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グラスと対話せよ|斧屋「パフェが一番エラい。」第11話

「パフェの絵を描いてください」と言われたら、誰もが、「パフェグラス」の絵を描き始めるだろう。
「いやいや! 私はあなたにパフェの絵を描いてくださいとお願いしたのです。パフェグラスを描かずに、パフェだけを描いてくれませんか」と言われたらどうしよう。
 まるで禅問答である。

 パフェ哲学者になるためには、この問いと向き合わなくてはならない。

 パフェは食べものに対しての呼称でありながら、どうやらその容(い)れ物を強く求めてしまうという類のものらしい。その「容れ物」とは、あの、縦長の、逆円錐(ぎやくえんすい)型の、パフェグラスである。
 ワインをワイングラスに注ぐことはできるが、パフェをパフェグラスに入れることはできない。パフェグラスに入ることによって初めてそれはパフェになるのだ。パフェグラスから独立したパフェがもともと存在するわけではない。これはパフェを語るにあたり、とてもとても大事なことなのだ。

 さて、パフェグラスがなぜ縦長の(上下に延びた)形状をしているのかといえば、#06の「パフェのA-B―A構造」で述べたように、層構造がパフェの本質に関わるからだ。美しい層構造を成すようなパフェグラスがよりパフェらしいと感じられる。
 最近は平皿に盛られたものに「パフェ」とか「パルフェ」という名前が与えられる事例も珍しくはなくなってきたが、(これがパフェ……)という心理的な抵抗を私もいまだに完全には消し去ることができない。層を成し、掘り進めるほどに次々と異なる景色が現れる。そこにパフェのロマンがある。

 パフェを食べることが習慣化してきた人は、ぜひパフェグラスの形状に注目してほしい。一口にパフェグラスと言っても多種多様である。昔ながらの厚手のガラスでできたパフェグラス、そして最近よく使われるワイングラス、背の高いのから低いのまで、いろいろ。
 なぜグラスがこの形をしているのか。それはこのパフェにとってどういう意味を持っているのか。創(つく)り手はどういう意図でこのグラスを選択したんだろうか。あるいは、お店にあったグラスをたまたま使ったんだろうか。それで、ちゃんとパフェのポテンシャルを引き出せているだろうか。
 極論すれば、パフェグラスの選択一つでパフェはよくも悪くもなる。中身がどんなによくても、パフェグラスのせいで台無し、というケースはよくある。

 簡単に言えば、パフェグラスは背の高さと口がどのくらい開いているかがポイントである。食べ始めるまで、パフェグラスの違いは見た目の違いだが、食べ始めれば、それは食べ方の違いとなる。
 口が狭いグラスの場合、上下の層構造は保持されやすく、自然に食べれば層の順番通りに食べられる(だから創り手も構造によるメッセージを込めやすい)。一方、口が広いグラスの場合、パフェの中身は混ざりやすくなり、また食べ進め方の自由度も増す(※注1)。

 たとえば、パティスリー&カフェ デリーモ日比谷店のパフェ「サクラブロッサム」を見てみよう。デリーモのパフェグラスは口が狭く、背が高い。これによって、細かい層構造が可能となり、その物語の順番通りに味わう食べ方が導かれる。
 表層には桜の塩漬け、桜アイス、桜メレンゲ、グラス内に入ると桜とイチゴクリーム、ピスタチオアイス、そして桜チェリージュレ、チェリーコンポート、グリオットと桜ソースというように、めくるめく桜づくしの展開。それぞれの層の構成物の量は多くないため、次々と景色が移り変わるスピーディーな展開を楽しむことができるのだ。映画ならば、立て続けに事件が起こるサスペンス映画調とでも言っておこうか。

 パフェビギナーは、パフェの食べ方に迷うことが多い。デリーモのような細く長い形状のパフェを食べるときは、素直に順番通り楽しむ食べ方をするといいだろう。慣れてきたら、構造を横から確かめつつ、掘って下の層を食べてからまた上へ戻るといった、RPG的な楽しみ方をしてもよい(#06参照)。
 いずれにしても、パフェグラスによって食べ方が緩やかに決まる。パフェを食べるときには、グラスと対話せよ。


※注1:#06で書いたように、層を順番通りに食べるかどうかの決定権は食べ手にある。だから、グラス形状による食べ方への影響は限定的で緩やかなものである。

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▲グラスに相談。(この食べ方で、いいよね?)パティスリー&カフェ デリーモ日比谷店の「サクラブロッサム」

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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter @onoyax

※この記事は、2020年3月26日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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