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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第20話「ねこはクリームの入った瓶(かめ)の中/The cat is in the cream pot 」

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【ぼく】3月18日

 その時、ぼくはたいこと近所の公園にいた。たいこお気に入りのイルカの遊具をタンデム乗りして楽しんでいたら、いきなり地面が波打ちはじめたのが見えた。はじめは、目の錯覚かと思ったけれど、その後あきらかに地面がぐにゃりとなったので恐ろしくなり、あわててたいこを抱きかかえた。すると、向かいのアパートから裸のおじさんが「地震だ!!」って叫びながら出てくるのが見えて、これは、地震だったんだって理解した。

 外にいると、地震って案外わからないものだね。でも、おじさんの一声で我に返り、こかりとホワンのことが心配になった。あわてて家に向かって走り始めたら大きなバッグを抱えたこかりがちょうどこっちに向かってくるのが見えた。お互い同時に「無事でよかったよ!」って言いながらぎゅっとハグし合った。すると、バッグに入れて連れてこられたらしいホワンが「みゃーっ!」と抗議の声をあげたので、こんな時なのに笑ってしまった。でも、ふだん、ほとんど顔色を変えないこかりが青い顔をしているので、よほど深刻なことが起きたのだとわかり怖くなった。

 余震が断続的に続いていたのでぼくらは家には戻らず、近所を散歩することにした。停電が起きているらしく、交差点の信号が死に、何台かの車が立ち往生していた。コンビニではみんな切迫した表情でものをたくさん買いこんでいた。レジも停電で使い物にならないらしく、店員のお姉さんは電卓を使って一生懸命客をさばいていた。近所のおばさまがたもみんな外に出ていたけれど、いつもとさほど変わらない感じで楽しそうに井戸端会議をしていた。思い返すと、まだあの時はここまでの大惨事だってことがわかってなかったから、みんなそこまで深刻じゃなかったよね。

 日が暮れる頃には余震もだいぶ収まっていたし、たいこもぐずり始めたので帰宅した。恐る恐る入った家の中は結構カオスになっていた。本棚は倒れ、沢山の本が床に散らばり、割れたお皿やコップの上には、こかりが煮込んでいたカレーが鍋ごとぶちまけられていた。おまけに、あとで食べようと楽しみにしていた誕生日ケーキの残りも床でひっくり返ってぐちゃぐちゃになっていた。そういえば誕生日、地震の前日だったっけ、なんかもうはるか昔のことみたい。でも、これからは歳を重ねる度に今のことを思い出すんだろうな。でも、部屋の中の惨状を見ると、こかりとホワンが無傷だったのは奇跡的かもしれない。無事で本当によかった。

 そういえば、地震が起きてからのこの1週間、なんとなく9.11テロのことを思い出していた。まだアメリカで大学院生をやっていた頃だ。たしか徹夜で課題を終えて、やっと寝ようと思った矢先にタイラーからの電話で知ったんだっけ。「テレビ見ろ、世界が終わりそうだぞ!!」って叫んでいたタイラーの声が今も耳にこびりついてる。でも、世界が終わりそうって意味では今回の方がもっとリアルかもしれない。これからどうなっちゃうんだろね。


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【ミー】March 18th

  だれかがミーのハウスを思いっきりシェイクした。フロアがウエーブして、いろんなものがフォールしてきた。ミーはライトニングのようにうごいてエスケープできたけれど、ノロマなタイラーだったらデッドだ。

 ハウスをシェイクさせたサスペクトはジシンって名前らしい。コカリが言っていた。ミーのハウスはスモールでボロいけれど、それでもあんなにシェイクできるジシンは、ビッグでパワフルなモンスターなのだろう。もしかしたら、キチジョウジのジョーみたいなモンスターかもしれない。スケアリー。でも、ミーはタイラーとはちがってストロング、ジシンのやつを見かけたら、アームをロックしてからミーのデッドリーキックですぐにノックアウトだ。またはネイルでスクラッチしてサヨナラ。

 ジシンがイタズラしたのはミーのハウスだけではなかったみたい。テレビの中の小さなハウスも、カーも、タウンもジシンによってデストロイされたって言っていた。おまけに、ジシンはツナミってやつも連れてきていっしょにあばれているらしい。ひどいやつらだ、ミーはきょうもアングリー。

 タイラーもコカリも、ずっとテレビを見ている。見ながらクライしたり、アングリーになったり、いきなりハグしてきたりしてちょっとアノーイング。ふたりがテレビをウォッチしているときは、近づかないようにしている。

 そういえば、ニューポートビーチでも同じようなことがあった。ワンタイム、タイラーもずっとテレビを見てクライしたり、アングリーになったり、いきなりハグしてきたりしたことがあった。セイムだ。あの時は、テレビの中で小さなふたつのビルディングにメタルバードがクラッシュして、タイラーがセルフォーンで、「世界が終わるぞ!!」ってイエルしててうるさかった。

 それにしても、なんでニンゲンは、テレビの中の小さなワールドのことがそんなに気になるのか? ミーは、リアルなジシンのほうがスケアード。タイラーはウィークすぎるから、ジシンがまたアタックしてきたら、ミーがファイトしなくてはならない。いつか、ジシンのフェイスをネイルでめちゃくちゃにスクラッチするために、ウォールでシャープニングしておくぞ。



ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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The cat is in the cream pot
(ねこはクリームの入った瓶の中)

「The cat is in the cream pot」は、何かわからないけれど、悲しいことが起きたんじゃないか? って時に使うフレーズなんだって。瓶に落ちたねこを想像すると少しおかしいけれど、笑い事じゃないよね。そういえば、夏目漱石の『吾輩わがはいは猫である』の吾輩も最後は酔っ払って大きな瓶に落ちて死んでしまったものね。ホワンちゃんも、瓶には気をつけるんだよ。


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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2020年4月21日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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