賽助×渡辺優【並行宇宙を生きるふたりのぼっち 全5回】 (5)人生のトライアンドエラー問題
トライアンドエラーを繰り返してこなかった結果がこれ
賽助 「ピアノ」の話で書かれていた、「やったことないけどできそう」みたいな感覚って僕も子供の頃すごくありました。僕は中学のときに「野球ができる」と思っていて。野球以外にも、ギターとか弾けるなって思っていたんですね。でも、実際に手にしたら全然弾けない。そうやって自信満々で色々やっては壁にぶつかって、あっ、自分はそんなに大したことなかったな……と気づいていって今がある感じです。今でもまだ思われたりします? あれはいけそうだ、みたいな。
渡辺 そうですね。そうやってちゃんとトライアンドエラーを繰り返して、できないと学ぶことなく、生きてきてしまったので。まだけっこう余ってます、できそうなやつが。
賽助 ここ最近では何かありました?
渡辺 やっぱり1位はゴルフですね。
賽助 僕もゴルフは絶対できる。一度だけゴルフの練習場に行ったんですけど、すぐここに球があるのに当たらないんですね。そんなことはないだろうと思って何度やっても、当たらなくて。不思議でしょうがない。ゴルフ練習場のあれはできないということはわかった。でもちゃんとしたゴルフ場に行けばできると思います。あとゴルフって40歳ぐらいの人がやるイメージがあるから、今やっと、年齢が追いついたかもしれない。
渡辺 ゴルフをやるには若過ぎた。私はダーツとかビリヤードもそうで、絶対うまいと思っていて実際はあまり刺さらなかったりしたんですけれど、でも、まだいけるっていう気持ちがある。プロの指導を受けたりとかすればきっと。
賽助 開花する可能性がね。自分は今こういうふうに人生送ってきましたけど、もっと他に華々しい、なんだろう、つり輪にすごい才能が発揮できたんじゃないかとか。すごいきれいな倒立ができたんじゃないかって。
渡辺 2歳くらいからやっていれば今頃……。
賽助 つり輪なかったんですよね、家に。あったらなあ。惜しいことしたな。渡辺さんはピアノ以外の楽器だと、和太鼓をやっておられたとか?
渡辺 いや、本格的にやられている方の前ではとてもとても。小学校の伝統芸能クラブで触る機会がありまして。夏祭で演奏したんですが、黒歴史です。
賽助 えっ、和太鼓でそんなに黒くなることありました?
渡辺 やっているときは楽しかったんですけれど、太鼓ってポーズで見せるみたいなところがあるじゃないですか。でも写真を見返してみると、私だけすごい変。ひとりだけすごくずれていたり、明らかにこの子は下手だなってわかるんです。あんなに頑張って練習したのに、こんなもんかと落胆しました。
賽助 なるほど。バチの向きとか、色々ありますよね。
ぼっちは部活を1年でやめがち
渡辺 賽助さんが「野球部だったのを信じてもらえない」と書かれていたのもすごくわかります。私は中学の頃、剣道をやっていたんですけれど。
賽助 えっ、それは確かに信じてもらえなさそう。スポーツごとに何かイメージがあるんでしょうね、人が思い描く平均値のようなものが。野球をやっているやつはちょっと粗暴で坊主で眉毛が細くて、教室で自分の机のフックにトイレットペーパーをつけているとか……これはあくまで僕の偏見なんですけど。そういうイメージから僕はかけ離れているから、信じてもらえないのも仕方ないなとは思う。剣道はいつぐらいの話ですか?
渡辺 中1から中2までです。
──賽助さんの野球歴とほぼ一緒ですね。
賽助 どうして剣道だったんですか。
渡辺 私ほんと血の気が多くて。空手とか柔道とか、とにかく戦うスポーツがやりたかったんですね。戦う系は剣道部しかなかったので入ったんですけど、ほんと弱くて、1回も勝てなかった。
賽助 でも、入るときはやっぱり「いける」と思った。
渡辺 そうなんです。でも素振りの段階で、あっ無理だって気づいて。あとはもうやめるタイミングを探りながらの1年間。
賽助 その後、部活は?
