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岡田育×千早茜『しつこく わるい食べもの』刊行記念対談 第5回「共感とは真逆の、ポジティブななにか」(全5回)

千早茜さんの食エッセイ第2弾しつこく わるい食べもの刊行を記念して、ニューヨークと日本で活躍する文筆家・岡田育さんとの初対談が実現しました。5回にわたりお送りしてきた対談連載、最終回は神保町の老舗甘味処「大丸やき茶房」さんからお届けします。
構成=編集部/撮影=山口真由子

※対談はマスク着用の上で実施し、終了後にお菓子をいただきながらソーシャルディスタンスを確保して撮影しました。

SNS時代のエッセイとは?

千早 エッセイを出すと、SNSやイベントで、感想ではなく「自分語り」をされることが多くないですか? あれはなぜなんでしょう。

岡田 うんうん、ありますね。私はわりとポジティブにとらえています。『ハジの多い人生』を出したとき、版元に便箋1冊分、100枚綴りの自分語りを送っていらした読者がいて。それだけの書くエネルギーを引き出すきっかけになれたとは、大変ありがたいなと思いました。ブログやSNS文化が出来て、誰でも自分の話を書けるようになった時代。誰かに読んでもらえるなら書いてみたい、と考える人が増えるのは、とてもよいことだと思っているんです。

千早 私もそれ自体はいいと思うんですよ。でも、それを著者に送ったり著者のSNSに書いたりするのは、何がしたいのかわからない。

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千早茜(ちはや・あかね)
1979年北海道生まれ。小学生時代の大半をアフリカで過ごす。立命館大学文学部卒業。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で泉鏡花文学賞受賞。13年『あとかた』で島清恋愛文学賞受賞、直木賞候補。14年『男ともだち』が直木賞と吉川英治文学新人賞候補となる。著書に『わるい食べもの』『西洋菓子店プティ・フール』『犬も食わない』(共著・尾崎世界観)『透明な夜の香り』などがある。

岡田 ああ、著名人にばかりコメントを飛ばして友達みたいになれなれしく話しかける人、いますね。みんなが注目している場で大きく騒げば、自分自身も注目してもらえるだろう、という発想。ブログに感想を書くのと、出版社気付でファンレターを送るのと、著者にSNSで話しかけるのとは、全部意味が違うのに、混同している。自分語りは自分のところで書いてね、と思います。

──SNSの時代にエッセイを発表することの面白さ、大変さがそれぞれあるんですね。

岡田 内田百閒の時代にSNSがあったら大変ですよ。

千早 百閒は当時ですらいろいろ言われていましたからね。でも、きっと鉄道オタクがめっちゃ喜びますね。

岡田 ですね。新しい発信媒体から新しい書き手が生まれてくるのは大歓迎、というか、私自身がその恩恵を受けてデビューした人間なわけですが、でもそれが行き過ぎた結果、昔からあるエッセイのカルチャーがなくなっていってしまうのは、ちょっと怖いなと思っていて。

千早 そうですね。今エッセイとされるものに、風景とか空気とか、そういう過ぎたら忘れちゃうようなものの描写が少ないのが私は気になります。自分の考えを述べるものが多くて、今はそれがエッセイだと思われているけど、昔の人のエッセイってもうちょっとぼんやりしているものも多かった。ただ散歩道を歩くだけとか。そういうのが増えてもいいのになと思いますけど、あまり需要がないんですかね。

岡田 特にネット上では、どれだけ今っぽいか、ということが重視されるので……今なら話の枕に『鬼滅の刃』を使う人がすごく多いけど、よく読むと筆者自身は『鬼滅の刃』にはまっているわけではない、といった文章が氾濫している。昔の随筆はもっと狭く深いというか、その人しか行かないような場所で、みんなが見落とすようなものを見て、飲み食いしたような話が、妙に熱っぽく面白かったりする。武田百合子みたいな、ああいうの、もっと読みたいですよね。「3日で効率よく金沢を回るにはこのルート!」といったお役立ち記事ばかりが「エッセイ」と呼ばれる世の中になると、ちょっと寂しいです。

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岡田育(おかだ・いく)
文筆家。1980年東京都生まれ。出版社で雑誌や書籍の編集に携わり、2012年よりエッセイの執筆を始める。著書に『ハジの多い人生』『嫁へ行くつもりじゃなかった』『天国飯と地獄耳』『40歳までにコレをやめる』『女の節目は両A面』。2015年より米国ニューヨーク在住。

