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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第23話「ねこのように着地する/Land like a cat 」

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【ぼく】9月22日

 急遽また引っ越しをすることになった。野川の部屋の契約更新が迫っていて、最初は更新するつもりだったんだけれど、こかりが急に、心機一転住まいを変えてみようか! って提案してきたのだ。元々こかりは手相や、占い、風水が好きで、本などもよく読んでいたんだけれど、3.11や、ぼくの体調不良や、仕事が芳しくなかったりするのは、悪い気に好かれてしまっているせいじゃないかと思ったらしい。まあ、こういうこかりの話には慣れっこなので特になんとも思わなかったけれど、たしかに行き詰まり感はあったので、引っ越しに賛成した。

 で、こんな話をした次の日、こかりが早くも新しい物件を見つけてきた。しかも、今まで一度も行ったこともなく、知人友達もいない、なんのゆかりもない町田市にある物件。なんでもネットで見つけてピンと来たので、たいこを連れて朝一番で見に行ったらしい。すごい行動力。もちろん風水的にもバッチリとのことだ。「いい部屋よ、新築なの! 私たちのための部屋って感じ。他にも狙っている人がいるらしいから今、契約しちゃっていいよね?」

 新しい住処は小田急線沿線の鶴川にあった。丘を少し登った先にあって、それなりに見晴らしも良く気持ちがいい。すぐ近くには森に囲まれた公園もあって、早速たいこがどんぐり探しに夢中になってた。タウンハウスと呼ばれる物件で、一軒家を左右に真っ二つに分けたような構造だった。お隣さんも引っ越してきたばかりで、感じの良い若い夫婦だったのでほっとした。さらには、洗濯物を干したりできるちょっとした庭まであったし、2階建てということで家の中に階段があることがたいこには新鮮みたい。ホワンをお供に(まだ、ひとりで2階に行くのは怖いんだって)、きゃっきゃと笑いながらスキあらば上り下りを繰り返している。

 ホワンも、2階の窓、1階の窓と違う風景が見えるのが楽しいのか、大人しくたいこについて回っている。ねこは人よりも場所に懐くっていうから、ホワンには何度もの引っ越しに付き合わせてしまって申し訳ないけれど、今のところ特に変わった様子もないので、ストレスを感じていなかったらいいな。


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【ミー】October 21st

 ミーはアイロンガケがスキだ。いや、アイロンダイがスキだ。コカリがアイロンガケをする時、ミーはクローゼットにハイドしながらウォッチする。コカリに見つかると「ホワンちゃん、毛が落ちたら困るからあっち行ってて」と、追い出されるからだ。

 クローゼットから出るタイミングはディフィカルトだ。コカリがアイロンガケを終わってすぐ出るのがベストだけれど、早く出すぎると見つかってしまう。でも、ウエイトしすぎてもゲームオーバーなのだ。

 コカリがアイロンガケしたシャツをバスケットに入れた。もう少しだ。ホワンホワン、ウエイト。ウエイト。でも、ミーのヒップがかってにシェイクしはじめる。ライト、レフト、ライト、レフト。やめたいのに、ヒップはドント・ストップ。コカリに見つからないことをプレイする。バステトさま、オネガイシマス。そういえば昔、ミーはラットをつかまえるエキスパートだった。どんなラットもミーがつかまえてヒーローだった。そういえば、あのころもラットを見るとヒップがかってにシェイクした。ライフが変わってもミーはミー。これからもずっとセイムだろう。

 気がついたらコカリがいなくなっていた。しまった! ミーはストームのようにクローゼットから飛び出し、アイロンダイにジャンプした。やった、まだウォームだ! ミーはボディーを思いっきりストレッチして、アイロンダイをハグ。ヘヴンリー! ここは、ねこのヘヴン、なんてあたたかいんだ。ミーはもう一生アイロンダイからおりたくない。どんなストレスもバニッシュする。ヒッコシもストレスフルだったけれど、アイロンダイがあればOK。

 そういえば、ニューポートビーチのタイラーもいつも今のミーと同じポーズでサーフボードにのっていた。もしかしたら、サーフボードとは、アイロンダイのことだったのか? こんなに気持ちがいいことをミーに教えてくれなかったなんて、あいつもコールドなやつだ。タイラーという名前のやつはみんなコールドなのか。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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Land like a cat
(ねこのように着地する)

「Land like a cat」は、うまくいくっていう意味。ねこは高いところからジャンプしてもうまく着地するってことからできた言葉らしいよ。ホワンちゃんもまだ小さいころは2階から落ちても、空中でんぐり返しで体勢を整えて見事に両足で着地してたよね。あの時のホワンちゃんはすごかったなあ、今のちょっとたるみ気味のホワンちゃんじゃあもう無理そうだけれど……。


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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2020年6月2日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

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