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吉田豪×玉袋筋太郎「“あの頃”を語ろう」──『書評の星座 紙プロ編 吉田豪のプロレス&格闘技本メッタ斬り1995-2004』刊行記念対談

3月26日、丸善ジュンク堂書店池袋本店で、『書評の星座 紙プロ編 吉田豪のプロレス&格闘技本メッタ斬り1995-2004』の発売を記念し、著者の吉田豪さんとゲストに玉袋筋太郎さんを迎えてオンライン対談イベント「あの頃を語ろう」が開催されました。
「書評の星座」が連載された当時の『紙のプロレスRADICAL』にも度々登場した玉袋さん。
20数年来の付き合いというお二人が、紙プロやマット界の「あの頃」や本書について語り合いました。
構成=堀江ガンツ/撮影=野本ゆかこ

美人カメラマンと吉田豪の意外な接点

玉袋 今日は『書評の星座 紙プロ編』はもちろん、いろんな話をしていこうと思うんだけど。豪ちゃん、最近どう?

吉田 ボクの周りが、皆さん燃えたりとか大変なんですよ。

玉袋 みんな燃えてるんだよなー。ネットで炎上しちゃってね。

吉田 玉さんも相方(水道橋博士)が炎上してましたもんね。

玉袋 また、あの人もよく炎上するんだよ(笑)。豪ちゃんはこの本では燃えなかったの?

吉田 燃えかねない内容ではあるんですけど、立ち読みとかで簡単には読めない本だから燃えないんですかね?

玉袋 そうだよ。分厚くて、読むのに時間かかったよ!(笑)

吉田 基本的に誰かの発言を燃やしたい人はお金を出さないので。ネットの書き込みなら燃えるけど、3000円くらい出してこんな分厚い本をわざわざ読まないっていう。

玉袋 なるほどね。俺と豪ちゃんは、この「書評の星座」が連載されてた『紙のプロレス』時代からの付き合いだけど、初めて会ったのはいつなんだろう?

吉田 たぶん『トンパチ』のときですね。

玉袋 あったな~!『トンパチ』って本が出たんだよな。

吉田 大槻ケンヂさんと浅草キッドによるプロレスラーのインタビュー本で。基本はオーケンさんなんですけど、そのうち二人を浅草キッドが担当して、1人だけボクが担当というすごく変則的な本で。「紙のプロレス監修」ってことで、キッド部分の取材にボクが同行したりもして。

玉袋 ジョージ高野と邪道、外道にインタビューしたんだよな。あの時か~。邪道と外道もたけしプロレス軍団出身だから、言ってみれば戦友だよ。

吉田 あの時はまさか、外道さんが新日本プロレスのマッチメーカーになるとは思わなかったですよね。

玉袋 思わねえよ。まさかカネの雨を降らせるような男になるとはね。あの頃から変わってないことと言えば、スペル・デルフィンことモンキーマジック・ワキタの悪口だけは、ずっと言い続けてるってことだな(笑)。

吉田 あの辺の人たちって、そういう人間関係ばっかりなんですよね。

玉袋 長いんだよな。外道さんの本も読んだんだけど、「まだ言ってんのか。もう勝負はついたろう」って思うんだけど。どっこいデルフィンも生きてるしね。

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玉袋筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)
1967年、東京生まれ新宿育ち。高校卒業後、ビートたけしに弟子入りし、1987年に水道橋博士とお笑いコンビ「浅草キッド」を結成。芸能活動のかたわら、多数の本を手がけ、一般社団法人「全日本スナック連盟」を立ち上げ、自ら会長を務める。著書に『スナックの歩き方』 (イースト新書Q)、『驚天動地!! プロレス取調室~さすらいのアウトロー編~』(毎日新聞出版)、『玉袋筋太郎のプロレスラーと飲ろうぜ』(白夜書房)など。

吉田 ●●●●●さんっていう女性カメラマンがいるじゃないですか。なぜかあの人とのイベントを組まれたことがあって、接点がないのにいいのかなと思いながら行ったんですよ。そしたら接点がバリバリあって。

玉袋 えーっ!?