渡辺 もう部活がないことの喜びが大きすぎて、帰宅部です。
賽助 なるほど。僕もほとんど同じです。
渡辺 ぼっちになる人間の人生、何か共通点があるんですかね。
賽助 部活だと、1か月とかで抜けられない空気があるじゃないですか。だから区切りのいいところまではやって、解放されて喜ぶ。そういう傾向はある気がする。ここが分かれ目なんでしょうね、ずっと続けられる人との。
渡辺 続けられる人は、ずっとその仲間たちと一緒にいて、ぼっちにならないのかも。
賽助 芽生えるんでしょう、汗と涙の友情が。1年間だとたいして汗かかないから、芽生えない。
渡辺 やめた後、ちょっと気まずいし。
賽助 もう仲間じゃないですもんね。あれはすごいですよね。やめたやつになる。やめていなかったらどうなったのかな、と、ふと思ったりもしますけど。
暗く孤独な部屋から、日の下に出たゲーム実況
渡辺 そんな中、10年以上続けられているゲーム実況ってすごいですよね。
賽助 でも、元々は僕ひとりでずっとやっていたんですよ。ゲーム実況黎明期は、暗い部屋でひとりで声も出さずにゲームやって、字幕で解説入れたりして投稿して、それを見て楽しむという孤独なものだった。でも文化がちょっとずつ発展していくと、やがてそれぞれが交流を持ちはじめるんですね。オフ会で「一緒にやってみようか」ってグループができたりとかして。今は世間にも浸透してきて、日の下に出たというか、明るいイメージがつきはじめた感じですね。
渡辺 そうですね、明るいイメージです。
賽助 まだ若い文化なので、今後どうなっていくかはちょっとわからないですけど。今のところは追い風というか、ありがたい方向に進んでいる感じです。ゲームやって見てもらって、ややもしたら褒められるなんて、ちょっと前ならあり得ない。
あと、負け続けたりとか、下手くそでも楽しんでもらえる表現があるのはありがたいことですね。野球でずっと三振し続けていたら下手くそって言われるのが関の山ですけど、ゲームを見てもらうのは、下手でもそれが面白いという面があるので。
渡辺 確かに楽しそうで、うらやましいなと思いました。
賽助 楽しいですよ。
渡辺 みんなでやるゲームに憧れがあるんです。でもまだプレステをネットにつないだこともなくて。
賽助 確かに、ひとりでできちゃうゲームを誰かと一緒にやるのってすごくハードル高いですね。ゲームでも誰かとつながることが求められる時代になってきたなと思います。例えば「どうぶつの森」も、僕はひとりでやっていたから、ずーっと島にある果物が変わらないんですよ。人からもらえないから。ちょっと寂しい。
渡辺 私も頑張ってネットにつなごう。今、乗り遅れたら永遠に乗れない気がします。
フシギバナが好きな人、ピカチュウが好きな人
渡辺 賽助さんの本で、ここはと思ってふせんを貼ってきたのがフシギバナのところ。私、ポケモンで一番好きなのがフシギバナなんです。フシギバナの評価として「若干かわいさの面では落ち着いていると思われるフシギバナ」と書かれていて、すごいわかる! と思いました。
賽助 かわいいに振っていない造形ですよね。
渡辺 そうなんです、ピカチュウほどかわいさに振っていない。
賽助 完全に両生類というか、カエル的な、虫を食べそうな感じ。アニメだと「バナ」ってしゃべるでしょ。バナって、ねぇ(笑)。
渡辺 濁点ついちゃってますからね。でもそれを「かわいくない」ではなく、「可愛さの面では落ち着いている」という表現が素晴らしいです。
賽助 よかった(笑)。だってかわいいんですよ。とがっていないじゃないですか、基本的に。丸みがある。でもぱっと見のかわいさでは他に負けちゃう。
渡辺 そう、ピカチュウほどは。でも一番好きなのはピカチュウですって言えるのは、かなりの陽キャだと思う。
賽助 それはそうかも。
──「ポケモン占い」をやると、陽キャの人はけっこうピカチュウになるんですよ。陰キャの人はディグダになるらしいです。
賽助 陰キャはモグラか。後でやってみようかな。
渡辺 ポケモンならどれでもうれしい。外れがない。
──コイキングでも?
賽助 将来に期待です。
渡辺 伸びしろがある。
賽助 伸びしろ以外ない。
渡辺 ……またゲームの話になってしまいましたね。
──ゲームを通してそれぞれの人生が見える対談でした。ポケモンの話でさらに1時間くらい話せそうな雰囲気ですが、本日はここまでということで。ありがとうございました。
色紙を書くところをお互いに見守るおふたり。
「賽助さんの猫のハンコかわいいですね」と渡辺さん。
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おわり
【並行宇宙を生きるふたりのぼっち 全5回】