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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第25話「ねこは9つの命を持つ/A cat has nine lives」

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【ぼく】2月22日

 ふっきれたよ、もう決めた。イラストレーターはもうおしまい、絵もおしまい。元々、絵が大好きで大好きでイラストレーターになったわけじゃない。ただなんとなく、運や周りのみんなが助けてくれたおかげで続けてこられただけで、もう限界なんだ。家族を養うために続けていたのに、家賃の支払いすらギリギリになった今、もうこの職業に未練はない。まあ、直接のきっかけは、悪名高きこかりのインチキ手相だけれど、遅かれ早かれこうなっていたんじゃないかな。

 絵をやめると決めたからには、善は急げで、次。イラストを取ったらぼくに残るのは英語くらいなので、英訳でも通訳でも何か英語を使った仕事を探そうと思う。もしうまくいって、好きな海外バンドの通訳とかできたら最高だなあ。それで、タダでフジロックとかサマソニに行けたりとか、好きなバンドのサウンドチェックとかも見られたりするかも……夢が広がる!

 こかり曰いわく、日本は資格社会だから、英語ができます! って自己申告するだけじゃあ厳しいらしいので、とりあえず英検1級とTOEICを取ることにした。イラストレーターなんて、自己申告のみの世界で、名乗れば誰だってなれる職業だったから、正反対だ。

 どうせ受けるなら、満点でも取ってセールスポイントにしたいと思い、参考書を買い込んで猛勉強をはじめた。日本に帰ってきてからこの10年近く、あまり英語を使う機会はなかったけれど、あまり錆びついていないようで、ほっとした。たぶん、英語の曲や英語圏のネットラジオをずっと聴いていたおかげだ。ありがとう、of Montreal! ありがとうKCRW!

 とはいえ、こういうテストってふだんの生活では絶対に使わないような陰湿で難解な単語がゴロゴロ出てくるので、なめてかかったらコテンパンにされそう。久々にフラッシュカードも作ったし、呪いの手紙を書くかのように同じ文章でノートを何ページも埋めたりして、けっこう必死にやってる。英検には英語でのスピーチもあるので練習していたら、ホワンが不思議そうな顔で見てた。この歳になってまたこんなに勉強することになるとは思わなかったけれど、新しいことを吸収するのは楽しいし、なんだか清々しい気分になる。新しい人生の扉を開くためにやれることは全部やっとこ。ホワンにもひもじい思いをさせないようにがんばるぞ。なんか今日はねこの日らしいので、あとでごちそうでも買ってきてやるか。


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【ミー】Feb. 28

 タイラーがイングリッシュで話している。ノー、だれかとカンバセーションをしているわけじゃない。アローンで話している。スケアリー。前にタイラーが「おばあちゃんがとうとうボケてきたのか、最近いつもひとりでぶつぶつ言ってるんだって」なんてコカリに話していたけれど、タイラーだってセイムじゃないか。ニンゲンはオールドになるとひとりでトークするってことは、タイラーもオールドなんだろう。

 ミーはどうなのだろう。タイラーとコカリといっしょにいてあげるようになってからもう、ロング、ロングタイム。ミーもちょっとオールドなのかもしれない。そういえば、ニューポートビーチのときも、その前も、ミーのライフはベイビーからはじまって、気がついたらオールドねこになっていた。スローでスメリーでいつもスリーピーなオールドねこ。

 でも、ライフはストレンジ。いつのまにか、またフレッシュなベイビーねこになって、タイラーたちとミートした。ということは、ミーがもっとオールドになったら、いつかまたまたベイビーにもどり、ニューライフがはじまるのか? ムズカシイプロブレムだ。こういうこと考えると、ミーのブレインはエクスプロードしそうになるのでもうやめる。

 タイコーがスリープするとき、コカリはとなりでエホンをよむ。ミーもエホンがすきだ。いろんなストーリーを聞くのはエンターテイニング。あまり近づきすぎるとタイコーに「ホワンちゃんといっしょにねる!」とキャプチャーされるので、いつでもエスケープできるように、ベッドルームのエントランスにすわって聞く。

   コカリはときどき、ねこのエホンも読んでくれる。ブーツをはいたストレンジねこのストーリーはファニーだった。ニホンゴを知っているねこのストーリーの時には「ミーだって!」ってイエルしたら、「もうホワンちゃん、シーッ。タイコが起きちゃうでしょ」って言ってしかられた。

 ライフをヒャクマンカイもリブしたねこのストーリーもあった。ヒャクマンカイってどれくらいか知らないけれど、コカリは、メニー、メニーって言っていた。そんなにたくさんライフをリピートするのはメンドウクサイ。だけど、あと何回かは、タイコーとコカリのそばでリピートしてもいい。それで、もっとたくさんエホンを読んでもらう。タイラーはいてもいなくても、どっちでもOK。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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A cat has nine lives
(ねこは9つの命を持つ)

A cat has nine livesは、しぶといものを表す時に使う言葉なんだって。ねこは用心深く、なかなか死ななそうってことで生まれた表現らしいよ。ホワンちゃんもすでに複数の人生を経験してきているみたいだけれど、9つなんてケチくさいことは言わず、これからも何度も何度も、猫生を楽しんでほしいな。さすがに百万回も続くと、「メンドウクサイ」って言いそうだけれど。

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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter @nevermindpcp
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