吉田 もともと売れないアイドルだったんですけど、その当時、プロレス団体のイメージガールをやってたって話で。「どこの団体ですか?」って聞いたら、「ウルトラマン・ロビンさんの団体」って(笑)。

玉袋 なぜか円谷プロが公認しちゃった、ウルトラマン・ロビンか!(笑)

吉田 だからあんな美人カメラマンから普通に「尾内さん(ロビンの本名)」っていう単語が出て(笑)。それで、すぐに調べて彼女がトークショーとかやってた当時のDVDを入手したんですよ。

玉袋 また仕事が早いね(笑)。

吉田 で、イベントでその話を掘り下げたら、当時、彼女はまだ15~16歳だったんですけど、スペル・デルフィンに口説かれたって言ってました(笑)。

玉袋 出たよ!(笑) そのデルフィンのカミさんの早坂好恵ちゃんとも俺たちは古いからね。

吉田 早坂好恵さんがキッドのふたりと仲良かったことで、芸能界のいろんな情報がキッド側に漏れてたんですよね? 和田アキ子さんの家での模様とかが。

玉袋 そうそう。和田アキ子邸の新年会ね。あそこでYOSHIKI vs和田アキ子っていう戦いがあったとかさ。

吉田 YOSHIKI vs貴闘力とか(笑)。

玉袋 ボーンと突き飛ばしたら、その先に貴闘力がいたっていう(笑)。俺なんかその貴闘力さんにも、この間「YouTubeに出てくれ」って言われちゃったりしてさ。いろいろつながるね~!

「俺を見てくれ!」が強すぎるライターにはダメ出し

吉田 本はいかがでしたか?

玉袋 いや、最高だよ。今読んでもヒリヒリするっていうかさ、カテェの入れてんなって。

吉田 前作のゴング格闘技バージョンでも校正で読み返したくなくて。ボクはゴン格の頃は丸くなったつもりだったんですけど、初期は相当ギラギラしていて、紙プロ時代はもっとだったので。実際に紙プロ時代から書評でのトラブルは何度も起きてるのに、よくそのノリのままいまでも続けてるよなっていう(笑)。

玉袋 豪ちゃんって図太えというか、その辺は腹が据わってるよ。

吉田 「脅されたら脅されたでネタにすればいいや」っていうのがあって(笑)。

玉袋 まあ、Show大谷(泰顕)に脅されてもどうってことねえんだけどな。

吉田 なんのダメージもないですね(笑)。

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吉田 豪(よしだ・ごう)
1970年、東京都生まれ。プロ書評家、プロインタビュアー、コラムニスト。さまざまな媒体で連載を抱え、テレビ・ラジオ・ネットでも活躍の場を広げている。著書に『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『聞き出す力』『続聞き出す力』(日本文芸社)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『吉田豪の空手★バカー代』『吉田豪の"最狂"全女伝説』『吉田豪と15人の女たち』(白夜書房)、『書評の星座 吉田豪の格闘技本メッタ斬り2005-2019』(ホーム社)など。

玉袋 ただ、読んでてハラハラしたよ。命を削って書いてるんだなって。

吉田 プロレスラーはまだある程度受身を取ってくれるけど、格闘家って受身を取らないですからね。

玉袋 それなんだよな~。2冊読むとそれをしっかり見分けることができるよ。でね、とくに今回の「紙プロ編」を読んだときに、3人ひっかかる人間がいたんだよ。

吉田 誰ですか?

