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お飾りじゃないのよいちごは |斧屋「パフェが一番エラい。」第10話

本連載が書籍化しました。
斧屋『パフェが一番エラい。』2021年8月26日発売

 冬から春にかけては、旬を迎える果物が少なく、フルーツパフェの種類が限られてくる。実質、いちごの天下となる。柑橘(かんきつ)系にも頑張っていただきたいのだが、数としては圧倒的にいちごパフェが支配する世界となり、私のテンションは下がりぎみである。

 誤解してほしくないのだが、私はいちごそのものが嫌いなわけではない。ただ、いちごパフェとなると、手放しで受け入れてはいけないという警戒心がどうしても働いてしまうのだ。

 いちごはフルーツ(※注1)の中でも特別なアイドル的存在だと言えるだろう。アイドルグループなら、センターに位置する王道アイドル。もちろんイメージカラーは赤。

 いちごのかわいいイメージは多くの人に愛され、ファッションから文房具などの生活雑貨に至るまで、様々なアイテムのモチーフに取り入れられていて、単なる食べ物を超えた文化を形成しているようにも思える。いちごパフェについても、その人気はSNSなどのインターネット上で拡散されるビジュアルイメージに支えられている側面が大きいだろう。このように、複製可能なイメージがどんどん広がっていく様子もまたアイドル的である。

 つまり、いちごは良かれ悪(あ)しかれそのビジュアルイメージが先行しがちである。見た目のかわいさ(魅力)が強すぎるあまり、それ以外の食べ物としての要素(香りや味)が軽視されてしまう恐れがある。アイドル文化に詳しいライムスターの宇多丸氏(※注2)は、アイドルを「魅力が実力を凌駕(りようが)している存在」(※注3)と評したが、いちごも魅力(見た目のかわいさ)が実力(香りや味)を凌駕してしまいやすい存在と言える。

 そうすると、いちごの魅力に依存しすぎたパフェ、というものがどうしても出てきてしまう。#07で述べた「フルーツパーラー系」のように、フルーツの実力を存分に表現できているならよい。でも、いちごパフェの中には、いちごを入れさえすれば、他の構成には頓着しないというものも多いのが現実である。また、甘くないいちごを生クリームの甘さでごまかそうとしているパフェなどもしんどい。

 視覚的なイメージが強いだけに、お飾りの存在にもなりやすい。いちごパフェはそういう危うさをもっている。

 というわけで、いちごパフェについては厳しい目で臨むことが多いわけだが、そんな中でもすばらしいいちごパフェがある。秋葉原の知る人ぞ知るフルーツパーラー、フルーフ・デゥ・セゾン。ここの「イチゴパフェ」は、いちごの突き抜けた実力で押し切ってくるパフェである。

 まず、いちごがでかい。絵画の世界で、強調したいものは大きく描く、ということがあると思うが、そんな感じ。なんだか縮尺がおかしい。そして、強く甘い。そんないちごがゴロゴロと入っている。

 いちごの他に入るのは、生クリーム、バニラアイス、ヨーグルトアイス、いちごシャーベット。生クリームも甘いが、いちごの甘さはそれに負けない。というより、いちごの甘さを、他の素材が頑張って追いかけていっているように感じる。そして、いちごの風味の邪魔となるようなコーンフレークなどは入らない(※注4)。グラスの中までいちご果肉がしっかりと入ったパフェである。徹頭徹尾、いちごで貫いている。こんなすばらしいいちごパフェもある。

 そこにいてくれれば何もしないでいいよ、みたいなお飾りのいちごパフェじゃなくて、いちごがいきいきと輝いているパフェに今後もお目にかかりたい(※注5)。

 と言いつつ、最後に私の個人的な好みを言うなら、いちごより柑橘系の方が好きである。甘みだけでなく、酸味、苦みもある一筋縄ではいかない感じがいい。アイドルグループでは、センターよりも、黄色系の元気キャラのメンバーに惹(ひ)かれる。ヒーロー戦隊ものでも、真ん中の「なんとかレッド」の横にいる、ちょっとクセのあるタイプの方がいい。


※注1:いちごをフルーツ(果物)と見るか、野菜と見るかという議論がある。たとえば、樹に実がなるかどうかという基準で判断をするならば、いちごも(メロンやスイカも)野菜となる。とはいえ、実際はフルーツと見なされているのだから、ここではフルーツとして扱う。
※注2:ラッパー。ヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のメンバー。アイドルや映画に造詣が深い。
※注3:この定義は宇多丸氏が以前から何度も話されているもので、私が初めて聞いたのはTBSラジオの「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(今は終了)だったか、いまひとつ判然としない。実際には、「魅力」と「実力」の区別ははっきりとつくものではない。ここにアイドルを語る難しさがあると個人的には思う。
※注4:コーンフレーク自体は悪者じゃないけどね。
※注5:ひとつ補足をしておこう。いちご農家さんのたゆまぬ努力のもと、いちごの新しい品種も続々と登場しており、味や香りのすばらしいいちごたちが使われたパフェも次々と登場している。

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▲縮尺、間違ってませんか(でかすぎ)。フルーフ・デゥ・セゾン「イチゴパフェ」

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連載【パフェが一番エラい。】
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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。Twitter:@onoyax

※この記事の初出はHBの旧サイトです(2020年3月12日)。

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