村山由佳 猫がいなけりゃ息もできない 第3話「マイホームより子どもより、優先されること」
ここで、私自身と猫の関わりの話をさせて頂くと──。
生まれてこのかた、猫がそばにいなかった期間が一度だけある。
1989年の秋から1999年の春まで。つまり、25歳で最初の結婚をしてからの10年間だ。
(ちなみに結婚は二度して、二度とも解消しております。)
ともあれ、その最初の旦那さんとの2人暮らしを始めてすぐに、私は弾んだ気持ちで言った。
「猫を飼おうね。今すぐじゃなくても、いつかきっと」
私にとってそれは、マイホームを買うよりも、子どもを持つよりも優先される、生きていく上で絶対に必要不可欠な条件だったのだけれど、彼は即座に、冗談じゃない、と言った。
「いやだよ、猫なんか飼うの。臭いし、汚いし、気持ち悪いし」
「え、ぜんぜん臭くなんかないよ」
ものすごくびっくりして、私は言った。
「猫ってすごくきれい好きで、自分の身体は毎日隅々まで舐めるから、お風呂なんて入れなくても体臭は全然ないんだよ。つるつるのすべすべのふっかふかだよ」
けれど、彼は頑として首を縦に振らないのだった。
「猫のおしっこの匂いって最悪じゃん。外に出たその足で部屋に入ってきたりするしさ。呼んでも来ないし、気がつくとすぐ後ろに座ってこっちを睨んでたりして、薄気味悪いったらないよ」
不覚にも私は、そのとき初めて知ったのだった。夫となったその人は、猫のことをよく知らないばかりでなく、筋金入りの猫嫌いだったのだ。
※本連載は2018年10月に『猫がいなけりゃ息もできない』として書籍化されました。
※この記事は、2017年8月29日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。