いきなり歌いだす/殺しあうのはアリかナシか

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千早 ところでこの本、1話目の「悪党飯」からいきなりミュージカルの意味がわからないと書いているんですよね。いきなり歌って踊るのが理解できないと。岡田さんといえばミュージカル好きで有名なのに……! すみません。

岡田 大丈夫(笑)。私は逆に、千早さんがお父さんと一緒によく見ていたというギャング映画にあるような、「さっきまでにこやかに渋い会話をしてた同士がいきなり殺し合って死ぬ」みたいな展開のほうが理解できないですから。

千早 私は小さい頃から、いきなり殺し合うことはあるよなと思ってました。

岡田 いやいやいや、ない。

千早 父が武道をやっていて、人の気を読むということを本気で実践してたんですよ。たまに寝ている父の部屋にそーっと入っていくと、ぴくりともせずに「誰だ」と反応されたりするんです。いつでも戦えるようにしている人を見ていると、世の中は危険な場所なのではと思いましたね。

岡田 なるほど。そういうふたりならあり得るのか。ちなみにうちの夫は私と暮らし始めていきなり歌うようになりましたよ。「今日の~お昼は~サバー♪」みたいな。私がずっとそういうふうに歌っていたからなんですけど。

千早 かわいい。そういう人のことは好きです。自分は絶対にしないけど。

岡田 一緒に暮らしているとやがて千早さんも歌いだすように、

千早 ならない。

岡田 いやいや、人生何が起こるかわからないですよ。

千早 いや、ならない。

「かすれども重ならず」だから面白い

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──話していただくほどに、おふたりの考えや嗜好は、かするけれども真逆に行くことが多いですね。

岡田 そうですね。親近感と逆のポジティブな感じで……これを言い表す言葉ないかな。親近感ってなれなれしさと紙一重じゃないですか。そうじゃなくて、わあ、かするね! かするけど、遠いね! というこの感じ。

千早 そうなんですよね。妹がいるとか、年齢とか、海外経験とか、わりと近いものはあるんですけど、やっぱり全然違う。

岡田 そこが面白いというか、そういう人のものをもっと読みたい。

千早 いち書き手の願いとして、エッセイを読んで、「わかる」「共感」「私も~」よりも、「ここはわかるけどここは違う」とか「こんな人がいるんだ」とか、そういう発見を増やしてほしいな、というのはありますね。

岡田 そうですね。一緒に旅行して、旅先で同じもの食べて、帰って、それぞれにエッセイを書いたとして、全然別のものができ上がる。それが面白いと思います。かすれども重ならず、というんでしょうか。

千早 違いが楽しいんですよね。違う人間の目を、胃を、舌を楽しんでもらえたらと思います。

1冊目でびびった人にこそ「しつこく」すすめたい

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シリーズ第1弾『わるい食べもの』収録「男の甘味道」にも登場する、神保町名物「大丸やき」

岡田 私はこの2冊目を読んで、けっこうほっとしたところもありますよ。実は胃腸が弱い、という話とか。なので、1冊目を読んで「うわぁ恐ろしい、こんな人ととても同じ食卓を囲める気がしない」とびびった人は、ぜひ2冊目も「しつこく」読んでいただくと、びびった人ほど面白いんじゃないかなと思いました。こんなにおなかを下すのに、なぜこんなにパフェを食べに行くんだろうという謎は、謎のままなんですけど(笑)。

千早 自分の中では自分が一番普通なので、謎ではないんですよね。エッセイってそこが難しくて、タイトルも私は最初「ふたたび」とつけたんですが、担当T嬢が「しつこく」にしたんです。自分は普通でしつこくないと思っているから、私から「しつこく」は出てこない。そういう点で、他人の視点が大事なジャンルだなと思います。

岡田 「しつこく」、いいと思います。ツー(2)じゃないんですよね。

千早 これで終わると思っていたんですよ。そしたら、装丁のデザインがシリーズものみたいな感じになっていて、あ、これ続くのか! と驚愕しました。

岡田 百年後の人はどの順番で読めばいいのかわからなくなるけど、どこから読んでも楽しいという、昔ながらのエッセイスタイル。

千早 スリーには、岡田さん登場させていいですか。

岡田 ぜひぜひ。

千早 ひとまずご飯を一緒に食べに行かないといけません。

岡田 行きましょう、ぜひぜひ。

──Oさんの登場はいつになるのか……乞うご期待! ということで本日はおふたりとも、ありがとうございました。

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取材協力:大丸やき茶房(東京都千代田区神田神保町)

- おわり -

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千早茜『しつこく わるい食べもの』刊行記念
対談 岡田育×千早茜(全5回)

※千早茜『しつこく わるい食べもの』の詳しい内容はこちらに。


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