玉袋 「三大田中」っていうのがいてさ。田中正悟、田中八郎、そして田中正志(タダシ★タナカ)っていう、3人のズンドコ田中だよね。

吉田 田中正悟に関しては、「書評の星座」が一番その動向がわかる本ですからね。田中正悟の本をすべて追い続けたっていう(笑)。

玉袋 てめえが“イノセントファイター”になっちゃったっていうね。それで田中正悟の話が出てくると、また面白いのが『サイキック青年団』(ABCラジオ)の竹内義和さんや北野誠さんも出てくるわけさ。

吉田 で、ボクはそこに手厳しいんですよね(笑)。(浅草キッドの)かつての盟友じゃないですか。

玉袋 盟友なんだけど、当時、竹内義和さんが田中正悟のことをすごく持ち上げててさ。「田中正悟先生はすごいでー」ってノリノリだったんだけど、俺はちょっと違う臭いを感じてたから。

吉田 髪型からなにからおかしいぞっていう(笑)。

玉袋 『デッドリーターゲット』っていうVシネマにも出ちゃったりとかさ。

吉田 本人は「ハリウッド映画」っていう言い方をしてましたけどね。前田日明いわく、「俺にオファーが来たのをアイツが勝手に取ったんだ」って。でも、当たり前ですよね。どう考えても田中正悟にハリウッドから出演オファーが来るわけないんですから。

玉袋 ないよ。だってレスラーでもなきゃ俳優でもねえ、西遊記チェーンっていうラーメン屋なんだから(笑)。

吉田 その後、接骨院をやって。接骨院バージョンの本もゴン格のほうで書評してるんですよ。

玉袋 田中正悟を網羅するね~! で、もう一人の「田中」である田中正志は、そもそもウチの相棒(水道橋博士)の物件なんだよ。浅草キッドってコンビを組んで、博士に「俺のプロレスの師匠がいる」みたいに言われて紹介されたのが、田中正志だったからね。

吉田 前田さんにとっての田中正悟のような、どうにも怪しい師匠みたいな人なんですね(笑)。

玉袋 あの頃、外資系のトレーダーかなんかをやっててさ、まだバブルだったからアークヒルズに住んでてよぅ。

吉田 当時は金回りが良くて。

玉袋 ところが金回りいいかと思ったら、焼肉屋に行くってときに1900円の食べ放題に連れていかれたからね。あんなの高校生でも行かねえよ。そこで安い肉食わされながら威張られてさ。

吉田 その辺から「おかしいぞ」と(笑)。あとPRIDE全盛期ぐらいに「タダシ★タナカ売り出し計画」もありましたよね。博士が頑張ってて。

玉袋 PRIDEの会場で、フジテレビの制作やスポーツ班の偉い人とかみんないる部屋に連れていったんだけど、また鈍臭いんだよ田中正志が。場違いで浮きまくっててさ。

吉田 そもそも、のちにPRIDEを潰す張本人を連れていっちゃったってことですよね。“フジテレビショック”を起こした人ですよ!

玉袋 今思えばそうなんだよ。『週刊現代』にネタ売ってね。

吉田 タダシ★タナカの最大の実績ですからね、PRIDEを潰したっていうのは(笑)。

玉袋 よっぽどPRIDEの会場で、田舎侍が入ってきたような目で見られたことが、あんな鈍感な男でも感づいたんだろうね。そこの恨みが告発につながったのかもな。もともとシュート活字ってやつをやってたけどさ。

吉田 タダシ★タナカについては、実はプロレス界に影響を与えてる部分があるんじゃないかと思ってて。90年代のアメプロを編集したビデオを大学のプロレス研究会とかに送りつけてて、それを観た学生時代のレイザーラモンRGが影響を受けたりもしたので。同じ大学で学生プロレスやってた棚橋弘至も含めてそれなりにマット界への影響もあったんじゃないかと、一応フォローを入れてみました(笑)。

玉袋 それぐらいは言ってあげてもバチは当たらないな。

吉田 ただ、タダシ★タナカは、何かを書こうっていうよりも「俺すごい!」「俺を見てくれ!」が強すぎたんですよね。

玉袋 そういうところを豪ちゃんはちゃんと見てるからね。その「俺を見てくれ!」っていう、自分の姿を鏡で見ながらオナニーするようなタイプって俺は大嫌いだからさ。結局、あの人はそういうタイプなんだよ。

吉田 ボクがプロレス本とかでも引っかかるのはそういう部分ですね。「俺を見てくれ!」が強すぎると、どんどんダメ出しが始まるっていう。「Show氏の『俺を見て』が強すぎるんだよ!」みたいなね(笑)。

