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料理|渡辺優 パラレル・ユニバース 第11話

 料理を作るのが嫌いです。
 一番嫌いな点は、一生懸命作っても食べたらなくなるところです。

 おまえだってどうせ死ぬくせに生きてんじゃん? と言われたら、そうです……としか返せないんですけど、料理ってできてからなくなるまでのスパンがすごく短いじゃないですか。できたてが美味しいので仕方ないんですけど、悲しいです。

 料理の腕は優れてもいなければ激しく劣ってもいません。チャレンジ精神がないので、普通に焼いたり煮たりして、普通に焼けたり煮えたりしているものができあがります。味付けも無難なものが好きなので無難な味になります。食べると、美味(おい)しいな、と思います。

 ただ私は今ひとり暮らしなので別に料理をしても誰かを喜ばせられることもなく、一生懸命つくった品をひとりで食べて目の前からなくなるのを見る、という一連の流れです。

 そして私は誰かに料理を振る舞うのも嫌いです。
 私の作った料理って私しか美味しくないんじゃないかと思っているので。

 まず人様に食べさせるものをつくる、というのが相当なプレッシャーです。ひとの口に入るものを、つくる? わたしが? という。そんな責任負いたくないです。そんな、調理師免許もないのに。医師免許もないのに人様を手術できないのと同じ気持ちです。

 それでも生きていればひとに料理を作らねばならないタイミングもあって、まあ料理はできあがります。
 それを食べたひとは大抵「おいしい」と言ってくれます。まったく信用できません。だって普通のひとって、普通にひとの心をもっているひとって、料理を振る舞われたらおいしくなくても「おいしい」って言うじゃないですか。食べたやつもこっちが素人だとわかっているわけでそんなおいしい料理を期待してるはずもなく、まあ食えないこともない程度の味なら「おいしい」って言います。私なら言います。だから私は私の料理を食べておいしいおいしい言っているひとを見ても「嘘なんだろうな」と思ってしまうので嫌です。
 じゃあ正直に「いまいち」とか「微妙」とか言われるのがいいのかというと、ひとに料理を作ってもらっておいてそんなこというやつも嫌です。

 ひとの「おいしい」が信じられないのは、自分の味覚が信じられないせいでもあります。味覚ってひとそれぞれだし味って数値化できないし、なにを根拠に信じていいのかわかりません。料理人ってすごいなと思います。よく優れた料理人を評して「繊細な舌を持つ」とか言いますけど、食卓に着いたひとみんなが美味しいと思える料理を作るには、その他にも「ごく平均的な味的感覚」が求められるよなと思います。

 先日、打ち合わせですごく尖(とが)ったお店に連れていっていただきました。サイエンスとアートと料理の融合、みたいなコンセプトのお店だったと思います。
 まず前菜に箱が出てきて、箱を開けると敷きつめられた花の上に野菜のかけらが載っていました。どんな気持ちになっていいのかわからなかったです。
 お花も食べられるのかな? と思ったのですがそこは鑑賞用とのことでした。野菜のかけらは、なんらかの科学技術を使って(説明していただいたのに失念してしまいました)野菜の水分を極限まで抜いたもの、とのこと。なんでそんなことしたの? と思いつつ食べてみると、すごく美味しかったです。極限まで水分を抜いた野菜は美味しいのです。これは確かに花の上に載せたり箱に入れたりしたくなるかもな、と思いました。

 他にも液体窒素で凍らせたなにかのなにかとか、なにかをなにかの技術でジュレにしたなにかとか、とにかく手間をかけた料理が続きました。
 サイエンスと料理の融合、だけではなくアートまでコンセプトに加えたのはそのためではないかと思いました。つまり、やっぱり手間ひまかけた料理って、すぐなくなるのって悲しいから、アートとも融合させて演出をして見せたくなったのかな、と。

 携帯カメラの普及に伴い料理の写真を撮るひとが増えましたけど、今までそんなお手軽に撮れないから悲しみをこらえてすぐ食べていたけど、ほんとうは人間ってずっと料理を撮りたかったし撮ってもらいたかったのかなと思いました。SNS等でひとに見せたがるのも同じく。
 そのお店では当たり前にみな料理の写真を撮っていて、これ一切写真も撮らずにリアクションもせずにむしゃむしゃ食べ始めたら店員さんもびっくりするんじゃないかな、と思いました。

 自分でもつくった料理の写真を撮るようにしたら料理に対してモチベーションがあがるかもしれません。自宅で野菜の水分を極限まで抜くのは無理だとしても、花を添えることくらいはできそうですし。
 でも撮った写真を見てくれるひとがいないし、無理やり見せて「おいしそう」という言葉を誘いだせても「嘘なんだろうな」と思ってしまう気もします。

 完成された料理だけ食べて生きていきたいです。

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渡辺優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。宮城学院女子大学卒業。2015年『ラメルノエリキサ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』『地下にうごめく星』などがある。
Twitter@watanabe_yu_wat
イラスト/内山ユニコ(うちやま・ゆにこ)
北海道北見市出身、東京都在住。20代の終わりより作品制作を始める。花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』のイラストなどが話題に。
オフィシャルサイト:http://www.vesicapisis.com
Twitter@YUNICO_UCHIYAMA

※この記事は、2020年1月16日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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