第7話 お仕事の依頼|賽助「続 ところにより、ぼっち。」
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第7話 お仕事の依頼|賽助「続 ところにより、ぼっち。」

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大好評のHB連載「ところにより、ぼっち。」が帰ってきた!
ゲーム実況グループ「三人称」の一員としても活躍する作家・賽助が、ぼっちな日々を綴ります。 (※第1話と最新話は無料公開)
illustration 山本さほ

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 僕は現在作家として、そしてゲーム実況者として活動しておりますが、過去には和太鼓グループに所属していたり、大学では演劇学科を専攻していたり、コントユニットに参加していたりと、何だか色々なことをやっていました。
 そんな謎の経歴だからなのか、時折、普段ではあまり関わりのなさそうな業界の方からお仕事の依頼をいただくことがあります。

 例えば、とある朗読アプリが開催する朗読劇のシナリオを書いてほしいとか、あるアーティストの方と対談をして欲しいなど、内容も多種多様なのです。
 一体何故自分なのかと話を聞いてみると、過去に演劇をやっていたことが影響していたり、自分の趣味である『鉄塔好き』という部分がとある楽曲と関連があるから、などなど、なるほどと納得できることも多いです。

  そんな中、ある映像作家の方からメールにて連絡がありました。

  内容は実写ドラマに関するもので、ドラマの脚本の依頼かと思った僕は、流石さすがに畑違いなのでお断りしようと思ったのですが、驚くべきことに執筆の依頼ではなく、役者としての出演依頼でした。

  異業種のお仕事の依頼をされたときには、大体こんな感じになりそうかなというビジョンを思い浮かべて、自分の中で許容できそうならばお引き受けし、難しそうだったらお断りしているのですが、実写ドラマの役者というのはあまりに突拍子とっぴょうしもないことで、全く想像ができませんでした。

  分かっていることといえば、1話15分、計6話ほどのショートドラマであること。ネット配信か、あるいは東京のローカル局での放送になること。

  当然、依頼する側としてもメールでは依頼内容を十分に説明することもできないでしょうし、このままあれこれ想像していてもらちが明かないので、近所の喫茶店までご足労いただき、詳しい話をうかがうことにしました。

  映像作家の方は男性で、僕とほぼ同年代とのことでした。今までは任侠にんきょう映画、Vシネマに関わっていたらしいのですが、今回ひょんなことから実写ドラマの監督に抜擢ばってきされたそうです。

  僕のことは『ゲーム実況グループ 三人称の鉄塔』として、前々から配信を見てくださっていたらしく、また、過去に舞台上で表現活動をしていたことも把握されているようでした。

  そこまで理解していただいているのはありがたいのですが、しかし同時に不安もよぎります。

  ひょっとしたら、僕は過去に「自分はすごい役者だった」みたいなことを言ってしまっていないだろうか……?

  僕が表現者として舞台に立っていたのはもう10年以上昔の話ですが、舞台を離れてからは人前で演技をすることはないだろうと思っていたので、言った者勝ちとばかりに過剰に自分の能力を盛って話していた可能性は否定できません。

  実際のところは「自分は演劇に向いていないかも……」と心が折れて、その道から離れていった身です。過度な期待をされていたら、これは厄介なことになりかねません。

 「過去に舞台に立ってはいましたが、それはもう10年も前の話ですし、映像のお仕事はやったことがないので、監督のご期待に応えられるかどうか分かりません」

  僕は正直に伝えました。

  すると監督は、長らく演技に触れていないことも承知している上で、できる限りのサポートはする、この役は鉄塔さんならやれると思う、と返してきたのです。

  監督の言葉には、かなりの熱意がこもっていました。
 しかし、だからといって軽々に返事をすることはできないので、ひとまず台本を読んでから決めさせてもらうことにしました。

  喫茶店を離れ、自宅へ戻るなり台本を広げます。
 テレビドラマの台本を読むのは生まれて初めてのことでした。

 ドラマの登場人物に共通するワードは『ゲーム実況』でした。
 ゲーム実況をする人、裏で支える人、それを見て楽しむ人と、登場人物の多くがゲーム実況というジャンルの活動に触れているのです。

  そして、実際にゲーム実況をやっている僕に監督がオファーした役というのが、まさにゲーム実況を主な活動媒体にしている人物の役だったのです。

  特殊な趣味・職業を扱った物語の場合、制作スタッフがその趣味・職業に精通しているか否かで、その物語の評価が大きく変わってしまう場合があります。見識なく手を出して、やれ「ニワカ」だの「浅い」だの言われて炎上してしまうパターンもあるでしょう。

  しかし、例えばキャストの中に、実際にそれらの趣味・職業に携わっている者がいるとしたら――その作品の持つ説得力はかなり違ったものになるでしょう。

  もちろん、それだけが狙いではないと思いますが、僕をキャスティングする理由の一つにはなり得ると思います。

 (ゲーム実況もドラマの題材になるようになったんだなぁ……)

  一昔前まではまるで考えられなかったことにしみじみとしながら読み進めます。
 そして、台本を途中まで読み進めたところで、僕はある事実に気が付きました。

  監督が僕に演じてもらいたいと思っている役が、立場を利用して部下や女性に暴言を吐いてすぐに暴力を振るうパワハラ男という、ビックリするぐらい嫌なやつだったのです。

  滅茶苦茶めちゃくちゃ最悪屑人間くずにんげん――読み終えてすぐに僕が彼につけたあだ名です。
 もちろん、登場人物たちはそれぞれ駄目な部分を抱えているのですが、それにしても『嫌な奴度』では僕の役が群を抜いていました。

 (一体どうしてこの役を……)

  そう悩んだところで、喫茶店での監督の言葉が頭を過ります。

 「この役は鉄塔さんならやれると思う」

 それが一体どういう意味なのか、僕はあまり考えないようにしました。
 そして、しばらく考えた後、監督に出演を了承するむねのメールを送ります。

  かなり稀有けうな依頼であるのは間違いないので、話のネタになりそうだったこと。
 世の中に数多あまたいるゲーム実況者の中から監督がわざわざ自分に声を掛けてくれたこと。
 与えられた役がいい人でもなければ甘い言葉を言う役でもなかったこと。 
 公然と人に悪態をついてもとがめられずむしろギャラまでもらえること。

 引き受けた理由は様々ありますが、楽しそうだったというのが一番だと思います。

 しかしまさか、こんな形で役者の仕事ができるとは思ってもみませんでした。
 二十代のあの頃は、いくら舞台に立っても出費ばかりがかさんでギャラなんて一銭も貰えなかったのに、人生とは分からないものです。

 ドラマの撮影とは一体どんなものなのか、皆目かいもく見当もつきませんでしたが、どう転んでもエッセイには書き残してやろうと思うのでした。


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連載【続 ところにより、ぼっち。】
毎月第2・4火曜日更新
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賽助(さいすけ)
東京都出身、埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。また、著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』『今日もぼっちです。』がある。
Twitter:@Tettou_
●「三人称」チャンネル
ニコニコ動画 https://ch.nicovideo.jp/sanninshow
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg


山本さほ(やまもと・さほ)
1985年岩手県生まれ。漫画家。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(ウェブサイト「note」掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作(リニューアル版)は『ビッグコミックスペリオール』での連載後、単行本が2018年に全5巻で完結した。『無慈悲な8bit』『きょうも厄日です』『てつおとよしえ』を連載中。
Twitter:@sahoobb

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