玉袋 だからレスラーや格闘家だけじゃなく、マット界に巣食った輩やライターたちみんなが、豪ちゃんに分解されていくのがいいよね。

吉田 いまさら「大沼孝次」なんて単語を出して批判する本はまずないですからね(笑)。

玉袋 出てこねえよ。俺も「大沼が出てきたよー!」って喜んじゃったもんね。一見、「豪ちゃんも厳しすぎかな?」と思うこともあったんだけど、引用してる文章を読むと、たしかにダメな文章なんだよね。

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1995年から2004年の連載を収録した「紙プロ編」

吉田 これを書き始めた時、ボクはまだ24~25歳のペーペーで、プロレスをちゃんと観始めてからのキャリアも浅かったけど、こんなボクに粗が見つかっちゃダメでしょっていう。要は、ボクよりキャリアが上の書き手に対してなら何をやってもいいと思ってた時代なので、容赦なくいきますよって姿勢でしたね(笑)。

玉袋 その豪ちゃんが『紙プロ』で書評を始めるきっかけがさ、Show大谷がやってた書評が酷かったからっていうのがまたいいよ。彼の文章もちゃんと引用されてるんだけどさ。

吉田 ホントに不愉快なんですよね(笑)。

玉袋 これがまた「俺を見て!」だらけなんだよ!

吉田 でも、そんなShow氏が山口日昇(『紙のプロレス』編集人)にどんどん食い込んでいって、最終的には一時期、Show氏が紙プロを継ぐみたいな話もあったりしたのもとんでもない話ですよね。

玉袋 おいおい、やめてくれよ!

吉田 山口日昇が唯一信用するのはShowだけだ、みたいな(笑)。

玉袋 あの人も人を見る目がなかったのかもな(笑)。Show大谷っていうのは、もともとプレッシャー(週刊プロレス投稿者常連会)かなんかの会員だったのが、いつの間にか『ワンダフル』(TBSの深夜番組)にまで絡んじゃってね。

吉田 一時期は『ワンダフル』のレギュラーでしたよね。首から携帯をぶら下げてテレビに出て。すごく細かいことを言いますが、当時のボクの口癖の「押忍!」が盗まれたんですよ!(笑)。

玉袋 おいおい、どんな仕返しだ!?(笑)

吉田 当時、ボクは空手に一番ハマってた時代なので、挨拶とかは基本的に「押忍!」って言ってたら、Show氏がテレビで「押忍!」って言い始めて。ボクは「押忍」をまったく言えなくなっちゃったんですよ。先に言い始めた人間なのに、「カッコわる!」と思って(笑)。

玉袋 「コマネチ!」みてえなもんかな(笑)。まあ、話は逸れちゃったけど、田中正悟、田中正志に田中八郎っていう、三大田中があの時代にはいたなって、豪ちゃんの本を読んで思ったよ。

吉田 なんだかんだでマット界に影響を与えてるっていう。

これだけ本が出続けるプロレスは異常なジャンル

玉袋 あとこの本を読んでると、豪ちゃんが精神科医のように思えるっていうかさ、書評が問診したカルテに見えてくることもあったんだよ。船木誠勝の本とかは、とくにそれを感じたね。

吉田 マッドネスな感じを、問題行動や発言を並べながら結論づけていくっていう。

玉袋 初期パンクラスっていうのは、ちょっと骨法とは違ったカルト感があって。ファンも「パンクラスだけが本物!」みたいな感じがあったじゃない。

吉田 それを一番言ってたのがShow氏だったんですよ(笑)。

玉袋 またShow大谷が出てきたよ(笑)。

吉田 「パンクラス以外は全部八百長」っていう考えで。当時、紙プロ編集部に来て、「なんでみんなは、そんな八百長を観てて楽しんでるの?」って感じのことを言ってたんですよ。「リングスとか八百長でしょ?」とか言って。

玉袋 ひでえな、おい!

