見出し画像

桃パフェの熱狂|斧屋「パフェが一番エラい。」第18話

 パフェのフルーツと言えばいちごをイメージされることが多いかもしれないが、いちごパフェ以上に熱狂的な人気を誇るのが桃のパフェである。いちごの出回る時期が12月~5月くらいまでと長く続くのに対し、桃は6月後半~8月くらいであっという間に過ぎ去る。その分、瞬間最大風速がすさまじいのである。例年、桃パフェのための大行列や、予約殺到という話題に事欠かない。
 まずは桃パフェの特長を確認しておこう。桃は柔らかくジューシーな果物であり、パフェに適したフルーツである。白桃と黄桃を使って2色の桃パフェにしてみたり、硬い果肉と柔らかい果肉を使い分けたりと、工夫の余地もいろいろある。同じく夏の定番フルーツであるマンゴーやメロンほどは風味に癖もないので、桃が苦手な人は少ない印象もある。
 フレッシュで使う「フルーツパーラー系」のほか、コンポートにしてもおいしいため、「パティスリー系」のパフェでもよく登場する。イギリス発祥のデザート「ピーチメルバ」も日本ではパフェの一形態のようになって、パフェグラスで提供されたり、パフェの名称の一部に「ピーチメルバ」が取り込まれたりすることがある。

 とはいえ、桃パフェはフレッシュの桃を使用することが多い。中でも、パフェブームとともにここ数年異様な盛り上がりを見せているのが「桃まるごと系」パフェである。桃の果肉をグラスの上にでんと載せたインパクト満点のパフェだ。皮を剥むいた丸ごとの桃を拝めるパフェが全国各地に登場し、インスタグラムでもよく見かける。
「桃まるごと系」と書いたが、他の「まるごと系」パフェは少なく、洋梨がたまに見られるくらいである。小さいいちごやぶどうはわざわざ「まるごと」とは言わないし、柑橘かんきつ系はまるごとは使用しづらく、メロンは大きすぎる。桃と同じような大きさと言えばりんごだが、りんごの固さはパフェに適さない。桃パフェがそもそも人気がある上に、桃が最も「まるごと系」パフェにしやすいということで、爆発的に流行はやっているのである。

 なぜか知らないが、「桃まるごと系」は愛知県でよく見かける。パフェで有名な名古屋のカフェ・ド・リオンのパフェは、背の高いグラスにボールがはまったように桃がまるまると飾られている。桃果肉の他にも白桃入りソフト、白桃ジュレが入った白桃づくしのパフェで、パイの長い棒が刺さっているのが特徴的だ。特撰とくせんバニラアイスやシフォンもよい脇役となって桃を引き立てる。桃は何と言っても口に入れると「じゅんわー」と広がる果汁である。じゅーしーである。「桃」というより「もも」である。いや、「もも」というより「もっも」である。食べちゃいたいくらいかわいいペットのように(※注1)、親愛の情を込めて、「もっも」と呼びたくなる。
 カットした桃を飾り付けているパフェはまだ食べやすい方で、お店によっては桃を半分に切って種の部分にクリームなどを入れてから元のように「接着」してグラスの上に載せているパフェもある。正直、とても食べにくい。グラスの上にまるまると居座った桃を、結局グラスから降ろして食べるしかないのである。ここでは、食べやすさより、桃パフェとしてのビジュアルの都合を優先させている。
「どうせ降ろすのに、なぜわざわざ載せるのか」と問うことは重要である。端的な答えは、「その方が見た目が面白いから」である。しかしあえて高尚に、「『どうせ』に抗あらがうことこそが文化だからだ」と嘯うそぶいてもいいだろうか。どうせ脱ぐ服を人は着るし、どうせ下りる山を人は登るし、どうせ死ぬ人生を人は生きるのである。
 どうせ腹の中で一緒くたになるパフェの層構造の一つ一つに、私はきゃいきゃい言っているのだ。

 よかろう。パフェの都合に、人は合わせようではないか。
 かわいいし、おいしいから、許す。

※注1:たとえば、ネットスラングで「犬」を「イッヌ」と呼ぶ現象がある。

画像1

▲カフェ・ド・リオン「特撰白桃づくしパフェ」(2018年撮影)
桃パフェは、桃が一番エラい。

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ

毎月第2・4木曜日更新
更新情報はTwitterでお知らせしています。

斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter @onoyax
ありがとうございます!
19
HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

こちらでもピックアップされています

連載 斧屋 パフェが一番エラい。
連載 斧屋 パフェが一番エラい。
  • 25本

「パフェは究極のエンターテインメント」という話題のパフェ評論家、初の連載コラム! パフェ初心者から上級者まで、魅惑のパフェ界にどうぞどっぷりおハマりください。 メインビジュアル用パフェ提供:フルーツパーラーゴトー

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。