの挨拶で学校がスタートした。
「水野仁輔です。ぼくは出張料理人として、世界とか日本のあちこちでカレーを作って食べてもらってきたんだ。本もたくさん出しているけど、実は、子ども向けの本は、この『最強!カレー道』が初めてなんだよね。だから今日はとっても楽しみにしてきました。この本は、1冊読んだら自分なりの最強においしいカレーが作れるよっていう本です。今日はその最強カレーを、みんなで作るんだけど……お手伝いじゃなくて、自分でなにか料理したことあるよって人はいる?」

「わたし、クッキー作ったことある」と、小学3年生のはづきちゃん。「わたしも〜!」と、ののちゃん、ゆきちゃんの女子コンビも続く。「包丁使ったことな〜い」と、4年生のゆいと君。6年生のもめん君は、「家庭科で、味噌汁とご飯は作ったけど……」と言う。コロナ禍の初期は調理実習ができない学校も多く、この3年間は、林間学校などでの共同炊事の経験もほとんどできなかった子どもたちだ。期待と不安の入り混じった表情で、水野さんをうかがっている。

「くっさーい!」スパイスの嗅ぎくらべは大盛りあがり

「まずは、カレーを作るのに必要な材料をそろえないとね。一番はなんだと思う?」
「カレールー!」「お米!」
「うん、そうだね。お米は今、炊いています。ルーも入れるんだけど、最強カレーのレシピでは、最後にほんのちょっとだけ入れるんだ。今日はせっかく料理教室に来たわけだし、もうちょっと本格的なやつ、やってみたくない? そう思って、ここに5種類のスパイスを持ってきました。1つずつみんなに回すから、この中からカレーのにおいがするやつを見つけてみて。あるかな?」

「うえー! くっさーい!」「おれの鼻ぶっこわれる〜」「黄色いやつ、やばすぎ!」「赤もやばい! やめたほうがいいよ」と、子どもたちは大騒ぎ。「茶色いのはちょっといいにおいじゃない?」「おれは全部イヤだ」と、男子チームと女子チームで意見が割れている。

「黄色は全員がイヤなのかぁ〜。女子チームがいいって言っているのはコリアンダーだね。ぼくもとってもいいにおいだと思うけど、男子チームはダメ? ダメかぁ。じゃあさ、スパイス、カレーに入れないほうがいいってことにならない? でもまぁまぁ、ちょっと待ってよ。この中にカレーの香りがするやつは1つも無かったんだよね。そしたら、混ぜたらカレーの匂いができるかもしれないよ。やってみよう。まずは、悪いけど一番人気がなかった黄色を入れちゃいまーす」

目と鼻と手でスパイスを学んだら、子どもたちの反応に変化が

「えーっ!」と子どもたちから悲鳴が上がるなか、「ふふふ」とスパイスを配合していく水野さん。
「これはターメリック。もらった質問のなかに『カレーはどうして黄色いの?』というのがあったけど、このターメリックが入っているからだよ。みんなが最初に言ってくれた、カレールーにも入ってる。ターメリックはしょうがの仲間で、植物の根っこなの。だからちょっと土っぽいにおいがするんだよね」

こうして水野さんが1つ1つスパイスの説明をしながら、ケースの中で混ぜていく。「これ、無印良品で嗅いだことあるかも」「似たにおいのお菓子があるような……」「きれいなオレンジになった!」と、最初は単に「くさい」と騒いでいた子どもたちが、細かな違いに気づきはじめた。

5種類すべてを混ぜ終え、本日のカレー粉が完成。「カレーのにおいになった」「いいにおい」という子もいれば、「やっぱりまずそう」「カレーのにおいじゃない」という子もいる。
「感覚って人それぞれなんだよね。今はくさいと思っても、他の材料と合わさったら美味しく変身するかもしれない。しないかもしれないけど」と、水野さんは正解・不正解を言わない。子どもたちそれぞれの感覚や意見を楽しそうに聞いて、「まずはやってみよう。失敗したらその時また考えよう」というスタンスだ。

スパイスを入れた容器をシェイクする作業は大人気。

初めての包丁にドキドキ。下準備は自分たちで役割分担

子どもたちの希望で、男女チームに分かれた2つの鍋。それに水野さんが作る鍋を加えて、合計3つの鍋でカレーを作ることになった。にんにく、しょうが、玉ねぎ、鶏肉をすりおろしたり切ったりする作業は、子どもたち自身で役割分担を決める。食材や道具を扱う注意点やポイントを、水野さんが随時説明しながら作業が進んでいく。