吉田 「雑!」っていう(笑)。

玉袋 そういう人たちに神格化されてたのが船木誠勝だったりするわけだけど。その船木さんの本を読むと、またおかしな匂いがしてくるんだよ。

吉田 やっぱり心酔してる人が書いてるから、本もあきらかに変なんですよね。船木のマッドネスな部分にちゃんと光を当ててなくて、でもダダ漏れしてるという(笑)。

玉袋 気づいてなかったのか、見て見ぬふりをしてたのか。

吉田「どう考えてもこの人は“ホンモノ”ですよ」っていう(笑)。

玉袋 “ガチ”ってことだよな(笑)。で、よせばいいのに、ベースボール・マガジン系の人が寄っていってさ。

吉田 ヤスカクおじさん(安田拡了氏)ですね。

玉袋 ヤスカクおじさんがさ、また絡めば絡むほど船木のカルテが増えていくっていうね(笑)。ああいう本が出ると、絶好球が来たっていうか、ボールが止まってみえるわけ?

吉田 もううれしくてたまらなくなっちゃって。「船木の本が2冊も同時発売で出る!? これはヤバいよ!」って。内容も期待通りっていう(笑)。そういう視点でいじる人がいなかったんで、ちょうど隙間だったんですよね。いまでこそ船木=マッドネスな感じになってるけど。

玉袋 なんなんだろうな、彼の面白さっていうのは。ピュアっていえばピュアなんだろうけど。そこにヤスカクおじさんとかが絡むと、不思議なことになっちゃうというかさ。あと、俺は豪ちゃんが書評でさんざんぱら叩いたサンボ浅子は大丈夫だったんだよ。居酒屋やってて、会ってみたら面白くてね。

吉田 基本的にボクはレスラーは批判しない方向なんですけど、サンボ浅子本は当時としては完全な暴露本だったんで、「それってどうなの?」って書いたんですよ。とは言いながら、ボクもひどいことやってますからね。イニシャルトークをすべて解明するっていう(笑)。

玉袋 伏字の意味をなくすっていうね(笑)。

吉田 勝手に当てはめた上で「こんなことを書くなんて!」って怒ってみせるっていう(笑)。

玉袋 批判してるようで乗っかってるんだな(笑)。

吉田 そういうことです。自分から書いたらヤバいけど、怒れば載せられるっていうシステムでやってただけなんですよ。ボクはそんなにサンボ浅子には怒ってるわけでもないし。だから(『書評の星座』は)書評での引用なのをいいことに、プロレスの仕組み的なところを早い時期から書いてあるひどい本ではあるんですけど(笑)。

玉袋 そこは豪ちゃんが一枚上手だよ。

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吉田 だからこそミスター高橋本も基本的には絶賛していたし、当時は、だいたいの取材した人にはミスター高橋本について聞くっていう手口をやってましたね。「あの本どう思いました?」っていう聞き方で、デリケートな話を振って。

玉袋 そこでどう答えるかっていう駆け引きもまたプロレスだよね。それにしてもあらゆる業界で、これだけ選手や関係者が本を出すところってあるのかね? プロレスだけじゃねえかな。野球だってこんなに出ないでしょ。

吉田 異常ですよね。バブルが過ぎた頃もまだ出てましたからね。

玉袋 すごいジャンルだよな。それだけ底なし沼的なことがうまく流布されて、ネットもまだなかったから「真実を知りたい」っていうところで飢えてた読者もいたんだろうな。

吉田 よく言うんですけど、プロレスの裏話ってそんなにエグくないっていうか、なんとなくいい話でプラスになることが多いじゃないですか。「じつはあの試合はガチで」みたいな。ところが格闘技の裏話ってネガティブ、マイナスなことばかりなんですよ。ドロドロしてるのが多くて。

