見出し画像

北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第29話「魚を獲るためにねこは足をぬらさない/The cat would eat fish, but would not wet her feet」

この連載を初めから読む

画像4

【ぼく】2月16日

 ホワンが入院してから3週間経った。入院がこんなに長くなると思わなかったけれど、動物病院も万全を期してくれているのだと思う。昨日の話だと、おそらく来週には帰れるってことだし、面会でのホワンもいつものひょうひょうとした表情が戻って、段々と元気になってきているようにも見えるのであと少しの辛抱だ。それにホワン、もうちゃんと口も閉じていたので少し安心。

 昨日、個展が無事に終わった。結果は、大成功と言っていいかも。想像していたよりも遥かに沢山の人が見に来てくれた。しかも、知り合いばかりじゃなくて純粋なお客さんや、ファン(!)なんて嬉しいことを言ってくれた人まで。SNSなどを見てわざわざ足を運んでくれたらしい。自分はずっとメインストリームからは外れたところで活動していたので、だれかが知っていてくれたということに本当に励まされた。本当に救われた、本当に嬉しい。

 カラーインクを使った新しいタッチの評判も上々だった。今までよりも柔らかな絵になったからか、意外にも「かわいい」なんて感想をもらったりして気恥ずかしくなったり。だって、今までの感想って、「暗いけれどまあいいね」「変だけれどまあいいね」「暗くて変だからちょっと苦手……」のほぼ三択だったし。

 個展の設営は、幼馴染のノビが仕事を休んで手伝ってくれた。仲良くしてくれている編集者の古森さんは、オープニングトークの司会を務めてくれた上に、絵も買ってくれた。オサダさんもイフジ君も以前のパーティーで知り合った矢野さんも春さんも、みんな駆けつけてくれた。山東さんも来てくれて、一枚一枚、長い時間をかけてじっくり眺めてくれた後「すごく良いです、今度このタッチでも何か一緒にやりましょう」って言ってくれたので嬉しかった。

 なんだか、個展ってぼくのためだけに開いてもらった特別な同窓会みたい。準備するのは正直大変だったけれど、ここまでのご褒美は逆に釣り合わないくらい。これだけの人たちに、こんなに良くしてもらったら、もう弱音なんて吐けないよね。続けられるところまで本気で続けないと。

 とりあえず、もうすぐホワンちゃんが帰ってくる! お祝いの準備をしないと。もう缶詰のごちそうとかはあげられないけれど、しつこいくらいみんなでハグして、川の字になって一緒に眠ろう。なんだか最近、雪がふりそうなくらい寒いからホワンも嫌がらないはず。来週が待ち遠しいよ。


画像2

【ミー】February 16th

 オルスバンしていたはずなのに、なんで今度はミーだけがオデカケしてる? ここはどこだっけ? 思い出せない。なんでミーはこんなところにいるのだ? なんだ、この小さなケージは。それに、ここにいるのはミーだけじゃない。さっきは犬がバークしていたし、ねこの声も聞こえた。まさかここは、ドウブツエン?

 それに、なんだかスリーピー。とってもスリーピー。もしかして、これはドリーム? ミーは本当はオデカケしていなくて、タイコーやコカリ、タイラーとマイホームでいっしょにスリープしているのか? それなら早くウェイクアップしてみんなと遊びたい。モーニングはまだか? サンはどこだ?

 ネムイネムイ。ミーはどこにいるのか? まだドリームの中? ミーはニホンにいるけれど、ニューポートビーチにも行ける。どっちのタイラーにも会いに行ける。スマハウスにだって行ける。好きな時に、スマにねこパンチしにだって行けるんだ。食べたいものがあれば、なんだって食べられる。ミーはドリームの中で、フィッシュタコスを100万回食べたけれど、まだ食べられる。サシミだって、アジノヒラキだって、なんだって食べられる。

 とおくでだれかのヴォイスが聞こえる。知らないだれかのヴォイス。「ホワンちゃんは順調ですよ、薬の副作用で今は眠っていますけど、はい、来週には帰れるかと。はい、はい、またご連絡しますね」

 スリーピー、スリーピー、ネムイ、ネムイ。それにここはコールド。あれ? なんでミーはフトンの中にいないんだ? フトンの中はウォームなはずなのに。そうか、ミーはまだオデカケしているのか。みんな、オルスバンしてさみしいだろうから、そろそろ帰ってあげようかな。そして、みんなといっしょにスリープしてあげるんだ。だって、その方がウォームだから。タイラーはいつもコールドだし、ムカツクことばかりだけれど、いっしょにスリープする時はウォームだから、アタタカイから、OK。

 あーあ、早く帰りたい、早くみんなでフトンに入りたい。


【ねこようせいによる「ねことわざ」解説】

画像3

The cat would eat fish, but would not wet her feet
(魚を獲るためにねこは足をぬらさない)

「The cat would eat fish, but would not wet her feet」は、イヤイヤばかり言っていると、何も成し遂げられないよって意味なんだって。とりあえずなんでも試してみると道は開けるのかもしれないね。

画像4

前の話 連載TOPへ 次の話

毎月第1・3火曜日更新
更新情報はTwitterでお知らせしています。

北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイト:www.hypehopewonderland.com
Twitter:@nevermindpcp
うれしいです!
7
HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

こちらでもピックアップされています

連載 北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記
連載 北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記
  • 31本

ホワンホワン、きみはいったい何者なの――? 売れないイラストレーターのぼくは、ある日1匹の子猫を保護する。ふしぎな行動ばかりするその猫には、じつは秘密があって……。大人気イラストレーターが贈る、実話をもとにした絵日記ストーリー。