見出し画像

北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第28話「ねことねずみ/Cat and mouse」

この連載を初めから読む

画像4

【ぼく】1月25日

 大変なことになった。ホワンが入院したのだ。どうしてこんなことになっちゃったんだろう、とりあえず気持ちを整理するために順を追って書いておく。

 ことの発端は、たいこが商店街の福引きでディズニーホテルの宿泊券を当てたこと。たいこはくじ運がよく、今までも東北への旅行券から、サーティワンのアイスクリーム型ぬいぐるみまで、大小様々なものを当ててきた。

 個展が来月に迫りてんてこ舞いではあったけれど、以前タイラーにもらったミニーマウスを振り回しながら喜ぶたいこを見たら、とても無理とは言えなかった。たいこは、ミニーマウスを「ネズミニーちゃん」って呼んでずっとかわいがっていたせいか、ディズニーランドのことも「ネズミーランド」って呼ぶのがおかしかった。

 ねこは一泊くらい大丈夫だろうって甘えてしまったのがそもそも間違いだった。今まではどんなに遅くなったとしても夜には帰っていたからね。それに、思えばホワンも色々とサインを送ってきていたんだ。最近、やたらと口が開き気味だったこともそうだし、あまり食欲が無かったこともそう。やたらと喉が渇くのか、お皿の水だけじゃいつも足りず、誰かがトイレから出るのを見計らってトイレの手洗い管からごくごく水を飲んでいたっけ。

 そういえば、旅行前日のホワンも色々と変だった。準備していたダッフルバッグの中にしつこく何度も入り込んだり、そのホワンを優しく出そうとしたたいこの手をひっかいたり。今まで、たいこに手を出すことは一度もなかったので、たいこは呆然(ぼうぜん)とした顔で泣きじゃくっていた。今思えば、その行動もすべてぼくらが出かけようとしているのをなんとか阻止しようと、SOSを送っていたのかも。

 久しぶりのお出かけは楽しかった。ずっとお金も時間もなくてどこにも行けなかったから尚更(なおさら)。たいこは初の夢の国で、まさに夢のような時間を過ごし、ご満悦だった。ホワンにひっかかれたことはころっと忘れ、お店に入る度にホワンのお土産を探したけれど何もなく、結局帰りに寄ったコンビニでホワンお気に入りの猫用缶詰を買ってあげていた。

 帰ってきて、ホワンの様子がおかしいことはすぐにわかった。いつもは玄関で出迎えてくれて、留守番させたことに対してみゃあみゃあと怒るのに、たいこが「ホワンちゃんただいま~」と繰り返しても、まったく姿を見せなかった。もしかして窓でも開いていて逃げてしまったのかと、みんなであわてて家中を探し回ったら、開けっ放しにして行ったクローゼットの奥でホワンが丸まっているのを発見した。「ホワンちゃんどうしたの!」とこかりが駆け寄ると、まるでホワンだけ空気が薄いところにいるかのように、口を大きく開けて、苦しそうにあえいでいた。

 ぼくらはあわててホワンを車に乗せ、いつもの動物病院へ連れて行った。往診時間が過ぎていたにもかかわらず、昔と同じ先生が診(み)てくれた。結果、はっきりしたことは言えないけれど、糖尿病かもしれないということだった。


画像2

【ミー】January 24th

 タイコーたちが行ったネズミーランドってどんなところだろう? ネズミはラットのことだ。ラットのランド。ミーにとってはドリーム。ミーはネズミをキャッチするのはトクイ。いっしょにつれていってくれれば、だれよりもたくさんのネズミをキャッチしてあげられるのに。なぜミーだけオルスバンなのだ? ネズミをヨコドリされるのがいやなのか?

 ミーもネズミランドに行きたくて、タイラーのバッグにこっそりハイドした。でも、すぐにタイコーに見つかって、引きずり出された。そして、アクシデント! ミーをビリーブしてほしいのだけれど、ミーがタイコーをアタックしたことは一度もない。タイコーはベイビーのときから知っている。ミーのリトルシスターだ。ねこはリトルシスターにアタックしない。ねこがアタックするのはビッグブラザーだけだ、ミーにとってはスマだけ。なのに、タイコーがミーをバッグから出そうとしたとき、なぜかミーのパウからはネイルが出てて、タイコーをスクラッチしてしまった。タイコーはサプライズドな顔でミーを見てクライしていたけれど、ミーのフィーリングも同じだった。まただ。ミーのボディーはまた、アンコントローラブル。ミーは、パニック、タイコーといっしょにクライしたいくらいだ。

 ネズミーランドには行けなかった。ミーのネイルのせいで、オルスバンだ。しかたがないので、オルスバンの間にタイラーが困るようなイタズラをしようと思ったのに、何かがオカシイ。ボディーがうまく動かない。なんだかボディーがシェイクする。ミーは、水をドリンクした。たくさんドリンクした。リーセントリー、ミーはウォーターじゃなくて水って言う。水の方がかんたんだからだ。イングリッシュもいいけれど、ニホンゴの方がイージーな時もある。ミーはスマートなバイリンガルねこだから。

 外がダークになってきた。そろそろみんなが帰ってくるだろうから、クローゼットでカクレンボしてよう。タイラーがクローゼットをのぞいたら、またキックしてやるんだ。楽しみ楽しみ。タイコーは、たくさんネズミをキャプチャーできたかなあ? もちろんミーほどじょうずじゃないと思うけれど。


【ねこようせいによる「ねことわざ」解説】

画像3

Cat and mouse
(ねことねずみ)

「Cat and mouse」は、追いつ追われつって意味だよ。トムとジェリーを思い浮かべるとわかりやすいかもしれないね。ホワンちゃんもねずみを捕るのが得意って豪語しているけれど本当かな。だってね、ここだけの話だけれど、昔、家の中でGが出てみんなが大騒ぎした時、Gはホワンちゃんの目の前を横切ったのに、急にわざとらしいあくびをして、気が付かないフリをしたんだよ。たぶん、ねずみが出たら、またあくびしちゃうんじゃないかなあ……ふふふ。


画像4

前の話 連載TOPへ 次の話

毎月第1・3火曜日更新
更新情報はTwitterでお知らせしています。

北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter @nevermindpcp



うれしいです!
1
HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

こちらでもピックアップされています

連載 北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記
連載 北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記
  • 31本

ホワンホワン、きみはいったい何者なの――? 売れないイラストレーターのぼくは、ある日1匹の子猫を保護する。ふしぎな行動ばかりするその猫には、じつは秘密があって……。大人気イラストレーターが贈る、実話をもとにした絵日記ストーリー。