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情報を食べる|斧屋「パフェが一番エラい。」第21話

「ネタバレ」という言葉がある。たとえば、まだ鑑賞していない映画や舞台の筋書きや結末をバラしてしまうことを言う。ネタバレは禁止すべき行為とされ、SNS上でも、実際の会話でも、マナー違反と捉えられることがある。
 一方、それらの物語作品にはパンフレットというものがあり、作品に補足的な情報を与えることで、観客を楽しませてもいる。
 ネット上で「ネタバレ」の感想をあえて読んでから鑑賞に臨む人もいるだろう。また、パンフレットを必ず買って目を通す人もいれば、必要がないと思う人もいるだろう。
 ここで対比したいのは、あるコンテンツを享受する際に、それを補足するような情報を必要とするかしないかである。そしてどちらの方がより楽しめるだろうか、ということを検討したい(注1)。

 パフェは、通常「ネタバレ」されているものである。なぜならば、メニュー写真を見ればパフェの大体の内容が分かってしまうからである。また、おおよその内容が分からなければ注文しづらいものでもあるため(もちろんアレルギーに対応するという側面もあり)、層構造が複雑なパフェほど、写真だけでなく構成図や説明書のようなものがつくケースが増えている。お店側としても、創意工夫を凝らして作ったパフェのこだわりを知ってほしい気持ちもあり、かといって提供時に細かい説明をすることができないという事情もあって、説明をイラストや図面で添えることが増えているのだ。
 こうした手引きがあると、パフェを食べ進める行為が一層楽しいものとなる。中身の説明がなければ、これは何の味だったのだろうと疑問のままに食べてしまうこともしばしばあるが、それぞれの素材を知りつつ食べることで、「確かに味わえる」という感覚があり、またパフェのストーリーをしっかりと読み込める。そして、パフェの構成が把握できていることで、先の味を想像しながら食べ進めることもできる。想像通りであれば「うーんやっぱりおいしい」となり、予想外であれば「へー!」となる。その答え合わせの作業もまた楽しいものである。パフェを食べることに慣れてきたら、パフェの構成図をもとに、自分はこういう順番で、ここで混ぜて食べる、というような方針を立てる助けにもなる。

 目白にある「カフェ クーポラ・メジロ」の「ももと紅茶のパフェ」(注2)を例にとって考えよう(構成の詳細は下の写真を参照してほしい)。

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 パフェの3層構造でいうと、表層は桃と桃のジェラート。このパフェの主役をはっきりしっかりと見せつける。中層に香りの要素があるから、そこと混ざらないようにまずは桃だけを楽しもうではないか、という構えで表層の桃を味わう。
 そして中層。紅茶と桃の組み合わせはよく見るが、ヘーゼルナッツやカモミールを桃に合わせてくるとは、かなり積極的、攻撃的な香りづかいではないか、と思いながら、うむうむと食べ進める。
 深層はいちじくを使うのか、これは風味のアクセントとして面白いが、酸味が足りないのでベリーを加えているのですね。ヘーゼルナッツの食感も快い。底には桃のコンポート、しっかり主役で終えるのはセオリー通り。

 桃から始まり、中層にも桃、最後も桃、という主軸を明確にした一方で、中層・深層ではヘーゼルナッツやアールグレイを反復させながら香りや食感を演出していく、「パティスリー系」パフェである。構成で言えば「A—B—B’」型だな、などと思いつつ、食べ終えるのである(感想戦)。
 このように、情報をもとにパフェを食べていく行為はとても楽しいものである。映画のパンフレットを見ながら上映開始を待つような気持ちの高ぶり、そしてストーリーに没入する快感を味わうことができるだろう。

 しかし、ここで問わなければならないこともある。自分が食べているのは、情報なのか、パフェなのか? 情報ばかりを求めすぎると、味わうという知覚的営為がおろそかになる危険はないか? 提示されたストーリーに合わせて、自らの体験を構築していないか? たとえばパフェの構成図が明らかに間違っていた時に、私は気づくことができるだろうか。それとも鵜呑(うの)みにして、なるほどなるほどと食べてしまうだろうか。
 我々は、情報もパフェも、「両方」を食べている。あるいは、情報も含めて「パフェ」なのだが、情報ばかりを食べ過ぎることには注意を払わなければならない。
 では、情報を遮断する方向のパフェ体験の可能性はあるのだろうか。次回はそこへ迫っていきたい。


※注1:本文では筋書きがもともと決まっているコンテンツの事例をあげたが、もっとひろく捉えるならば、スポーツや将棋・囲碁の中継で解説を必要とするかしないかという立場の違いについて論じることもできるだろう。解説者が競技(ゲーム)のルールの説明をしたり、今何が起こっているのか、どのような技術が用いられているのかといった専門的な内容を、素人である視聴者にも分かりやすく伝えてくれるが、それがうるさいとか、冗長に感じられる人もいるだろう。
※注2:「カフェ クーポラ・メジロ」は夏に「ももパフェ」を3つのバージョンで提供予定。「ももと紅茶のパフェ」は第2弾で、8月30日まで提供予定。

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▲カフェ クーポラ・メジロ「ももと紅茶のパフェ」
生でよし、煮てよし。

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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter:@onoyax
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コメント (1)
記事よませてもらいました
僕も記事を書いたので読んで見てください
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