「見て見て、玉ねぎがカブになっちゃった〜!」
「大丈夫?」難しいところは、お互いに注意したり交代したりしながら。
しょうがの皮はスプーンのへりで剥く。
手を出したくなる気持ちをぐっとおさえ、見守ってくれる保護者のみなさん。

カレー作りの鬼門!? 玉ねぎ炒めに挑む

「さて、ここから鍋で炒めて、煮ていきます。じゃあ、この材料、どういう順番で入れようか?」子どもたちの意見を聞いて、食材と調味料を順番に並べていく水野さん。一通り順番が決まったところで、「でもさ、これだと肉がこげそうじゃない? そうすると……」「わかった、油が先!」と、ここでも対話を重ねながら、より美味しくなりそうな方向に導いていく。

道具の特徴も説明して、どれを使うかは子どもたち自身が選ぶ。
油はねがこわくて、最初はおそるおそる玉ねぎを投入。
「玉ねぎだけは、ちょっとがんばって炒めないとね。10分くらいかかるから、ばらしながらときどき混ぜるくらいでいいよ。疲れちゃうから」と水野さん。

保護者からは、「カレーは玉ねぎが一番のポイントってよく聞くよね」「だいぶしっかり炒めないといけないんじゃないのかなぁ?」といった声が上がる。こだわりのカレーといえば、玉ねぎを飴色になるまで根気よーく炒めて……というイメージが強いのかもしれない。

「みんな、玉ねぎをよく炒めると『甘くなる』って聞いたことない? ぼくはいろいろ実験してわかったんだけど、実はね、玉ねぎに含まれる甘さって、生のときと炒めたあとで変わらないんだよ。でも、確かに焼いた玉ねぎって甘いでしょ。不思議だよね。なんでかと言うと、炒めるとその他の辛味とかが飛ぶから、甘さが強くなったように感じるの。あとはメイラード反応といって、焦げたところが美味しくなる反応が起きていたりもするね」水野さんの解説に、保護者も興味津々だ。

くさいスパイス、美味しいカレーに大変身?

「あれ? カレーのいいにおいがする!」
スパイスを投入して炒めはじめると、先ほど全てのスパイスを「くさい」と言っていた、けいた君とゆいと君が声をあげた。「ほんとだ〜」「もう食べたい」と、女子チームも納得の様子。

「なんでカレーのにおいになったんだろう?」「熱が加わったからかな?」と、また水野さんと子どもたちは対話をし、一緒に考えながら煮込みと味付けを進めていく。

煮込んでいる間に、かくし味の話や材料それぞれの役割、スパイスのはたらきについての解説もあった。カレーを煮込む時間は、休憩しながらこれまでの作業をおさらいしたり、子どもと一緒に考えたりするのにぴったりなのだ。

仕上げの前に、スパイスと味の関係について確かめるため「ひとくちなめてみて」と水野さんにすすめられてスパイスだけを味見。「うえっ! 薬みたい」とジュースで流し込む。
同じくガラムマサラを味見して、静かに顔をしかめる。

カレーソースが完成! 色や分量の違いを観察して、味見と仕上げ

いったん味見をしてから塩味を整えたら、ついにカレーソースの完成だ。女子カレーと男子カレー、そして背後のコンロで水野さんが作っていたもの、3種類の鍋が並んだ。
「ぼくのは、けっこうほっぽらかして、ずるして作ったカレー。玉ねぎ炒めとか、スパイスを入れるタイミングとかがみんなとちょっとちがう『ずるカレー』です。じゃあ、全部の鍋をみんなで味見してみよう」

「うっっまい!」「最強!」「おいし〜い。スープカレーみたい」「わたしは女子カレーが一番だな」「『ずるカレー』が一番おいしいんですけど〜!」「なんで同じ材料なのに色がちがうの?」「水が蒸発したかな?」と、それぞれの感想や気づいたことが、子どもたちの口からぽんぽん飛び交う。みんな、カレーを見る「目」や感覚の精度が、どんどんパワーアップしている様子だ。

ワイワイ盛りつけ対決。そして、いざ実食!

