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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第19話「クリームをくすねたねこのように/Like the cat that stole the cream」

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【ぼく】2月2日

 大学時代の親友がアメリカから遊びに来た。タイラーはサッカー好きなので、もともと日韓ワールドカップの時に来日したがっていたのだけれど、チケットが取れなくて断念。今回、長年勤めていたデザイン会社を辞めて、フリーに転身したタイミングで、ベイビータイコーに会いたいって言って来てくれた。うれしいなあ。

 僕らは成田空港で再会を喜びあった。3人で迎えに行ったのだ。こかりもタイラーとは何度も会っているので一緒に喜んでいたけれど、たいこは190センチ近くある長身のタイラーを見て号泣。でも、タイラーには姪っ子がいるからか、子供との遊び方がうまい。数時間後にはたいこもうれしそうに抱っこしてもらっていた。

 うちに戻ったら、ホワンが玄関で待っていた。タイラーが入ってくるのを見て、たいことおなじように固まった。でも、ホワンの方がなんかドラマチックで、口を半分開けて、じいっとタイラーを凝視したと思ったら、今度はいきなり立ち上がり、すごい勢いでどこかへ去っていった。変なやつだなあ、どうしたんだろ、普段だれが来てもそんなに激しいリアクションは見せたことないのに。タイラーはホワンに嫌われたと思い、しょんぼりした顔で「シツボウシタ」を連発した。お、なつかしい! タイラーは大学で初級日本語のクラスを取っていたんだけれど、なぜかこの「失望した」っていうフレーズを気に入って昔から使っていた。まさか、今でも覚えていたとは。

 そういえばタイラーも学生時代、ホワンに似たハチワレねこを飼っていた。あのねこ、まだ元気? って聞いたら、数年前に寿命で亡くなったので、海に散骨したって。サーフボードで沖まで出て、骨を撒いたんだって。海で散骨ってあまり聞いたことなかったので、なんでって聞いたら「だってほら、うちの目の前がビーチだから、海に撒けばいつも近くにいてくれると思って。それに、あいつフィッシュタコスが好きだったから、海にいれば魚、食べ放題じゃん?」

 タイラーが一週間ほど日本に滞在している間に、浅草や、東京タワーなどの定番観光地にも連れて行ったし、渋谷や秋葉原で買い物も楽しんだけれど、やつが何よりも喜んだのは……路上飲酒らしい。まあ、アメリカは意外にも飲酒に対しての取締りは日本より格段に厳しいから、バーでは絶対にIDチェックされるし、ビーチや公園も含め、たしかに路上飲酒は全面禁止だったっけ。ぼくも日本に帰ってきたばかりのころは、お花見で飲めることに感動したりしたけれど、だからといって、交番の前でビールを片手に記念写真を撮った時は気が引けたよ。まあ、何にせよ日本滞在を楽しんでくれたのならよかった。次は、ぼくらがニューポートビーチに遊びに行けるといいなあ。


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【ミー】February 3rd

 ミーはクレイジーになったのか? それとも、さいきんニューポートビーチのことをよく思い出していたから、ファントムを見たのか。アイドントノウ。

 でも、あれは、タイラーだった。

 いや、うちのダムなやつのことじゃない。いや、あいつもタイラーだけれど、あいつじゃないタイラーだ。ニューポートビーチのタイラーだ。つまり、タイラーが、タイラーといたんだ。ダブルビジョン、ダブルタイラー、バック・トゥ・ザ・フューチャー。ミーはなにを言っているのだ?

 タイラーは、ミーのメモリーのタイラーとは、ヘアスタイルもディッファレントだったし、少しファットになっていたし、少しオールドになっていた。でも、スメルがセイムだった。ミーはびっくりしてすぐにエスケープしてしまったけれど、もっと近くでチェックするべきだった。そうしていれば、こんなにコンフューズしなくてもよかったのに。

 もしかしたら、これはドリームなのか? でも、ヒゲをひっぱったらアウチだった。リアルなペインだ。つまり、タイラーは本当に来たんだ。ミーのことを覚えていてくれただろうか? ミーがフィッシュタコスが好きなことも? ミーが、けっこうニューポートビーチのライフを気に入っていたことも?

 そんなわけないか。でも、OK。ミーは、今のライフもきらいじゃない。タイラーはダムだし、コカリは、ブラパをくれないし、タイコーはクライベイビーだけれど、ミーはサティスファイしてる。カルムダウン。リラックス。ミーはOKだ。ミーはOKだ。ぜんぶOK。そうだ、コカリが好きなヨガをしよう。ねこのポーズだ。そのままでいいんだ。ねこのポーズ、キャットのポーズ、ミーはOK、ミーはOK。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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Like the cat that stole the cream
(クリームをくすねたねこのように)

Like the cat that stole the creamは、満足した様子を表す言葉らしいよ。でも、ねこってそんなにクリーム好きかなあ? ホワンちゃんは間違いなく、クリームよりも魚だろうけれどね。または、ブラパ。なんであんなに好きなんだろうね。


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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2020年4月7日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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