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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 エピローグ〈最終回〉「ねこのように ゆっくり やすみたい/Wanna rest like a cat」

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ホワンホワンへ、

 こんな風に手紙を書くのは初めてだから少し照れくさいよ。どうせなら生きているうちに書いたり読んだりしてあげたかったけれど、多分そんなことをしても、まったく興味のない顔で毛づくろいでもしていただろうから、まあいっか。

 ほら、ぼくらがつけていた交換日記。数ヶ月前にとある決心をしてからは毎日のように読み返している。決心。何のことかと言うと、ホワンの絵を描くことの決心だよ。今、また興味のない顔したでしょ? 詳しく言うと、今度表参道でまた個展を開くことになったんだけれど、そのための連作として。

 漠然とだけれど、いつかはホワンとの生活を絵にしたいなあと思っていたんだ。色んなことがあったからね。でも、思い出すとやっぱり悲しくなっちゃうし、しんどいし……それにさ、個展用の絵として描くということは、ある意味ホワンとの思い出を切り売りするってことで……罪悪感も葛藤もあるんだ。いや、本当だよ。こかりに相談したら「ホワンちゃん寂しがりやだったから、どんな形であっても憶えていてもらえるほうがうれしいんじゃないかな~」って、言ってくれたけれど正直まだ迷っているよ。どう、許してくれる?

 でも、どうせ描くならおぼろげにしか思い出せなくなる前に描きたいと思って。まあ、ホワンもぼくの下手な絵のイメージで今後語られるかもしれないのは不服だと思うけれど、もし個展がうまくいったら、いつもより高い缶詰をお供えするから許してよね。まあ、すでに次の人生で缶詰なんかよりもたらふく美味しいものを食べているかもね。

 そういえば話は変わるけれど、最近、たいことこかりがそれぞれ別の場所で、ホワンそっくりのねこと遭遇したって言うんだ。心当たりある?  リアルホワン? たいこはこの春から小学校に上がって毎日重そうなランドセルを背負って(ホワンがいたら、無理やり中に入り込んで、毛だらけにしていそう)登校しているんだけれど、その途中で塀の上を歩いているホワンを見かけたって。こかりはこかりで、通勤途中の川べりでいつものように鴨の親子を眺めていたら、川の反対側を悠々と横切るホワンを見たって。もしかしてもう生まれ変わった?

 ねこは9つの命を持つっていうあれ、けっこう信じているんだけれど。もし本当にこの近所をうろうろしているのなら、水臭いじゃん、うちに戻ってくれればいいのに。ぼくだって会いたいぞ。もしかしてもうぼくらのこともうちの場所も憶えていないとか。まあ、それでもホワンがまた元気に暮らしているんだったら言うことないんだけれどね。

 ねこが9つも命を持っているっていうのなら、全部合わせたらぼくら人間なんかよりも長生きだってことだから、焦らなくてもまた会えるチャンスはいくらでもあるよね。あわよくば、またうちの裏庭にぽーんって落ちてきてもらって、前みたいに「みぃみぃ」鳴いてくれれば、すぐに迎えに行くから。

4月16日 たいらより


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【ねこようせいによる「ねことわざ」解説】

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Wanna rest like a cat
(ねこのように ゆっくり やすみたい)

「Wanna rest like a cat」は、たいら君の個展のタイトルなんだって。ねことわざじゃないってことはぼくの専門外だからなんとも言えないけれど、たいら君がホワンちゃんの生活を羨ましがっているってことなのかな? ぼくから見たら、のんきそうに見えるホワンの人生だって色々大変なことがあったし、逆にたいら君の人生だってかなりのんきそうにも見えるけれど。隣の芝生は青く見えるってやつかな、これもねことわざじゃないけれど。みんなのんきで、みんな大変。のんきな時間を一緒に楽しみつつ、お互いの大変なところを助け合っていけるのが理想の関係性だよね。たいら君とホワンちゃんはそれができていたかな。できていたらいいね。

あと、一応断っておくと、ねこようせいの人生もそれなりに大変。毎晩、新しいねことわざの勉強もあるしね。みんな、そこのところわかってくれているかなあ~。


「ぼくとねこのすれ違い交換日記」了
ご愛読ありがとうございました。

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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイト www.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

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