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「パフェ」と名乗るとパフェになる|斧屋「パフェが一番エラい。」第25話

「パフェとサンデーってどう違うんですか」という質問に、残念ながら面白い回答はない。フランス語の「parfait」に由来するパフェと(注1)、アメリカ発祥のサンデー。形状も中身も似ていて、どちらを名乗っても大きな問題はない。というか、名付ける側も明確に区別していない。だから、私は「サンデー」を食べても、パフェとしてカウントしている。

 首都圏のパフェ好きにはよく知られていることだが、ファミリーレストランチェーン「デニーズ」は大きい方を「ザ・サンデー」、小さい方を「ミニパルフェ」と名付け、「ジョナサン」では大きい方を「パフェ」、中くらいのを「サンデー」、小さいのを「ミニパルフェ」と名付けている。これは困る。なにげに、「パフェ」と「パルフェ」の表記の揺らぎも発生していて悩ましい。
 せっかくなので今回は「デニーズ」のパフェ(ザ・サンデー)を紹介しておこう。ここ数年、首都圏のファミレスのパフェに対する力の入れっぷりは目を見張るものがある。「シャインマスカットのザ・サンデー」は、バニラアイス、白ぶどうソルベ、マスカットクリーム、マスカルポーネクリーム、ナタデココ、白ぶどうゼリーときて、そこでホワイトチョコの円い蓋がされ、下に空間ができている。これは最近パフェ専門店でよく見られるギミックではないか! 深層もシャインマスカット、バニラアイス、白ぶどうゼリーの反復で、最後までぶどうを堪能できる構成。数百店舗を展開するファミレスでこれを実現させる「デニーズ」、おそるべし。

 ネーミングの話に戻ろう。パフェがブームになるにつれ、「パフェ」と名乗るデザート・スイーツが増えている。これはパフェ文化を考える際に重要なことで、パフェそのものが増えていることと、「パフェ」の名乗りが増えていることの意味は区別しなければならない(あるいは、その区別ができるかどうかを常に問わなくてはならない)。
 名前(名詞)のことを考える時、「何かある共通の属性を持つものに対して名前が与えられる」、と通常は考えられる。私たちがある対象について「りんご」という名詞を使えるのは、それが皆が認識するであろうりんごの属性を持っているからである。
 しかし、これとは逆に、「何かを名乗ることによってそれであることを成立させる」、という類の文化事象がある(注2)。「パフェ」もまさにそれである。
 パフェが流行ると、「パフェ」の名乗りも増える。いままでであればもしかしたら「サンデー」、「ヴェリーヌ」、「あんみつ」、「ゼリー」と名乗っていたようなデザートが「パフェ」を名乗ったり、あるいはメニュー名としては「パフェ」を名乗らなくても、メニュー説明の中で「パフェ」という言葉を用いる事例が増えている。もちろん何でも「パフェ」を名乗れるわけではない。「パフェと言われればパフェかもしれないもの」が軒並み「パフェ」を名乗り始めるということだ(注3)。

 もっと刺激的な試みとしては、パフェという言葉が指す領域に意図的な揺らぎを与え、拡張するような動きがある。「ぱふぇどら」、「飲むパフェ」、「しょっパフェ」、「肉パフェ」、「パフェみたいな海鮮丼」、「~のパフェ仕立て」(注4)と、枚挙に暇(いとま)がない。「パフェ」のネームバリューで目を引き付けて、「でもこれってパフェなの?」と人の心をもやつかせたら勝ちである。気になったら、人は食べたくなるものだから。

 このように、パフェの「名乗り」は一種のゲームとなりつつある。パフェの名乗りは飽和状態に近づいており、多少なりともパフェ的な属性があれば何でもパフェと名乗る傾向にある。一方、パフェに見えるデザートでも、むしろ「パフェ」を名乗らないことにより他の「パフェ」との差別化を図る、という逆張りのようなことさえ起き始めている。要は、パフェと名付けることで付加価値がつくかどうか。そういうある種の「駆け引き」の中で、パフェのもつイメージが刻々と変化していっているのである。ゆえに、10年後、20年後、パフェのイメージがどうなっているのか、想像もつかない。現代人がイメージするパフェグラスは全くなくなっているかもしれないし、今でいうところのパフェが、何か別の言葉に取って代わられている可能性だってあるのだ。


※注1:パフェをフランス発祥と言いづらいのは、フランスでは平皿で提供される「パルフェ」はあったが、現在の一般的なパフェの形状ではなかったと考えられるためである。
※注2:典型例が「アイドル」である。「アイドル」がブームになると、それまでは「歌手」や「ダンス&ボーカルグループ」などと名乗っていたはずの存在が「アイドル」を名乗るようになるという現象が起こる。
※注3:補足しておけば、「パフェ」という言葉によって想定される属性はあるが(縦長のデザートとか、いろいろ入っているとか、見た目が華やかとか)、平皿で提供されるパフェもあるし、#12で述べた「器の拡張」で見られるような独創的なフォルムのパフェも続々登場していて、何が「パフェ」であるかが極めてあいまいであるため、「パフェ」を名乗ることによってパフェになるということが可能となってしまう。「アイドル」も同様だが、定義が明確でない文化事象に顕著に見られる現象である。
※注4:「ぱふぇどら」は京都嵐山の「まるにあん」で販売しているパフェとどら焼きの合体したスイーツ。「飲むパフェ」は全体または一部が液体のパフェ、「しょっパフェ」はお酒のつまみにもなるような塩辛いパフェ、「肉パフェ」は焼き肉屋で花のようにグラスに盛り付けたもの、「パフェみたいな海鮮丼」は「米と魚 酒造 米家ル(まいける)」高田馬場店等で販売されたものである。「~のパフェ仕立て」は、パフェのようなビジュアルに仕上げたが、「パフェ」と言い切りたくない場合に用いられている言い回しだ。

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▲デニーズ「シャインマスカットのザ・サンデー」「シャインマスカットのミニパルフェ」
「ザ・パフェ」はいつ登場するのかな……?

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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter:@onoyax
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