「だれが一番おいしそうに盛りつけられるか、対決しようか?」と水野さんの号令で、各自、盛りつけタイムに。子どもたちの達成感に満ちた表情と、個性が光る盛りつけをぜひご覧いただきたい。

女子チーム(▶︎ボタンでスライドが切り替わります。1枚目から、はづきちゃん、ののちゃん、ゆきちゃん)

男子チーム(▶︎ボタンでスライドが切り替わります。1枚目から、けいた君、もめん君、ゆいと君)

水野さんの「ずるカレー」(▶︎ボタンでスライドが切り替わります)

「給食のカレーより美味しい〜!」「ほんとに最強になった」「お肉やわらか〜い」「おかわり、ある?」と、パクパク食べる子どもたち。試食した保護者のみなさんからは「あんなに簡単で材料も少なかったのに、こんなに美味しいの!?」「香りが本格的だね〜」と驚く声が上がった。

カレーが苦手なうちの子が……

「実はうちの子、カレーが苦手なんです。給食のカレーは食べているみたいなんですけど、家でちょっとでもスパイスを使ったりするとダメで……」

そう話しかけてくれたのは、ゆきちゃんのお母さん。給食の材料を調べて、給食に寄せて作ってみてもやはりダメ。他にも色々と工夫してきたが、家でカレーを美味しいと食べてくれたことがなかったそうだ。何かヒントが得られないかと、今回参加してくれたとのこと。

「それが今まで見たことない勢いで食べていて、本当にびっくりです。ニンニクもしょうがもスパイスも入っているのに……。今まで食べたカレーで一番美味しいって言ってました。自分で作ったというのもあるんでしょうけど、それにしてもすごいですよね。玉ねぎの切り方とか炒め方とか、手をちゃんとかけるところと抜くところが絶妙だなって思いました」

カレーについての質問、なんでもどうぞ

食後は、カレーについての質問コーナー。
「カレーは辛いりょうりですか?」「かくし味にはなにがありますか?」「カレーに使うスパイスは何種類ありますか?」「ルーはどうやって作るんですか?」など、子どもたちが事前にアンケートに記入した質問について、水野さんが軽妙なテンポで答えていく。

「なんでいろんなカレーがあるんですか?」という質問に「それはね……いろんなカレーが食べたいから!」と答えて、子どもたちが笑ってしまうような場面も。その後に、「だって、人によって、肉が食べたいとか野菜が好きとかいろいろあるでしょ? あとは地域とか宗教によっても、食べられるもの、好まれるものはちがってくるしね」と続く。スパイスや辛さの秘密など、詳しい解説は『最強!カレー道』にも掲載されている。

最後にみんなで記念撮影をして、「カレーの小学校」はひとまず閉校。
本イベントのように、カレーを題材に多彩なテーマを学びながら「最強カレー」作りができる『最強!カレー道』。夏の自由研究、林間学校の予習、キャンプでのカレー作りなどに、ぜひ活かしていただきたい。

本も読んでね! レシピ以外にさまざまな角度からカレーの魅力を掘り下げています。
夏休みの自由研究にも最適!

イベントには残念ながら参加できなかった、伊藤ハムスターさんもコメントを寄せてくれた。

写真のお子さんたちの笑顔がすごく良くて、素晴らしい時間だったことがビシバシ伝わってきました。カレーはおいしいだけでなく楽しいんですね!


プロフィール

水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー研究家。株式会社エアスパイス代表、「カレーの学校」校長。1999年に立ち上げたユニット「東京カリ〜番長」では、料理人として全国各地での出張ライブクッキングを実施。現在も世界を旅するフィールドワークを通じて「カレーとはなにか?」を探究し続けている。「AIR SPICE」では、コンセプト、商品、レシピ開発のすべてを手がける。カレーやスパイスに関する著書は60冊以上。
Twitter:@AIRSPICE_mizuno

伊藤ハムスター(いとう・はむすたー)
多摩美術大学油絵科卒。クスッと笑えるイラストが人気のイラストレーター。山崎聡一郎『こども六法』、深井宣光『小学生からのSDGs』などベストセラーのイラストを多く手がける。カレーが大好きで、著書に『うますぎ!東京カレー』がある。
Twitter:@ito_hamster

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