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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第9話「ねこがしゃべりだすほどの/Enough to make a cat speak」

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【ぼく】11月11日

 夏からかかりっきりだった香水の仕事が無事終わった、と思う。なぜ歯切れが悪いかというと、ホワンもぼくも大好きな秋刀魚が美味しいこの季節になっても、まだ成果物が届いていないからだ。

 今回、はじめてフランスの会社と仕事をしたけれど、カルチャーの違いに驚くことばかりだった。彼らはあらゆる面で適当だったし、何かというとすぐ休んだ。ぼくが血のにじむ思いで締切を守っても「バケーション中です、復帰次第お返事します」という自動返信メールが毎回毎回返ってくるので唖然とした。その後もぼくが何度も催促しない限り返信は皆無で、返信があっても「クール!」とか、「いいね!」など一言メールのみだった。

 それでも、参考資料が必要だと伝えれば無言メールに添付される形で結構早く送ってくるし、驚いたことにギャランティーは仕事開始前に全額振り込まれていたので、不思議な形ではあったけれど信頼は感じられた。だって、日本のお仕事は、大抵の場合、納品後2ヶ月は待たないと振り込んでもらえないし。そんなわけで、一応納品はしたけれどまだ色々不安なのだ、とりあえず早く成果物を見て安心したい。

 まあ、それでも一応大仕事が片付いたということで、ご褒美として中古のXbox 360を買った。大学時代の友人からスカイプ飲みをしながらゲームをしようという魅力的な提案を受けたからだ。売れないイラストレーターとしては、大好きなゲームをプレイする度に「もっとやるべきことがあるよね?」という心の声が聞こえ罪悪感を感じていたのだけれど、今なら少しはいいよね。

 スカイプ飲み会は、日曜日の昼間に決行した。カリフォルニアとの時差を考慮してお互い週末であることと、大きな声じゃあ言えないけれど、この日はこかりが友達とランチに出掛けると言っていたので……。

 あの頃と同じく、お互いギネスを用意して「kampai!」を交わし、心ゆくまでゲームとビールを楽しんだ。やっぱり昔の友達はいいな。当時、やつが住んでいたニューポートビーチにあるバーのハッピーアワーに入り浸っていたことを思い出した。なぜか地元、オレンジカウンティのお気楽スカ・パンクバンドが世界的に流行っていた頃で、SublimeやOffspring、大学の先輩Gwen Stephaniのバンド、No Doubtの曲がいつも掛かってた。いつかまた、魚の形の看板があるあのお店に飲みにいきたいな。

 そういえば、スカイプ飲み会の間中、なぜかずっとモニターを凝視していたホワンがいきなり大きな声で「ニャイニャー!」と鳴いたのにはおどろいた。


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【ミー】December 11th

 トゥデイ、ミーはとてもハードなせきぞうになった。

 ねこはあまりおどろかないと思われているけれど、じつはクワイエットリーおどろくこともある。コカリのように、「えーーー!」とラウドなこえもださないし、タイラーのようにわざとらしくチェアからころげおちたりもしないが、ねこはおどろいたとき、フリーズする。ライク、せきぞう。ライク、スタチューオブリバティ。ライク、チュウケンハチコウ。

 タイラーがおえかきをしているのはプレイではなくワークのためだということをコカリがおしえてくれた。いつも遊んでばかりのやつだと、インマイハートでバカにしていたので、あやまろうかと思いちかづいたら、やつはひるまからアルコールをエンジョイしていた。ミーはアルコールがきらいだ。スメルもいやだし、アルコールをのんでハイになるやつもディスライクだ。やつらはドランクになるときまってミーのフェイスをやつらのフェイスにこすりつけようとする。ニホンゴで「ホオズリ」と言うらしい、リアルにきもちわるいのでクイットしてほしい。

 ホオズリされるまえにタイラーからはなれようとしたら、どこからか「hey! what’s up!」「dude!」や、「cool!」など、なつかしいイングリッシュワードが聞こえてきたので、あわててふりむいた。すると、イングリッシュトークをしていたのはなんと、タイラーだった。なぜタイラーがイングリッシュではなしているのか? ニホンジンなのに? それに、だれとトークしているのか? ドキドキしながらタイラーがトークしているあいてをスクリーンごしにウォッチすると、そこにうつっていたのはニューポートビーチでミーとくらしていた、もうひとりのタイラーだった。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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Enough to make a cat speak
(ねこもしゃべりだすほどの)

猫もしゃべりだすほど素晴らしいものやことを表すフレーズなんだって。とくに、おいしいお酒を褒めるときとかに使うみたい。ホワンちゃんはお酒がきらいだって言っているから、絶対にしゃべらないだろうけれどね。そういえば、『吾輩は猫である』の吾輩も最期はお酒におぼれてしまうし、猫とお酒ってあまりいい組み合わせじゃあないのかもしれないね。


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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2019年11月5日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

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