玉袋 プロレスのほうはみんながプロフェッショナルだからね。

吉田 プロレスは、一時期のノアの暴露本以外はだいたいいい話ばっかじゃないですか。

玉袋 あれはキツかったな~。あと格闘技系でちょっと困るのは、大概ギャグのポイントがズレてるんだよな。

吉田 それはボクが常々言ってる、柔道家がおもしろげなアピールをするとだいたい寒いっていうのと同じですよね。

玉袋 その最たるものが、吉田秀彦のPRIDEでのマイク。「ガクトー! 名倉さーん!」っていう。あんな場外ホームランはなかったもんね。

吉田 マイクアピールを接待と人脈アピールに使っちゃうっていう(笑)。

玉袋 柔道家はだいたいその辺がズレてたんだよな。かといって空手家の佐竹雅昭にギャグセンスがあったかと言えば……。

吉田 致命的でしたね。一番センスないと思う(笑)。なのに当時は、空手家に真面目なイメージが強すぎたから、「面白い人」として出てきていて。

玉袋 そうなんだよ。関西弁でオタクっぽいっていうだけでさ。

吉田 何度も言ってますけど、ボクは佐竹とのファーストコンタクトが衝撃的すぎましたからね。当時、K-1絡みの仕事を頼まれて行ったら、たまたまK-1のパンフの撮影現場と一緒で、佐竹が写真を撮られてて。フィルムチェンジのときに、佐竹がボクと元・紙プロの松林(貴)さんの方を見て「だっちゅーの!」をやってきたんですよ。すでにブームがもう3年ぐらい過ぎた頃で、「うわっ、どうしよう。受身が取れない……」と思って固まってたら、「あれ、聞こえてないのかな?」と思ったみたいで、もう一回「だっちゅーの!」ってしてきて。「うわあ……」と思ったら、松林さんが「いやー、やっぱり佐竹さんは面白いなー」って(笑)。

玉袋 それ、言っちゃうからダメなんでだよ!(笑)

吉田 「こうやって甘やかすからいけないんですよ!」っていう(笑)。そのときに思ったのは、それを前田日明とか橋本真也がやってたら本気で笑うなと思ったんですよ。

玉袋 あの二人は振り切れてるから。実際、巨乳だしね(笑)。

吉田 佐竹の場合、ホントにつらかった。

玉袋 だから俺なんかも、格闘技も好きなんだけどプロレス側なんだよな。そして豪ちゃんの本は、最後に向井亜紀さんの本の書評がきっかけで、山口(日昇)さんとの関係がおかしくなったというのも読んで。「あー、そうか」と思って最後に本を閉じたね。

吉田 この本でも説明してますけど、山口日昇が当時は完全にPRIDEの中の人だったからバランスが取れなくなっていて、書き手を守るっていうことができなくなってたんですよ。髙田延彦サイドにしてみたら紙プロは一緒にビジネスをやってる仲間だと思ってるから怒るのも当然だし。

玉袋 だからバランスが崩れてたんだよな。ちょうど髙田さんの『泣き虫』が出たのもあの頃でしょ?

吉田 当時、ちょうど忙しくて『泣き虫』の書評を後回しにしてて、その前に向井亜紀の本を書評するっていう軽いボケでもあったんですけど……。

玉袋 ボケが墓穴を掘ったと(笑)。

吉田 そうそう(笑)。

玉袋 だから、この業界には地雷がたくさんあるんだけど、それを踏みまくりながら残してきた豪ちゃんの足跡っていうのは、やっぱり素晴らしいと思うよ。

吉田 25年やってますから。本も2冊出して。

玉袋 それで今回、『書評の星座 紙プロ編』で若き日の豪ちゃんの原稿をあらためて読ませてもらって、スタイルは変わってねえんだなとわかってうれしかったよ。

吉田 いまだにゴン格の連載でもちゃんと厄介そうな相手に噛み付いてますからね。

玉袋 だから、読者に代わって俺からお礼を言っておくよ。「豪ちゃん、素晴らしい本をありがとう。これからもたくさん書評してください」って。でも、自分で本を出して、書評されると思うとドキッとするよ。これは斬られちゃうぞ、本なんて出すもんじゃねえってね(笑)。

吉田豪×玉袋筋太郎「“あの頃”を語ろう」【了】

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