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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第5話「ねこだって王様を見てOK/A Cat may look at a king」

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【ぼく】12月6日

 隣人ジョーの奇行が止まらない。ホワンホワンを携帯カイロ代わりにずっと抱っこしているような寒い日に、上半身裸で六法全書を音読しながらうろうろしていたり、「テレビうるさい!」と急に怒鳴り込んできたり。うちにはテレビないのに。しかし、そのことを説明すれば「あ、すみません」と頭を下げて帰っていくし、音読はドアを閉めれば聞こえないので気にしないようにした。しかし先週、ホワンホワンの脱走事件があった際、ジョーがとうとう一線を越えたので大家さんに相談しに行った。この時のジョーの行いは許しがたいけれど、恐れをなしたホワンホワンがそれ以来脱走を試みなくなったのがせめてものプラスかな。

 結論から言うと、大家さんは何ひとつ解決策を提示してくれなかった。それどころか、どこかジョーに同情しているようにすら見えた。

 大家さんによると、引っ越してきた当初のジョーは礼儀正しい好青年だったらしい。弁護士になることを夢見て、かれこれ十数年、毎年司法試験にトライしているのだが、結果は芳しくないらしい。最近は段々と追い詰められているように見えたので大家さんも心配していたとのことだった。それに言葉を濁しているが、どうもぼくの部屋の過去の住人たちは皆、ジョーとのトラブルで出ていったようで、ぼくらも退去を考えているのではと心配されているようだった。

「でもさ、彼も根はいい人間だし、夢に向かってがんばり続けるのは素晴らしいことだから大目に見てあげてよ」そう言って大家さんは笑った。「そういえば、君も同じだったよね、ぼくはね、君たちのように一生懸命夢を叶えようとしている子を応援したいから、こんなに安い家賃で部屋を貸しているんだよ。だからがんばってくれよ!」


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【ミー】December 9th

 オシロのせまさにうんざりしていたミーは、どうにかしてアウトサイドのフリーワールドにでられないものかと、かんがえていた。そんなとき、コカリがバックヤードにつづくウィンドウをあけっぱなしにしたのだ。ランドリーをドライしようと、ウィンドウをあけたところで、モバイルフォーンがなったようだ。コカリがいつものようにロングロングタイムはなしているあいだに、ミーはゴーストのようにこっそりとバックヤードにでた。

 やったぞ! ミーはフリーキャットだ、もうだれにもとめられない。タイラーとすんでいたニューポートビーチとちがい、ここはさむいし、シーブリーズもかんじないが、アウトサイドはやっぱりひろくてさいこうだ。いまのうちに、このバックヤードをたんけんしようとしたところで、ハートがとまりそうになった。バックヤードのすみにネイキッドなモンスターがかくれていたのだ。タイラーたちが「ジョー」とよぶそのモンスターはミーを見てスマイルすると、

「ねこねこねこねこ、かわいいね。ねこねこねこねこ、こっちにおいで」とストレンジなメロディーをチャントしながら、ちかづいてきたのだ。ミーはこわくてうごけなかった。まだニューライフがはじまったばかりだというのに、このモンスターにつかまってエンドなのか?

 そんなとき、「う、うちのにわでなにをしてるんですか、しかもすっぽんぽんで!」というタイラーのたよりないイエルがきこえたとおもったら、モンスターはすごいはやさで、エスケープした。ミーもあわててオシロにもどったら、からだがぶるぶるとシェイクしていた。アウトサイドはなんておそろしいんだ。もうネバーエバー、でないことをきめた。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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A Cat may look at a king
(ねこだって王様を見てOK)

「どんな身分であっても、それなりの権利はある」って意味だよ。心配されているからとはいえ、あれもダメ、これもダメって言われたらそりゃあホワンちゃんだって、ストレス溜まっちゃうよね。外が怖いなら、家の中でストレス発散するしかないということで「オシロ」の壁や柱が、引っかき傷ですごいことになりそう……ちなみに今回置いてあったシングル盤は、Wham!の「Freedom」。たいら君が小学生の時に買ったレコードなんだって、いつまでも色褪せないキラキラ80年代の宝物だって言ってました。

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毎月第1・3火曜日更新
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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2019年8月6日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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