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パフェのルーティン|斧屋「パフェが一番エラい。」第19話

 毎日のようにパフェを食べていると、パフェ体験をより深めるためのルーティンが定まってくる。スポーツ選手のメンタルコントロールの文脈でよく登場するルーティンだが、パフェと対峙するにあたっても、心を落ち着けて、より楽しめる精神状態を保つために役に立つ。ここでは、パフェの注文から食べ終わりまで(注1)の一連の流れをご紹介しよう。

セットリストを組む
 メニューを選ぶ。最近はパフェを提供するお店も増えたため、今食べるべきパフェをよくよく調べてから行くことが多く、何を食べるかはたいてい決まっているのだが、その場でメニューを眺めて決めることもある。「レギュラーメニュー後回しの法則」というのがあって、ついつい期間限定のパフェばかりを頼んでしまい、通年で提供しているパフェを一度も食べていない、ということが起こる。気をつけよう。
 店員さんにオススメを聞くのもよいが、自分がこれと思うものを頼むのがよい。ひとつに絞れない場合は、ふたつ食べればよいのだ。この場合、パフェの順番を決める必要がある。その作業を「セットリストを組む」という(注2)。パフェの順番は重要である。風味が濃いパフェは後にするなどして、全体としておいしく食べられる流れを作るのだ。たとえば、濃厚なチョコレートパフェは後に食べた方がよいし、同じフルーツでも、桃とマンゴーだったら風味の繊細な桃を先に食べた方がよいだろう。

パフェを待つ
 この時間も重要である。もし食事をした後にパフェを頼んでいるなら、机の上をお手拭きや紙ナプキンを使ってきれいにしておこう。また、できるだけ机の上に物を置かず、パフェが提供されたときにパフェだけが目に入るようにしておきたい。パフェを食べる集中力を高めるためである。

パフェの登場
 パフェが来る。店員さんがパフェの構成や食べ方を説明してくれることがあるから、しっかり聞こう(注3)。写真は手早く撮る。斜め上から、真横から、真上から。

嗅覚でスタート
 さあ、ここからは浅草のフルーツパーラーゴトー、「宮崎産の完熟マンゴー『太陽のタマゴ』のパフェ」(注4)を例にとって、パフェの食べ方を見ていこう。まずは、念入りに匂いを嗅ぐ。『太陽のタマゴ』の熱を帯びた匂い(香りではなく、匂いである)。パフェは嗅覚でスタートだ。
 マンゴーが花びら状にグラスの上にのっている。その1片にフォークを刺す。もしパフェにスプーンとフォークが供された場合、表層部分(グラスの上の部分)はフォークの方が食べやすい。マンゴーぺらりの中央部分にフォークを刺し、両端をそれぞれかじり、最後に中央部分を口に入れる。つまり1片を3回に分けて食べる。一度口に入れるごとに、目をつぶろう。鼻から抜ける濃密なマンゴーをあますところなく感じる。宮崎のマンゴーは外国産に比べて滑らかさが違う。口の中で溶かしながら、その糖度の高さに驚くがいい。この工程を、マンゴーの花びら12片に対して行う。できるだけゆっくりとだ。時々、マンゴーアイスや、中層のバニラアイスも口へと運びながら。

混ぜるか混ぜないか
 パフェは混ぜて食べるのか、混ぜないで食べるのかと聞かれることがある。基本的には混ぜ過ぎないように食べたい。お店によっては「混ぜ合わせてお召し上がりください」と説明されるパフェもある。そういう場合でなければ、層の順番に従って、でもだんだん混ざっていくパフェを楽しむ。
 バニラアイスが溶け、グラス底のマンゴー果肉が混濁する。甘み同士のまみれ合いもまたよいものだ。グラス底に果肉がある喜びをかみしめながら。もう終わってしまう名残惜しさも愛(め)でながら。

水が飲めないというルーティン
 パフェを食べ終わった後で、好きなルーティンがある。「水を飲もうとするが、飲めない」という一連の所作である。
 水を飲もうとするその手を、私は止める。止まる。まだ、口の中にパフェの余韻が残っているから。まだ飲めない、飲むべきじゃない。そうやって、コップを持った手が止まってしまう。その瞬間の自分がいとおしい。ルーティンなのに、自分でコントロールできていない感じ、いなくなってなお、絶大な力を持つパフェに翻弄される感じがたまらない。
 こうして私は、映画になぜエンドロールがあるのかを知る。余韻はゆっくりと過ぎ去っていくべきものだからだ。

感想戦
 食後の数分は、パフェの展開を心の中で思い返し、どういうところが魅力的だったか、自分の食べ進め方に誤りがなかったかを反省する。これを将棋になぞらえて「感想戦」と言っている(注5)。理想を言えば、5分間くらい目をつぶって考えたい。もう目の前から消えてしまったパフェと対話をするのだ、よりよきパフェ体験のために。


※注1:お店に入ってどの席に座れるか、ということも実は重要である。写真の撮りやすい席、パフェを作っているところを見られる席など、お店によって「ここ」という場所がそれぞれあるはずだ。
※注2:1日に何店舗もまわる場合に、お店の順番をどうするかということにも「セットリスト」という言葉を使う。いずれにしても、1日に複数パフェを食べ始めたら、「沼」にしっかり足を突っ込んでいると言えるだろう。自分がアイドルオタクだったころ、アイドルのライブの昼・夜2回公演を両方観るのは当たり前だった。「沼」とはそういうものであろう。
※注3:店員さんの説明をメモを取って聞くということは、何か取材っぽさが出てしまってあまりしたくない。また、しばしば作り手の視点から、構成の説明はグラスの底から上へ(つまり食べる順番と逆に)なされることもあり、覚えづらい。悩む。自分の願いがひとつ叶うなら、このパフェの説明を完璧に記憶できる能力がほしい。
※注4:『太陽のタマゴ』は、糖度15度以上、1玉約350g以上などの基準を満たした宮崎産マンゴーの高級ブランド。
※注5:「感想戦」は将棋(囲碁、チェスなど)の対局後、対局者同士が対局内容を振り返ることである。その主眼は、対局を見ていた他の人に対する解説の意味もあるし、よりよい将棋は何なのかを追究することにもある。

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▲フルーツパーラーゴトー「宮崎産の完熟マンゴー『太陽のタマゴ』のパフェ」(今シーズンは終了)
むわっと匂う。

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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter:@onoyax
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