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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第13話「ねこの昼寝/Catnap」

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【ぼく】12月18日

 あまり大きな声では言えないけれど、パートタイム独身貴族、バンザイ。胎教に悪そうだからと遠慮していたArctic Monkeysの新譜を爆音で聞き、徹夜でドラクエⅨをクリアした。独身時代のように特大鍋でカレーを作り、三日三晩食べた。カレーライス、カレートースト、カレーうどん、そしてまたカレーライス。栄養バランス崩壊で口内炎も痛いし、徹夜で眠いけれど悔いはない。

 ここ一週間ほど、ホワンとふたりで生活している。こかりが入院したからだ。別に深刻なことが起きたわけではなく、出産予定日を過ぎても、まだ生まれる兆候が見えないので念のためということらしい。

 どこでもすぐに友達を作るこかりは、同じ病室の妊婦仲間二人と瞬間的に意気投合した。家事からもダンナからも解放された三人は、毎日心ゆくまでおしゃべりを楽しみ、ダンナの悪口を言いあい(おそらく)、日課のスクワットや階段の上り下りを、励ましあいながら頑張っていた。当初、ぼくは毎日お見舞いに行く予定だったのだけれど、三人の仲が強固になるにつれ、こかりから「べつに毎日来なくても大丈夫だよ〜」と言われるようになったので、取引をした。いつでも駆けつけられるよう携帯を手離さないことと、アルコールをひかえることを約束に、このぐうたら大学生のような生活を送ることになったのだ。

 色々と心配はしつつも、ぼくがこの生活をこっそり満喫しているのとは裏腹に、こかりがいなくなってからのホワンは元気がない。こかりが入院した日以来、なんだか忠犬ハチ公のように毎日、じっと玄関前で座っている。もしかしてこかりの帰りを待っているのかね? ねこが情に厚かったなんて、ちょっと意外、ちょっと感動。

 夜、ホワンがぼくのふとんに潜り込んできて、丸まった。こんなことは、はじめてだ。無言のごはんタイムや、夜の静寂にぼくもそれなりの寂しさを感じ始めていたところだったので、なんだか嬉しかった。ホワンも寂しいんだね、わかるよ、わかるよ。もぞもぞするとホワンが逃げてしまいそうなので、息を潜めながらホワンのあごをなでた。ゴロゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすホワン、通じ合っている。これからの生活、様々な変化があるだろうけれど、心さえ通じあっていれば心配ない。って書いていたら、今、携帯が鳴った。もしかして……。


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【ミー】December 17th

 ノガワハウスはウィンドトンネルだ。すきまからウィンドがブロウして、どこにいてもフリージング。キチジョウジハウスの方がベターだった。そのせいか、最近どうも体がヘヴィー。あまり動きたくない。おまけに、コカリがまた消えた。ビッグなベリーと消えた。コカリはベリーをユタンポとよんでいた。「ホワンちゃんおいで、ユタンポちゃんあたたかいよ~」。たしかに、コカリのベリーは、ソフトでウォームでパーフェクトなピローだった、ミーはこれからどこでスリープすればいいのか。ミーは、ノガワハウスで少しでもウォームなところを探すことを最近のミッションにした。

 デイタイム、ミーはエントランスの前ですわる。ドアについているウィンドウからの光がウォームだから。ミーがそこで温まっているのを見ると、なぜかタイラーはいつもサプライズ顔。変なやつ。

 ナイトタイムは、他のウォームスポットを探す。まず見つけたのがレイゾウコの下。ここからは、いつもウォームエアが出ている。でも、ヴォーーーというノイズがディスライクなのと、タイラーのやつがしょっちゅうドアをオープンしてはコールドエアーをブロウしてくるので、ミーはアングリー。次を探した。

 タイラーが入った後のシャワールームもグッド。中に入るとウエットになるので、シャワールームの前で丸くなる。クラウディーなウォームエアにサラウンドされるのは気持ちがいい。でも、タイラーは一日一回しかシャワーを浴びないし、ウォームエアもすぐに消えてしまう。なぜタイラーは一日中シャワーを浴びないのか。

 他にもトライした。しかし、ウォームなTVのスクリーンにくっつけば、「ホワン、見えない」と言われ、タイラーが温めているビッグなナベに近づけば、「ホワン危ない」と言われる。ミーはフュリアス!

 ナイトタイム。タイラーのベッドに入ってくっついた。しかたがないのだ。このハウスはウィンドトンネル、どこにいてもコールド、コールド、コールド。体は重い、早くスリープしたい。タイラーは、ユタンポほどウォームじゃあないが、ひとりよりベター。コカリはいつ帰ってくるのだ、ユタンポといっしょに早くカム・ホーム。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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Catnap
(ねこの昼寝)

Catnapとは、うたた寝のこと。今回はことわざではなくて単語だね。ねこは短い睡眠をよく取ることからこういう単語が生まれたんだって。でもたいらくんは、ホワンちゃんはいつもぐっすり眠ってるし、いびきまでかくことがあるって言ってたよ。さらには、寝言でワンワンワンって鳴いたこともあるんだって。もしかしたらスマちゃんに変身した夢を見ていたのかも……。


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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2020年01月07日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

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