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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第30話「飼いねこのように/Just like the fambly cat」

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【ぼく】2月24日

 ホワンの葬式は近所のペット霊園で行った。粉雪がぱらぱらと舞っている、ちょっとお葬式にはお誂(あつら)え向きすぎの天気で嫌だった。ホワンは小さい木の棺に安置され、お坊さんがお経をあげてくれた。その後、火葬され、みんなで骨を拾った。霊園のスタッフが骨の種類を解説してくれたけれど、小さすぎて違いがわからなかった。骨の一部を粉にして、クリスタルのような形の容器に入れて渡してくれた。

 ホワンの容態が急変したと連絡があったのは、帰宅予定日の前日のことだった。てっきり帰宅の段取り確認の電話かと思って出たら「とにかく、すぐに来て下さい」の一点張りだったので、こかりとたいこを連れてあわてて駆けつけた。病院についた時、ホワンはたくさんの管や機器につながれて、生かされている状態だった。「ホワンちゃん、ホワンちゃん!」って、何度名前を呼んでも、ピクリともしなかった。もう見ていられなくなったので、機器を外してもらった。

 なぜこんなことになったのかと先生に聞いても、はっきりとした答えは返ってこなかった。混乱した様子で「私たちにもわからなくて」と、繰り返すばかり、ぼくたちも同じように混乱していたので、後日詳しい話を聞くことになった。

 病院からの帰り道は、こかりが運転手を買って出てくれた。後部席でみすぼらしいダンボールに入れられたホワンを抱えながらぼくとたいこがワンワン泣いている中、こかりは前方を睨(にら)みつけるようにしながら気丈に運転をしてくれた。ホワンはもう、窓のへりに手をかけ、物珍しそうに外を見ることもできなくなったし、ちょっと不服そうな顔でぼくの膝の上に乗ってくることもなくなった。それに、なんだかすごく小さくなった気がする。ついこの間まで、ふてぶてしくかわいい顔で、のそりのそりと歩いていたのにね。

 先日、入院費の支払いに行った時に改めて話を聞いたのだけれど、結局はっきりしたことはわからないみたいだった。もしかしたら、ホワンに何かしら他の持病があったせいかもしれないし、もしかしたら、あの日は雪が降るくらい寒かったのでそのせいかもしれない。正直、もう理由なんてどうでもよかった。ホワンは死んじゃったし、そこはもう変えようがない。後悔はこれからもずっと残っていくだろうし、自分に対してのがっかりもずっと。

 ホワンが死んじゃってから1週間経つけれど、ホワンがもういないということをすぐに忘れてしまう。まだ家中に存在感が漂っているからかな。壁を見ればホワンの爪研ぎ痕が残っているし、その周りには、パラパラとホワンの薄い爪も落ちているし。テレビ台の下を掃除すれば、ホワンが隠したと思われるブラパが見つかるし、ホワンお気に入りのホットカーペットにはホワンのにおいが染み付いているし。ホワン・イズ・エブリウェア。

 昨日、アジの開きを食べている時も、ホワンがまた鼻をクンクンさせながらテーブルの上に飛び乗ってくるような気がして、思わず足元を確認しちゃった。ホワンがジャンプする時、距離を測るかのようにお尻をふりふりさせるのが、かわいかったな。

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【ミー】?

 朝からストレンジなことばかり。目をさましたはずなのに何も見えない。リボーンしたみたいにボディーが軽い。おまけに、昨日までのことが思い出せない。困った。だれかのにおいがしたので「ミーはここだよ!」ってさわいだらウォームでやわらかいものにつつまれた。ミルクのにおいがした。


【ねこようせいによる「ねことわざ」解説】

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Just like the fambly cat
(飼いねこのように)

「Just like a fambly cat」は実はねことわざじゃないんだ。これは、タイラー君が大好きだったGRANDADDYっていうバンドの最後のアルバムのタイトルなんだって。ねこが死ぬ時って、静かに、なんだか消えるようにいなくなっていることが多いでしょ? GRANDADDYも大げさに解散するのではなく、自分たちはいつの間にかいなくなっていて、音楽だけが残るような形で終えるのが理想だと思い、このタイトルをつけたんだって。

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毎月第1・3火曜日更新予定
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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイト:www.hypehopewonderland.com
Twitter:@nevermindpcp
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