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パフェは時計か、宝石か。|斧屋「パフェが一番エラい。」第20話

 目の前にパフェが供された瞬間、「宝石みたいだな」と思った。上から見たら形は花びらのようだけれども、日の光を受けてキラキラと輝くそれは、宝石のように見えた。
 渋谷のFabCafe Tokyoで、パフェ職人Srecette氏(注1)による限定パフェ「Srecette 21st Parfait『zéphyr』」を食べたときのことである。
 パフェを宝石の比喩で捉えるのは珍しいことではない。等々力(とどろき)の「パティスリィ アサコ イワヤナギ」では、特に高級な果物をふんだんに使用したパフェに「パルフェビジュー」(注2)という名を冠してきた。また、京都の鉱物カフェ「ウサギノネドコ」(注3)で昨年来提供している「水晶パフェ」は錦玉羹(きんぎょくかん)を削って水晶に見立てたパフェで、SNS上でも大きな話題となった。パフェの魅力がそのビジュアルにも大きく依存する以上、美しさの象徴的存在である宝石とパフェが関係づけられるのは自然なことであろう。

 ところが、である。
『zéphyr』の話に戻ろう。四季春茶ソルベ、メレンゲ、グレープフルーツジュレ、キウイソルベ、グレープフルーツソルベ、四季春茶プリン、マスカルポーネクリーム……。香り、食感、酸味、甘み。これはなんと精巧にできた作品だろうか。一片の無駄もなく、また一片の余分もない。それぞれのパーツがそれ自体の役割を全うしつつ他と有機的な連関をなし、一つの調和した全体ができあがっている。……ふと、時計が頭に浮かんだ。精密な、機械仕掛けの腕時計。

 パフェは宝石か、それとも、時計か(注4)。

 宝石の原石は、自然の産物である。それを人間の技術でカットし、磨いて、より美しく仕上げる。人の手を離れたところで奇跡的な美が生まれている不思議さ、神々しさ。それが宝石のもつ神聖性だ。だから、神からの贈り物のように捉えることもできるだろう。一方、時計は技術の限りを尽くした人工物であるが、その究極品は「神業」と称されることもある。
 つまり、神聖性には二つのベクトルがある。神的なもの(無限)が、人間の世界(有限)に現れることによる神聖性と、人間の技術(有限)を突き詰めた結果、「神業」(無限)に到達したことによるそれである。

 パフェに尊さを感じる場合も、このどちらか(またはその両方)ではなかろうか。「こんな尊いもの(神的なもの)が私の前に降臨された」と思うか、「こんな美しいものを作れる人がいるのか。神がかっている!」と思うか。
 このパフェの神聖性の2つのベクトルは、以前に述べた「フルーツパーラー系」と「パティスリー系」の2つの思想と多少の連関がありそうだ。フルーツは天の恵みであり、フルーツ果肉を強調したパフェは「降臨」感が強くなる。一方「パティスリー系」はパティシエの技術による素材の組み合わせを重視するため、人の技術の結晶としてのパフェという捉え方をしやすい。ただし、フルーツも人間の技術によって品種改良、栽培されることでおいしくなるものでもあり、「人為的である/ない」の区別は自明ではない。

 さて、宝石と時計の共通点は、小さいながら非常に高い価値を持つということ、すなわち豊かさの象徴であり、プレゼントにも好まれ、自らに対するごほうびでもありうること。およそこのあたりの性質は、パフェにも通ずるものがある。ただし、パフェがどんなに高くても1万円程度である(注5)のに対し、宝石や時計は億を超えるものもあり、そこには数千倍、数万倍の価格の開きがある。
 その価値の違いは、時間を超える存在であるかどうかによっている。宝石は悠久の時を経て地球が生み出したもので、硬度が高く耐久性があり、長きにわたって輝き続ける。時計は、まさに長く時を刻むために創られたものであり、数年、数十年というスパンで使い続けられる。一方、パフェは作られた瞬間に最も輝き、すぐに食べなければ、あっという間に溶けて崩れて価値のないものになってしまう。

 パフェ職人Srecette氏のパフェ「zéphyr」(ゼフィール)の意味は「そよ風」。パフェはそよ風のように、優しく過ぎ去ってしまうはかないものである。しかし、それを食べるたった十数分の間に、私の思索は宝石へと、時計へと果てしない旅をした。すごいパフェだ。
 やっぱり、神様が作ったパフェなのでは? ……「ゼフィール」って、ギリシア神話の西風の神様「ゼピュロス」に由来するらしいし。


※注1:「パフェを1つの表現として、試作、撮影、仕込み、当日の組み立てまで全て一貫して行」うパフェ職人(Srecette氏のツイッターアカウントのプロフィールより)。エスルセットと読む。
※注2:「ビジュー」はフランス語で「宝石」。「パルフェビジュー」は商標登録されている。
※注3:自然の造形物を扱うお店に併設されたカフェ。「鉱物標本、植物標本、骨格標本など、様々な自然の造形物に囲まれた博物館のような空間」(公式HPより)。https://usaginonedoko.net/kyoto/cafe/
※注4:念のため書いておくが、私は宝石にも時計にも詳しくない。あくまでイメージの話である。
※注5:国産の高級フルーツ(マンゴーなど)を使用したパフェで、1万円を超えた事例がいくつかある。

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▲FabCafe Tokyo「Srecette 21st Parfait『zéphyr』」
つまりは、宝石をちりばめた時計ということなのか?(違う気もする)

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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter:@onoyax
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